寝返りたい
『誘爆の呪い』を悪用してクレアを操り人形にしてからひと月ほどが経過した。
その間に不死族たちは魔法により変装させたクレアと一緒に『ネクロ』周辺に存在する街や村を周り、不死族とは、モンスターのアンデッドと同様、死を弄び世を彷徨う化物であるというウルザが流した噂を払拭する活動に精を出した。
そのお陰もあり、『ネクロ』周辺の者たちだけであるが、不死族に対して理由なく嫌悪感を抱く者たちは減ってきていた。
「本当はもう少し不死族の評判を上げる活動を行いたかったんですが……潮時ですね」
「ううん。十分。レヴェトももう一度ウルザによる流布がなければ、クレアの『精神傀儡』が消えても問題なく交流が続けられそうだと報告してる」
「それなら良かったです」
直接『精神傀儡』で不死族に好意を持つように操るのではなく、偏見を排除し地道に交流する方法を選んだことで、ペース自体は遅くなったが、『精神傀儡』によって作られた偽りの信頼ではなく本物の信頼を築けた者も多くいるため、今後も交流は続けられるだろう。
「まあどっちにしろ、これ以上は危ないからな」
「うん。今は嫌疑の段階だけど、そろそろ誰か『ネクロ』に送られて来てもおかしくない」
当初の予定ではもう少しクレアを使った不死族のイメージアップ戦略を続けるつもりであったのだが、ウルザ陣営が本格的にクレアを探し始め、クレアを拐った街『スチル』には、多くの勇者たちが訪れていた。
一応、レイアや不死族の者たちはクレアに接触する際、細心の注意を払っていたが、『ネクロ』と『スチル』がそれなりに近くである点。最近『ネクロ』の近くの街や村で急激に不死族との交流がなされている点など、調べ始めれば怪しい点は幾つも出てくるだろう。
「クレアと不死族が繋がっているというのが露呈すること自体が目的ではありますけどね。でもただ死亡してウルザの元に送られるのももったいないです」
「もったいない……」
「なので今回の作戦で、クレアには最後に一花咲かして散ってもらおうと思います」
クレアと不死族の関係が露呈した状況では死亡し、ウルザの元に魂が送られれば、ウルザはクレアを裏切り者と断定し蘇生させないだろう。というのがクレア拉致作戦の主目的であった。
しかし折角のクレアという駒を単純に死亡させるのはもったいないなと、このひと月大河は考えていた。そんな中、先日獣神ライカロープから報告があったのだ。
「シーラ様。ライカロープ様の元にウルザの従属神の何柱から寝返りの打診が来たんですよね?」
[は、はい。そこまで直接的にではないようでしたが]
「まあレイアさん情報によると、ウルザ陣営は一斉粛清を行ったりと、俺の予想以上にぼろぼろみたいですからね」
「……だけど、危険。本当に身の危険を感じて助けを求めてる神様もいるかもだけど、そうじゃなくて、タイガやシーラ様の情報を探る目的で裏切りを装う神もいると思う」
[はい。ライカも一応私たちに判断を委ねると返事は保留にしてくれていますが、受けない方が良いだろうと言ってました。ですが、タイガさんは受け入れるのですよね?]
「はい!」
ライカロープから報告とは、ウルザ陣営からライカロープ陣営に寝返りたいと言ってくる神が何柱かいるのだということであった。
現在、独立している勢力としてみると、二大勢力であるウルザやルフェルとはかなり差はあれど、三番目、四番目程度には勢力を保持しているのが獣人の主神たるライカロープである。ウルザ陣営と一番敵対しており、自分たちの信者にも決して受け入れられないだろうルフェルに寝返るよりはまだ可能性のある選択肢がライカロープなのだろう。
実際本当にウルザに従属するのにうんざりし逃げたい神もいるかもしれない。しかしその大半は蝙蝠。ウルザ陣営目下最大の悩みの種である、大河という存在が何とかなれば後ろ足で砂をかけて去っていく者が大半であろう。
そんな寝返りを受け入れるリスクが大きすぎる話であるが、その話を聞いた大河の嫌がらせセンサーが反応したのだ。
「寝返らせた上で偽物の俺の情報を持ち帰って貰いましょう。もし本当にウルザに愛想を尽かしているのなら良し、蝙蝠野郎なのだとしたら、偽物の俺を捕らえようと大挙して押し寄せてくれるでしょう」
「そこをクレアで一網打尽か。それでその一網打尽にした連中はどうするんだ?」
「……勇者クレアが率い、構成員も全員ウルザ陣営の集団が出来上がりますからね。やりたい放題になりますね」
「……楽しそう」
「はい!」
ある程度の規模のウルザ陣営が手に入るとなれば、できる嫌がらせの幅は広がる。
本来寝返りの寝返り、二重スパイのような者の存在などいない方がよい筈なのに、むしろそういう存在が今回の者たちの中に混じっていることを願う大河なのであった




