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鼓膜破りではなく耳栓

 大河とレイアは操り人形クレアの扱い方について大まかなレクチャーを終えたので『リュートの遺跡』に戻ってきていた。

 レイアとしては宗教改革を自領で行われた魔神ルフェルの動向がまだ気になる。そのためもう少し『ネクロ』に留まりたい様子であったが、大河の説得によって一旦2人でシーラの元に戻ってきた。


 ただ、レイアとしては納得はしつつも不満そうであった。そんなレイアを見てイージスはレイアたちに問い掛ける。


「……タイガは兎も角、レイアはまだ『ネクロ』に待機していた方がいいんじゃないか?」

「私もそう思った。でもタイガが駄目だって」

「駄目とは言ってませんよ。ただ戦力過剰になりすぎても危険なので戻りましょうと説得しただけです」

「戦力?」

「はい。これから『ネクロ』には、クレアが頻繁に訪れる事になります。そうなると魔神視点だとウルザ陣営は、切り込み隊長のレイアさんだけでなく情報戦のスペシャリストであるクレアを『ネクロ』に集結させていることになります」


 大河やレイアが『ネクロ』にいるとなれば、魔神視点では『ネクロ』は囮に見える。下手に干渉するよりも放置した方が被害が少ない単なる囮に。

 しかし、そこにクレアが加わると途端に放置する方が被害が大きな遊撃部隊に早変りする。そうなると、ある程度の被害を覚悟の上で魔神陣営が兵を差し向けてくる可能性が上がってしまうのだ。

  

「なるほど」

「これから不死族の皆さんにはクレアを使って外交に力を入れてもらう予定ですから。魔神陣営からのちょっかいは勘弁して欲しいんですよね」

「だが、クレア1人でも危険と見なす可能性はないか?」

「まあ無くはないですが……俺たちがそうしようとしたように、クレアは下手に倒して居場所が分からなくなる方が厄介なタイプですから」

「確かにな」

「逆に『ネクロ』周辺にいるって事が判明しているなら、そのまま監視はしつつ放置するのが魔神陣営的には最善すらあります。まあ全て可能性の話ですが」


 クレアがいるだけで『ネクロ』の脅威度が上がることは確かである。とはいえクレアの『精神傀儡』が真価を発揮するのは、捕虜などの尋問か奇襲などで不意に飛んでくる精神支配である。

 居場所が分かっている状況であれば放置してもそこまで問題ではない。

 クレア憎しと採算度外視で攻め立ててくる可能性はあるがそこまでは考えても仕方がない。現状で『ネクロ』を守る事を考えれば、クレアだけがいる状況がベストである。


「だからか。上辺だけとはいえ、クレアに『ネクロ』を任せる形になってしまったことに、レイアは不満な訳だ」

「……違う」

「まあ、ですがこの状況を作れたのはレイアさんがクレアを拐って来てくれたからですから。レイアさんが、不死族の皆さんに魔除け人形をプレゼントしたと思ってもらえれば……余計悪くなりましたか?」

「なったな」

「……ううん。大丈夫。気持ちは受け取った」

 

 クレアに任せるのも嫌なのに、余計な情景まで追加してしまったが、大河たちの宥めようとする気持ちを受け取りレイアは機嫌を取り戻す。


「それにしても、あのクレアを倒すんじゃなくてよく拐えたな。普通なら近づくことも躊躇う相手なのに」

「クレアの『精神傀儡』は直接触れられたら抗うのは、それこそ抵抗系のユニークスキルが必要なレベルだけど、声による命令はそこまででもない。命令を発する前に気絶させればそもそも大丈夫。今回は耳栓で防いだけど」

「命令が聞こえなければ操られないか。それにしても耳栓で防げるのか」

「単なる耳栓ではないですけどね。聴力に優れている獣人族の方々専用に作られた、高性能な耳栓です。圧倒的な遮音性と装着者の意思でオンオフ切り替え機能付きです」


 クレアが『精神傀儡』を発動する方法は、主に二つ存在する。

 その内の1つである命令による『精神傀儡』は、命令さえ聞こえなければ操られない。そのため今回レイアが活用したのが、聴力が良すぎる関係で音波攻撃などの的にされやすい獣人族のために開発された耳栓であった。


「このオンオフの切り替え機能のお陰で普通に会話できてたから、クレアも命令が通用すると油断してた」

「なるほどな。まあクレアの実力では貴方に触ることは叶わなかっただろうがな」

「そうだね。クレアも最初は『精神傀儡』を使って前線に出ようと思ってたけど、その厄介さから敵陣営から執拗に狙われ始めてから最低限しか鍛えなくなったからね」

「なるほど。牢屋で話したときも何か凄く死を恐れているなと感じましたが、そういう歴史があるんですね」

「……タイガ、それはどちらかと言えば貴方が死を恐れ過ぎていないだけだろ」


 レイアやイージスのように戦闘能力が備わっていれば『精神傀儡』で敵を操りながら戦える最強の戦士となれるだろう。

 しかし、そうなると堪らない魔神陣営に狙われた過去があるため、自陣に引き籠り鍛えることも止めた結果、現在操り人形にできたといえる。


「……まあ何はともあれ、しばらくは様子見ですね。『自爆』強化法は少しずつ形になってきていますが、不死族の評判回復は少なくとも、ひと月単位で掛かるでしょうし」

「話を逸らした……うん。そうだね。しばらくは地道に魔獣やモンスターへ宗教改革をしながら待機?」

「そうですね。次、大胆に動く時はライカロープ様とエルフィード様、そして『ネクロ』とも息を合わせて動きたいですからね。ですので……イージス様はそれまでに心の準備をしておいてください」

「シーラ様の勇者として動く覚悟はできているつもりだが……気遣いはありがたく受け取っておく」


 今回『ネクロ』に領域を設置したことで、『リュートの遺跡』にイージスを張り付けておく必要は薄れた。

 そのため、晴れてイージスも自由に動いてもらう事になる。しかしそうなると安全性や転移による移動性などの観点から無宗教のままにはしておけない。

 そのため、この待機期間はイージスにとっては一時的に天神アマタとの繋がりを絶つための覚悟と、そして必ず天神アマタを復活させるという覚悟を決めるための期間となるのであった。

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