クレアの活用法
『不死の呪い』によって蘇生した大河は、レイアや今回の作戦に参加してくれた不死族の者たちが自分の周りに集まっていることに気が付く。
一瞬、何か不足の事態が起きたのかと心配したが、直ぐにレイアたちは純粋に自分の心配をしてくれているのだと理解する。
「……大丈夫ですよレイアさん。『精神傀儡』は死亡ペナルティによってリセットされてます」
「胸は痛くない?」
「大丈夫です。レイアさんの突き方が良かったので、俺は殆んど痛みを感じませんでした」
「なら、よかった」
レベルやスキルなどと同様に、デバフや状態異常も死亡することによってリセットされる。ユニークスキルはその中の例外ではあるが、ユニークスキルによって付与された状態異常までは対象外である。
とはいえ、そんなことは当然レイアも分かっている。しかし『不死の呪い』と『精神傀儡』を同時に受けた勇者など『神々の聖戦』が始まって以来初めての事だろう。
それに加えて今回は『精神傀儡』を誘爆させた状態を維持させなければならない関係上、『自爆』をする訳にはいかず、レイアに心臓をひと突きしてもらったため、余計に心配になったのである。
「よく考えれば『自爆』以外で死亡するのは初めてですから、なんだか新鮮です」
「死亡しないに越したことはない」
「まあそれはそうですね。気を付けます」
リスクの大部分をウルザに押し付けているからこそ、大河の中で死がどんどんと軽いものとなっているが、本来は勇者であろうとそう易々と死亡してはいけないのだ。
日課が自爆になってしまった大河が、一般的な価値観を取り戻すのはもう手遅れである。しかし嫌がらせを主とする者として、一般的な価値観を理解しておく事は重要であるだろう
そんな少しずれた決意をした大河は、大河が目を覚まして以降ずっと牢屋の中で放置されているクレアに話を移す。
「……というか俺の事よりも、シンドウ・クレアはどうですか?」
「しっかりと誘爆してる。今は自分に対してより深い『精神傀儡』を掛けさせている所」
「あ、ありがとうございます。取り敢えず第一段階は突破ですね」
「うん。タイガの演技のお陰」
「はは、まあ回りくどいやり方だとは思いますが、念のためです」
クレアに『精神傀儡』を掛けられた状態で死亡することで『精神傀儡』を跳ね返す。それだけの作戦であれば、クレアを拐う事ができた段階で、脅すなりして強制的に『精神傀儡』を発動させれば良かった。
しかし、それを行うということは、大河はシーラ陣営を抜けてなどいないという事を、少なくともクレアには知られる事となる。
今回の作戦が完全に大河の目論み通りに進めばクレアに知られようとも問題は無いが、そうならない場合も想定しておく事にしたのだ。
「クレアが許されなければ、ウルザは『精神傀儡』という手札を失いますし、許されたとすると、従属神内に裏切り者がいるという誤情報の信憑性が更に増し、ウルザ陣営は混乱する。どっちもお得ですね」
「うん」
大河は、シーラ陣営から逃げ出し、ウルザの従属神の1柱に保護されたが結局レイアに捕まってしまったオリガミ・タイガを演じた。
これでもし仮に今回の作戦が失敗し、ウルザ陣営に情報が流れても、余計に混乱するだけだろう。
「さてと。あとは、操り人形クレアの使い方についてですね」
「……『精神傀儡』を使って不死族の評判を良くする?」
「はい。そのためには不死族の皆さんの協力が必要ですが」
大河はそう言い、周りで大河とレイアの話を聞きながら、なぜか羨望の眼差しを向けてくる不死族の者たちの方に視線を向ける。
すると代表して不死族の族長であるレヴェトが返答する。
「勿論、協力は惜しみません」
「ありがとうございます。取り敢えず、クレアを使って、ウルザが吹聴したせいで特に人族圏で生じている不死族の嫌悪感を薄めていきます」
「嫌悪感を薄める……ですか」
「『精神傀儡』を使えば、好意を向けるようにしたり、それこそ信者にしたりすることもできます。ですがもし『精神傀儡』が解除されてしまったら、後に残るのはスキルによって歪まされたという恨みだけです」
「……確かに。それはそう」
「ですので時間と手間は掛かりますが、嫌悪感を薄め、実際に交流する機会を増やすのが不死族の評判を良くする近道だと思います」
クレアを使い、ウルザが流した噂によって人族が持ってしまっている嫌悪感を薄め、実際に交流する機会を増やす。
実際に交流し不死族も自分たちと殆んど変わらないと実感すれば、噂を信じ込む事はなくなるだろう。
「中々、時間が掛かる」
「そうですね。ですが、今、人族圏はウルザのせいでごたついていますので、意外とすんなり不死族が受け入れられるかもしれませんよ」
勇者や優秀な信者の多くが、裏切り者を探すべく駆り出されているウルザ陣営では、死を冒涜した存在という誤解だけがネックであるが、その他は優秀な不死族の需要は高いかもしれないと大河は考えているのであった。




