宗教改革を終えて
レイアと不死族たちによる宗教改革は、当初の予定よりも驚くほど早く完了した。いくら魔神陣営に露呈しないようにひっそりと行う計画からスピード重視に切り替えたからといってこれ程、日程が短縮されるとは、指示した大河も思ってはいなかった。
そのためレイアとシーラの神託通話に混ぜてもらった大河は少し興奮気味であった。
「お疲れ様ですレイアさん!」
「うん。一応、予定されていた地点における魔獣たちの勧誘は完了した。そっちでも確認できる?」
「はい。レイアさんや不死族の皆さんが信者化してくれた魔獣たち以外も信者化が進行しており、支配領域も幾つか形成されていますよ!」
「それは良かった」
「それにしても、早かったですね」
「それは、不死族の皆が魔獣たちの分布について詳しかったお陰」
今回の宗教改革では、信仰が浅く簡単に勧誘が可能そうな魔獣に狙いを定めて勧誘をしている。つまり魔神陣営が直接目をかけることもしないような低位の魔獣たちである。
そして、不死族たちは日常的に魔獣の生存圏に入り狩猟等を行っているため、どんな魔獣がどこら辺に生息しているかといった、おおよその分布を把握している。今回その情報が作戦の時間短縮に大いに活かされたのだ。
「本当に助かります……それで、魔神陣営からの反応はありますか?」
「魔獣たちを動かしてシーラ様の支配領域になった場所の確認をしているくらい? 少なくとも不死族や『ネクロ』には何もしてきてない」
「なるほど、確認ですか」
「うん。確実に私たちの仕業ってことは向こうに伝わっている。その上で私たちに何もしてこないなら、ウルザに首謀者を押し付ける案は成功してると思う」
単にレイアや不死族が不振な動きをしたというだけであれば、魔神陣営程の勢力であれば、即座に支配領域や『ネクロ』に襲撃を掛けてくる筈である。
それをしてこないという事は、大河の狙い通り、魔神陣営は裏にウルザがいると誤認してくれたと考えられる。
「そうですね。ウルザの悪辣さを知っていれば迂闊な行動はしてきませんよね。ただ魔神陣営が今のウルザ陣営の混乱の原因が俺だと知れば、その誤認も解かれてしまいますが」
「流石にウルザも魔神陣営に情報が漏れないように徹底はしてる筈。ウルザが一番魔神陣営の情報収集能力を理解しているから」
「そうですね。ただウルザですから。信じ過ぎるとと痛い目に遭いますから、バレた時の対策も練って置いた方がいいですね」
思いもよらない作戦やスキルの活用により大河がウルザを追い詰めたように、ウルザの想定を上回る情報収集力を魔神陣営が発揮する可能性はある。
そもそも大河たちの頭には、ウルザを信用するなんて概念は存在しないため、念には念を入れ対策しておく事にする。
「対策?」
「はい。例えば……シーラ様。今回の件で信者が大幅に増加しましたが、新たに領域を設置する余裕ってありますか?」
[領域ですか? えーと領域の維持に必要なポイントよりも、信者の皆さんから入ってくるポイントの方がかなり多い状態ですので、あと1つ2つなら問題ありませんよ]
「ありがとうございます。それでしたら『ネクロ』にもシーラ様の領域を設置して、俺やイージスさんも自由に『ネクロ』と『リュートの遺跡』間を移動できるようにしましょう」
大河やイージスはシーラの勇者ではない。そのため『リュートの遺跡』に設置された領域から『ネクロ』に転移することは可能でも、『ネクロ』から『リュートの遺跡』に転移で戻ってくることは不可能である。
この制約によって大河やイージスは今回の宗教改革では待機となったため、まずはそれを解消しようと考えた。
大河が『ネクロ』にいればよりレイアや不死族がウルザ陣営に属しているという誤認が深まりそうであるし、全てが露呈し怒れる魔族が攻め込んで来たとしてとイージスがいれば返り討ちにできるだろう。
唯一の懸念点は、領域を設置した場合の維持費であったが、『リュートの遺跡』による信者拡大スキームと、今回の宗教改革で信者が大幅に増加した影響で領域の維持費程度であれば問題無さそうである。
しかし、懸念点も無くなり意気揚々と提案した大河とは対象的に、レイアはその提案をされ低い声で唸る。なにか都合が悪そうだ。
「むむ、『ネクロ』に領域か」
「えーと、何か問題でもありますでしょうか?」
「問題というか、不死族の皆が……凄く大河に会いたがってるから、大河は『ネクロ』に来ない方がいい」
「なるほど、会いたく……会いたがってる!? それなら支障ないですよね?」
「うーん」
不死族がウルザの勇者である大河に会いたくないというなら兎も角、会いたがっているならば、『ネクロ』に領域を設置する事に差し支えないように思えるのだが、レイアは何故か唸っている。
結局、大河は反対気味のレイアを説得し『ネクロ』にシーラの領域を設置する事で決定するのであった。




