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閑話 魔神ルフェル

 それは魔族と魔獣の主神として知られる魔神ルフェルが、いつも通り神域で寛ぎながら下界の様子を見下ろしていた時の事であった。

 突然ルフェルの筆頭勇者である『魔王』デウスから驚きの連絡が飛び込んで来た。


[……魔獣たちの信仰が別の神に奪われているだと? どういうことだ、デウス]

「はい、ルフェル様。つい先ほど『絶対君主』を使用していましたところ、一部の魔獣たちとの視覚共有や位置情報の確認ができなくなっている事が判明しました」

[……それは単にその魔獣どもが死んだってだけの話じゃなくてか?]

「その可能性を考え視覚共有が可能な他の魔獣たちの視覚などを使い確認を行いました。すると位置情報に示されない場所にも魔獣たちは存在しておりました」

[だから俺様の信者が誰かに奪われたってことか……誰にだ]


 信者を奪われるという事は他の神々から支配領域が減少したり、信仰から得られる定期収入が減少したりと痛手ではある。しかしルフェル陣営にはそれらに加えデウスの『絶対君主』の対象範囲が狭まるという損失もある。

 『絶対君主』は主神が自身の勇者に行う視覚共有やスキルの付与を、主神を同じくする信者に対して行えるという破格のユニークスキルである。このスキルを使い情報網の拡大や信者たちの強化を行ってきたルフェル陣営にとって信者が奪われるという事は、他の神々たちよりも大打撃であることを意味する。

 そのためルフェルは、驚くと共にどの陣営が自分に喧嘩を売ってきたのか興味を示す。


「……ひと通り調べましたところ、不死族及びレイアという勇者が魔獣たちの生存圏で行動している事が分かりました」

[……不死族もだが、レイアだと?]

「はい。女神ウルザが決死隊として重宝していた不死族の勇者です。覚えていらっしゃるのですか?」

[ああ勿論だ……アイツには何度勇者たちを道連れにされたか分からんからな。だがアイツはウルザから別の神に鞍替えしたんじゃなかったのか?]

「はい。現在は地上に堕ちた女神、シーラの唯一の勇者として『シイアの大森林』で活動している筈でした」


 レイアは不死族の前族長の一人娘である。そのためレイアが動いている作戦に不死族が協力するのは理解できる。

 しかし過去にはウルザの勇者としてルフェル陣営に多大な損害を与える活躍をしていたレイアであるが、現在はウルザからの反感を買ったせいで神域を維持できないほど落ちぶれた女神シーラの勇者へと改宗を行い、魔獣がひしめく魔境『シイアの大森林』の奥深くで身を潜めている筈であった。


[そんな奴がなぜ……そういえば『シイアの大森林』は現在魔獣たちがいなくなってたよな?]

「はい。レイアに協力的な勇者が引き起こした爆発の影響で『シイアの大森林』に住み着いていた魔獣たちは別の生息地に逃げ出しました」

[爆発の勇者は誰が主神だ? お前の事だ、調べさせてんだろ?]

「……はい。爆発の勇者の主神は女神ウルザのようです」

[やっぱりな]


 ウルザを裏切った筈の勇者であるレイアはウルザの勇者と協力して魔境から魔獣を追い出した。

 そして、更に彼女は『シイアの大森林』で行っていたように支配領域を設置する行為を魔族領近くの魔獣の生存圏でも行っている。

 『シイアの大森林』だけなら兎も角、神域を再展開する事も儘ならない神がそんなことを主導しているとは到底思えない。


[つまり改宗はフェイクで実際はずっとウルザの指示の元動いていた。そしてそれに騙された……いや、そこもフェイクか?]

「そこもですか?」

[ウルザに反抗した上に、神域を維持できないほど全てを奪われた神が、今もしぶとく生き延びているのは普通ならあり得ねぇ。だが既にウルザに降伏しているなら話は変わってくる]

「降伏したのに周囲には敵対関係であると見せていると。女神シーラに反目勢力が集まって来そうですね。確か女神シーラは樹神エルフィードや獣神ライカロープと親交が深いとか」

[……雑魚神を餌にして敵を釣る。あの性悪女がやりそうな手だぜ。となると今回のも囮か?]


 ウルザによって全てを奪われたシーラがまさかウルザと通じているとは誰も考えないだろう。そういった善意を食い物にするような作戦を好むのがウルザという神だとルフェルはよく知っている。

 となると今回、魔獣たちの信仰が奪われて魔族領近郊に幾つかの支配領域が作られた件も前面にシーラや不死族を立ててはいるがその裏でウルザが主導している可能性が高い。


[そもそもデウス。追加でポイントを使うことなく不死族やあの勇者の隠密行動を発見したんだろ? アイツらが本気で見つからないように動くならそれはあり得ねぇ]

「確かに。では此方に気付かせようと?」

[ああ。……現在ウルザ陣営内で何らかの不和が生じているんだよな?]

「はい。女神ウルザが此方側に情報を流さないように徹底しておりますので、詳細は判明しておりませんが、領域の境界線上から女神ウルザの勇者の一部が撤退していった以降、何らかのトラブルが続いているのは間違いありません」


 よほどルフェル陣営に漏らしたくない情報があるのか、露骨なまでの情報統制を行っているため詳しくはデウスの『絶対君主』を使った情報網でも把握できていないが、ウルザ陣営内に大きなトラブルが起こっていることは確かである。

 そんな時期に見せつけるように行われた今回の作戦。


[となると時間稼ぎ、いや俺たちに不死族の街や女神シーラを襲わせる腹積もりか? そこまでするほどトラブルが大きいならさっさとウルザんとこに攻め込みたいが……迂闊に動くのは危険か。デウス、ある程度ポイントを使って構わないから今回の件についてもっと情報を集めろ]

「分かりました」

[悠長にしているとウルザを攻め落とす好機を逃す可能性もある。できる限り急ぎで情報収集を行え!]


 ルフェルはレイアや不死族、そして女神シーラなどの、これまで隠し持っていた駒を捨ててまで、時間稼ぎをしなければならないほどの事態がウルザ陣営で起きていると判断し、デウスに情報収集の命令を下すのであった。

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