死に物狂い
大河たちと共に細かい部分まで作戦を詰めたレイアは、転移を使い『ネクロ』までやって来ていた。
作戦の立案者である大河は勧誘役という危険な役割を遂行する不死族の者たちと一度話しておきたい様子であった。しかし魔族領と人族領に挟まれた位置にある『ネクロ』に領域を設置する予定は今のところない。となると行った所で転移で帰ってこれない大河を同行させる訳にはいかない。
そのため大河たちに『ネクロ』の住人を紹介するのはまたの機会となった。
「ついた。取り敢えずレヴェトの元に……警備の人? ちょうどいいや」
レイアが『ネクロ』に足を踏み入れようとすると、それを察知したのか街の中からこちらに数人が向かってくる気配を感じる。
基本的に、不死族は世間から忌み嫌われている種族であり、真っ正面から入ろうとする者は少ない。そんな状況の中で警備を怠らず侵入者を即座に察知して自分の元に向かってくる者たちにレイアは感心しながら待ち構える。
そしてレイアの目の前に現れた者たちは、彼女もよく知る者たちであった。
「誰だ! ここは……」
「……久しいね、ゾンとスト」
「なんで俺らの名前……って姫様じゃねぇーか! おいゾン。姫様が帰ってきたぞ」
「分かっている! ……こほん。レイア様、お久し振りでございます」
「うん」
久しぶりであったため最初は気が付いていなかったな不死族の男たちは、目の前の侵入者がレイアだと気が付くと直ぐに警戒を解き、再会を喜び出す。
「いやーそれにしても久しぶりだな姫様。何しに来たんだ? 観光か?」
「……ストは本当に話を聞いてないな。すみません馬鹿は放って置いて……レヴェト族長の元に案内しますね。ストはここで警備を続けていろ!」
「あん! それなら俺が案内するわ!」
「ストにもこれから色々とお願いする事があるから、また今度ね」
「……姫様がそういうなら」
レイアとしても久しぶりに話したいことも多いのだが、時間も限られているため会話を切り上げゾンの案内で不死族の長の元に向かうのであった。
案内中、レイアに気付いた住人たちに囲まれるなどのハプニングはありつつも、族長の家までやって来たレイアたちであったが、その家の前には街中の喧騒を聞きレイアが訪れた事を察知していた家主が出迎えてくれた。
「レヴェト様。レイア様をお連れいたしました」
「うむ。ご苦労であったゾン。レイア様との会合を済ませた後、警備隊にも命令を下す故全員を待機させておくように」
「分かりました。ではレイア様、レヴェト様、失礼致します」
「うん」
族長レヴェトから命令を受けたゾンは、レイアたちに頭を下げつつ警備隊たちが休憩している宿舎に向かっていった。
ゾンが見えなくなるまで見送っていたレイアは、レヴェトに向き直る。
「久しぶりレヴェト」
「……お久し振りでございますレイア様。こうして来てくださったということは、あの伝言は真にレイア様からの伝言であったようですね」
「疑ってた?」
「この世界は悪意に満ちておりますから、レイア様の名を騙った不届き者がいてもおかしくはないかと警戒はしておりました」
レイアとレヴェトの間で事前に決められていた連絡手段により連絡が入った事で、レヴェトは『ネクロ』をシーラの支配領域とするため動いた。
しかし、盲目的にその連絡を信じていた訳ではなく、レイアからその連絡手段が誰かに漏れた可能性などは考慮していたのだ。今回その警戒は杞憂であったが。
「警戒は大事。族長なら特に」
「ええ。レイア様から『ネクロ』を任されている身ですので、軽率な判断だけは無いようにと」
「またそんな事言って……もう今の族長はレヴェト。それに私は生前、母さんからの指名すら貰えていなかった」
「何を仰いますか。ラキュラ様も次代の族長はレイア様しかいないと思っていた筈です」
レイアが死亡し、ウルザの勇者として転生してからかなりの年月が過ぎているが、レヴェトは族長代理という立場を崩していない。
今回のような、住人たちにしてみれば見ず知らずの神であるシーラの支配領域に『ネクロ』をしてくれなど、無茶な要求でもレイアの言うことであれば何でも頷いてくれるレヴェトだが、この件に関しては頑なのである
「まあいい。取り敢えずこの前、連絡したけど魔神ルフェル、ひいては女神ウルザを追い詰めるための手伝いをして欲しい」
「分かりました。魔神陣営には因縁がありますし……レイア様を侮った挙げ句、捨て駒扱いした愚神を追い詰めるためならば、我々不死族、死に物狂いで尽力させましょう」
「……私たちの死に物狂いは洒落にならないからほどほどでお願い。そういうのに触発されかねない人もこっちにいるし」
レヴェトのやる気は頼もしいのだが、もし大河が不死族たちの死に物狂いに触発されると危険な気がするためセーブするように伝えるのであった。




