不死族
不死族と聞くと死んだ肉体が魔法や呪いなどの力によって動き出すゾンビや霊体のままこの世を彷徨う幽霊などを想像する大河であるが、そういったモンスターたちと不死族は少々異なるようであった。
「不死族はかつて存在した伝説の存在、吸血鬼の末裔とされている。実際はどうか分からないけど」
「吸血鬼ですか」
「うん。伝説上の吸血鬼は傷を負っても即座に再生する不死身の肉体を持ち、その肉体を活かした怪力や多種多様な魔法によって相手を殲滅したらしい」
レイアが語る吸血鬼は、いうなれば死ぬほどのダメージを負っても神の元に行くこともなくその場で戦い続けられる勇者のような存在。そんな者がいればまさしく伝説的な存在となるだろう
「そんな存在の末裔ですか!? それは凄いですね」
「ううん。不死族が受け継いだのは、再生力を失い不死身ではなくなった不死の肉体だけ。つまり不死族なんて大層な名前だけど実際は少し死にづらいだけ」
自嘲気味に言うレイアだが、死にづらいだけでも大河は十分凄いとは思えた。とはいえ不死族は不死族で大変な部分があるのだろう。実際にその種族ではない大河には判断がつかない問題であった。
とはいえ、レイアの転生する前の故郷が不死族が暮らす街『ネクロ』という場所であるという情報だけでもそうだとは思っていたが、不死族についてあれはど詳細に語る姿を見て、大河は確信する。
「レイアさんも……その、不死族なんですか?」
「……うん。驚いた?」
「はい。でもそう言われると色々と腑に落ちる点がちらほらとあります」
これまで短くも濃い時間を共に過ごしてきて、レイアが不死族だとは思いもしていなかった大河。しかし実は不死族だと明かされた今、これまで違和感を覚えていた点と点が繋がった気分になる。
転生者である大河はこの世界の種族には疎く不死族に関してもそこまで知っている訳ではなかった。そんな大河であるがレイアの口から一度だけ不死族の話題が上がった時の事を思い出す。
それはイージスを仲間にするための打ち合わせてをしている時であった。
「『呪癒』、アンチヒール系のスキルの説明の時に不死族の話題を出してましたね。普通に『呪術師』を獲得しているから使えるのだと思っていましたが、種族特性でもあったんですね」
「うん。『呪癒』は私が元々使えるアンチヒール系のスキルと『呪術師』の呪いを組み合わせたもの」
「組み合わせ。そんなものもあるんですね。なるほど……あ、あと『生命感知』、前はスキルって言ってましたけど、あれに引っ掛からなかったのも不死族の特性ですか?」
「不死族の身体だと限界まで生命反応を希薄にすることができる。他の感知系スキルと併用されると気が付かれるけど」
「おお」
そう考えると色々とレイアが不死族である示唆はあったように思う。大河は基本的にそれらをレイア凄いの一言で片付けてしまっていたため気が付かなかったが。
「そうか……不死族なんですね」
「……言うべきだとは思ってた、でもちょっと言いづらくて」
「言いづらいのは分かりますが、もっと早く言ってくれれば……」
「うん。ごめん」
「レイアさんの不死族の特性を活かした嫌がらせがもっとできたかもしれないのに」
「うん……え?」
不死族は、世間的に死者を冒涜しているような存在として意味嫌われているゾンビやスケルトンと言ったモンスターたちと同族のように扱われている。
異世界でもそういうイメージは共通しているようであり、自身が不死族であると明かすと敬遠されることが多かった。そのためレイアはこれまで自身の種族を明かすのを躊躇っていた。大河がそんな自分を敬遠しないとは分かっていてもこれまでの経験から話すことを避けていたのだ。
そんなレイアが意を決して正体を明かしたというのに、大河はレイアが不死族であった事実よりも、レイアの不死族としての特性を活かした嫌がらせができたかもしれない可能性について嘆いていたのだ。
「え、じゃないですよ!」
「違くて、そこ? 不死族だったんだよ。もっと別の反応ない? 怖いとか恐ろしいとか」
「なぜ? レイアさんが自分で言ったんでしょう。不死族は死にづらいだけだって」
「そうだけど」
「何度でも蘇る勇者だって広義的には不死でしょう。というか客観的に見れば爆発四散しても『不死の呪い』でその場に蘇生される俺の方がよほど怖いと思いますよ」
「それは……」
「それに種族が何であろうと、レイアさんはレイアさんですから」
大河の受け入れる早さに戸惑うレイア。
確かに大河としても、見ず知らずの者が不死族を名乗れば警戒の1つもしたかもしれない。
しかし目の前にいるのはレイアである。それだけで種族が何であろうと恐怖などという感情は出てこない。
「だから今大切なのはこれまでの……レイアさん聞いていますか!?」
「……うん。聞いてる」
心からの大河の言葉を聞いたレイアは嬉しそうな表示を浮かべていた。機会損失についての説教に夢中な大河はそんなレイアの表情の変化に気が付かないのであった。




