宗教勧誘
『リュートの遺跡』において行われたモンスターを信者にする実験を知らないライカロープたちは、魔獣たちを相手にした宗教改革という発言の意図が上手く伝わらなかったようであった。
そのため、まずは大河は、自分たちが行っている信者拡大スキームについて説明をした。
「ですので信者化した先輩モンスターがいれば、自然発生したモンスターでも信者にする事ができます」
[勧誘役を用意すれば、モンスターでも信者とすることが出来るのか……]
[知らなかったよ!]
ライカロープたちもモンスターを信者化させるという発想は頭に無かったようで、大河からの説明を受け驚く。
とはいえ本題はこれからである。
「はい。そして、その勧誘役こそが今回の宗教改革の肝となります」
[どういうこと?]
「人族は言わずもがな、『ベスティア』や『イグドラシル』もそうだと思いますが……信仰を伝える神父やシスターがいたり、信者たちが信仰を語り合える場所となる教会を用意したりと少なからず宗教活動を行っていますよね?」
[ええ、やっているな]
[やってるよ!]
「うちもそうです。暇な時に信者化したモンスターたちを集めてシーラ様を称えるミサを開いたりしています」
[ふぇ!?]
隣でうずくまっていたシーラが、初耳だとばかりに驚く。しかしそれを無視して大河は説明を続ける。
「それらは信者たちの信仰を深める行為ですが、そのような行為を魔神陣営は魔獣たちに行っていると思いますか?」
[……行っていないだろうな。それどころか魔獣たちの大半はルフェルどころかその勇者にすらあった事は無いだろう]
[フィーもそう思う!]
「はい。俺もそう思います。自身の親や群れの長の影響によりいつの間にか魔神ルフェルを信仰している。つまりその信仰は一般的な信者に比べて驚くほど浅い」
[なるほど……魔獣相手にしっかりと宗教勧誘を行えば魔獣たちの信仰を奪えると]
「はい。そういう事です」
浅い信仰、加えて人族などよりも魔獣は原始的な思考や感情が多いため、信仰を変更する速度も人族などよりも早くなる。
勧誘役を用意すれば魔獣たちの信仰をかなりの割合で奪う事ができるだろうと大河は考えていた。
これまでライカロープたちが考えもしていなかった観点から攻めていく作戦に感心するライカロープたち。ただその作戦にも抜けがあるように感じる。
[素晴らしい作戦だとは思う。だが、奪えるのは低位の魔獣たちだけだろう。ある程度強さも知能もある魔獣たちは環境要因ではなく、自らの意思でルフェルを信仰しているだろう。となると信者を奪った所で魔神陣営の弱体化はあまり望めないのではないか?]
「今回の宗教改革で魔神陣営の戦力を削ごうとは思っていません。どちらかと言えば魔神陣営の目と足を奪い、ついでに精神的な負荷を掛けるのが目的です」
[どういうことだ?]
魔獣とひと括りにしても強さや知能にかなりの差がある。そのため勧誘役を用意し魔獣たちを改宗させていく作戦が通用するのは、魔神側の勇者や信者である魔族たちから見向きもされていない低位の魔獣たちが主となる。
そのため奪ったとしても大した戦力ダウンには繋がらないのではないかと意見を出してくれたライカロープであるが、大河がこの作戦を発案した目的は相手の戦力ダウンやこちらの戦力強化ではなかった。
「魔獣が魔神陣営に所属していると厄介な点は2つ。魔王のユニークスキルで魔獣の視界から情報収集できる点と魔獣が大量にいるとそこが魔神の支配領域となってしまう点です」
[……確かにそうだね!]
魔神ルフェルの筆頭勇者である魔王のユニークスキルは、主神が勇者に対して行う視界共有やスキル付与などを信者に対して行うことができるものである。
そのスキルによって魔神陣営の情報網は他陣営を寄せ付けないほど広くなっている。
更に、信者たちが集結している場所はその主神の支配領域となる。つまり魔獣の生存圏はほぼ全て魔神の支配領域という事になる。そのため魔獣の生存圏の中にある魔族領は、他神陣営から転移などで奇襲を受ける心配はなく、一方魔神陣営は魔境など魔獣たちが集まる場所に勇者たちを送り込むことができるのだ。
その他にも戦力的な旨味もあるが、大河が思う魔獣が信者である利点は主にその2つである。
「ですので、宗教勧誘で魔獣たちの信仰を奪えれば、魔族領近くの場所に魔神たちが視えない領域が増える。これまで警戒する必要の無かった転移による奇襲も警戒しなければならない。となればかなり嫌じゃありませんか?」
[……それは嫌だな]
「まあですので、今回の作戦は精神的な揺さぶりが主な目的です。それによって魔神陣営がどのような反応をするかを見定めて今後動いていきます」
[おお! タイガさんの真骨頂、嫌がらせだね!]
「……はい。まあそうですね」
大河は、字面だけ見ると自分が凄く嫌な奴に思えてしまうなと思いつつ、テンションが上がっているエルフィードに同意するのであった。




