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閑話 女神ウルザⅣ

 ウルザは激昂していた。

 ここ最近のウルザは、大河の『自爆』に巻き込まれた者からの多額の賠償請求がいつ飛んでくるか分からない日々を怯えながら過ごしていたが、そんな恐怖など吹き飛ばすほどの怒りに苛まれていた。

 切っ掛けは従属神の内の1人から連絡であった。


[あのゴミ勇者の情報がお前たち従属神に流れている? どういう事なの!]

[あ、えーとですね。私の勇者が伝えてくれた限りでは、人族圏内でウルザ様が『自爆』の勇者なる存在を探しているという噂が急速に広まっています。それでですね……従属神の中にはその勇者を探そうとする者もいるようでして]

[なんですって!]


 従属神が持ってきたのは、女神ウルザが魔族領や獣人領への侵攻すら投げ捨てて1人の勇者を探しているとの噂が人族たちの間で流れており、その噂を耳にした従属神たちの一部は動きを見せているという情報であった。

 そんな告発を受けたウルザが平静を保てる訳はない。情報を届けてくれた従属神に当たり散らしていた。


[従属神の分際で私に逆らおうなんて愚かな考えを!?]

[殆どの者はウルザ様のお役に立とうと勇者や信者を動かそうとしております! ですが、中にはそのような輩もいらっしゃるかと。特にウルザ様の軍門に下ったばかりの鉱神などは怪しい動きを見せてあるとの報告も!]

[鉱神……あの髭オヤジか]

[はい。鉱神の信者たちはドワーフ……先日の『イグドラシル』奪還の件で……ひぃっ!]


 つい先日起こった樹神エルフィードの件を口に出そうとした瞬間、ウルザの怒りが1段深くなったのを感じ言葉が詰まる従属神。

 ただ従属神が言うことは間違っていない。エルフィードの件で亜人族たちの間では独立の機運は高まっている。ドワーフたちは降伏したばかりであるが、同じく降伏したばかりであったエルフたちが都市を奪還しエルフィードの元に戻った事を考えればあり得ない話ではない。

 ウルザも現実的にその可能性があると感じたからこそ怒りを発したのだ。


 とはいえ今はエルフィードに関して怒っている場合ではないことくらいはウルザも理解していた。そのため声に怒りは滲んでいるものの、話を元に戻す。

 

[……あの樹木女の件は今はいいわ。それより噂を流した者が誰なのか分かっているのかしら? 逃げ惑っている最中のゴミ勇者たちにそんな余裕はないでしょうし、他にあれについて知っているとすると……]

[それに関しましては確たる情報は……えーと、はい。ありません]

[何を言い淀んでいるのかしら? 情報があるのなら言いなさい!]

[はい。これはまだ確度が低く、精査中の情報なのですが、人族の生存圏内で織上大河らしき人物の目撃情報が出ておりまして……]

[え!?]


 ウルザは驚きの声を上げる。大河の目撃情報とは、ウルザが今一番欲しい情報であった。


[どういう事!]

[……1週間ほど前に都市部から離れた村に来た行き倒れ寸前の男を助けた者がいるのですが、その者曰く、生まれ持ったスキルのせいで元主人に捨てられ、今の主人にも訳あって魔族に売られそうになった所を命からがら逃げてきたと語っていたと]

[魔族に売られそうに……]

 

 『自爆』が原因でウルザに捨てられ、シーラに拾われるも、ウルザに楯突いた件でシーラは魔族領に逃げようとした。もし仮に大河が魔族領を恐れてシーラの元から逃げ出したとなれば話に出てくる男の境遇に大河の境遇は当てはまる事になる。

 それだけで男を大河だと決めつけるのは安易であるが、無視するには怖すぎる情報であった。なにせウルザは、大河がシーラたちと共に行動している事前提で捜索をさせていたが、大河単独で逃げているとなれば話はガラリと変わってくる。


[その男は!? その後の情報は!?]

[助けた日に、ちょうどその村に立ち寄っていた勇者に助けを求めたそうです]

[勇者!?]

[はい。誰が主神の勇者なのかなどは分かっておりませんが、男はその勇者に付いていったそうです……そして例の織上大河の噂が流れ始めたのも、その日からなのです]


 人族の生存圏内で見つかった大河に似た男を誰かの勇者が連れていき、その同日から大河の噂が流れ始めた。 

 その情報が意味する事は、ウルザが従属神の誰かに弱みを握られたかもしれないという事を意味していた。


[直ぐに、男を連れていった勇者が誰なのかを突き止めなさい!]

[分かりました!]

[それと、この情報が他の従属神にバレたら……分かっているわよね?]

[は、はい! 勿論でございます!]


 そのためウルザはその勇者を探すよう従属神に命令をするのであった。 


[ふぅ]


 従属神からの通話を終えたウルザは『神域』で一息ついていた。従属神たちにウルザの汚点が知れ渡った事は不服であるし、一時的にでも弱みを握られるのは腸が煮え繰り返る思いである。

 しかし、それでも魔神ルフェルではなく従属神の誰か、しかも調査すれば誰の勇者が大河を連れていったかは直ぐに判明するだろう。


 状況は大きく変化したが、それがむしろウルザに取っては好転であったと、感じていた。

 そんなウルザは久しぶりに余裕を取り戻し、その先について考える事が出来た。

 

[ゴミ勇者の処理が終わったら、ゴミにすら捨てられた落ちぶれ女と、あとは樹木女も始末しなくちゃ……ん? 『イグドラシル』の付近に勇者? 誰か……えっ!?]


 それ故にウルザは早期に気が付く事ができた。否、できてしまった。『イグドラシル』の近郊にウルザが探し求めていた勇者の位置情報が載っている事に。


[なぜ、ゴミ勇者の位置情報が表示……まさか『孤独の呪い』が解呪されて! それなら勇者を向かわせ……いやそれよりも視覚きょうゆ]


 シーラに拾われて以降、大河に掛けられた『孤独の呪い』によって、主神であるウルザは大河への干渉を禁じられていた。

 しかしそれが唐突に解呪されていたのだ。理由は分からないが大河の情報を得られる千載一遇の好機にウルザは混乱しながらも、大河の視覚を共有し情報を得ようとする。


 ウルザが視覚を共有した瞬間、大河の視界は眩しいなどとも言ってられないほどの激しい閃光に襲われていた。

 そう、大河はまさに『自爆』を発動した瞬間なのであった。


[ああぁぁぁ! いだぃぃ……目にぃぃ!]


 『自爆』した本人であれば光に襲われようとも一瞬で死亡判定されるため問題にもならない激しい閃光を、直接その目に受けたウルザはその場でのたうち回るのであった。

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