踊らせる
『リュートの遺跡』内に設置された領域で大河たちは、獣王レグルスに直談判するため『ベスティア』に出発したレイアたちからの続報を待っていた。
力ずくでいくつもり満々であったレイアたちをどうにか説得してから送り出した大河であったが、2人が粗相をしていないか心配であった。
「本当に大丈夫なんですかね……一応獣国の王様なんですよね?」
[だ、大丈夫だと思います。2人はレグルスさんが幼い頃から知っていますから、時々弟をからかうお姉ちゃんのような感覚が出てしまうだと思います]
「幼い頃から。なるほど、それでイージスさんが坊やって呼んでいるんですね。という事は獣王様は指名勇者って事ですか……それで筆頭勇者なのは凄いですね」
[はい!]
指名勇者、大河たちのように死亡した者たちからランダムに抽選をして転生させる一般的な勇者と異なり、この世界で生きている者を指名して勇者にした存在である。
優秀な信者などを勇者にできたりとメリットがある一方で、抽選よりもポイント消費が激しかったり、転生する訳では無いため、一般的な勇者が必ず始めに獲得するユニークスキルを持っていなかったりとデメリットも大きいため指名勇者は、信者たちを主神のために働かせるための餌的な意味合いが強い。
そんな中で初期ユニークスキルを持たないレグルスが筆頭勇者となったのは、本人の類いまれなる才覚と、血の滲む努力の賜物であった。
「獣人族は群れを大切にするって話ですし、ぽっと出の勇者ではなく、幼い頃から国民たちと一緒に成長してきた者が王なのは良いですね」
[はい。ライカは基本的に勇者の抽選でもポイントを多く支払い種族を獣人族に限定していますが、やはり国民から一番慕われているのはレグルスさんですね]
「そうですよね……だとすると余計に心配になるんですが」
自身の幼かった頃を知られている事で統治が難しくなる場合はあるかもしれないが、獣人族の長としては圧倒的にメリットが大きいだろう。
そんな、大河がシーラとの会話で獣王が一般的な勇者よりも更に慕われている存在である事を知り、更にレイアたちへの心配が増している時であった。
レイアからシーラに対して連絡が入る。
[……あ、レイア。はい。はい……私は聞いちゃ駄目? そう。ならタイガさんとレイアを神託通話で繋げて、私は離れておけばいいかしら? はい。……あ、タイガさん。レイアから聞いて欲しい話があるそうです]
「あ、はい」
[レイアが言うには私には話せない内容との話なので、私は離れて耳を塞いでおきますので、通話が終了したら教えてください]
「……あ、神託通話ってシーラ様が聞かないみたいな事も可能なんてすね。分かりました」
[よろしくお願いします]
勇者同士での神託通話を主神が聞かないようにする事は可能なようだ。主神に聞かせられない話を勇者同士がするなど裏切りの予兆でしかなく主神にとって全くメリットが無い。そのため勇者からの頼まれて素直に了承するのはシーラくらいだろうが。
大河は遠くで耳を塞ぎながらちょこんと座っている可愛いシーラに癒されながら、レイアからの神託通話に出る。
「はい、レイアさん?」
「レグルスから協力を断られた本当の理由が判明した。それで解決する案を用意するなら協力できるという言質も取った。よろしくタイガ」
「は、え、は? あ、また丸投げですか……取り敢えず本当の理由を教えてください」
いつも通りの丸投げに一瞬たじろぐ大河であるが、先のイージスの件などで丸投げ耐性は会得済みなため、直ぐに状況を整理して説明を求める。
レイアから獣国の現状などを聞き終えた大河は少し考え込む仕草をする。
「内通者ですか……」
「うん。それがいるとウルザ側に私たちとの共謀がバレるリスクがあるからって。だからそれを解決する作戦をお願い」
「そう、ぽんぽんと作戦を思い付ける名軍師では無いんですが。そうですね……一応1つ思い付きましたけど」
「流石、なに?」
「いや、これはちょっとリスクが高いかなと」
「問題ない。なに?」
勿体ぶる様子の大河にレイアは話すように催促する。
「内通者に踊ってもらうのはどうかと」
「踊る?」
「はい。えーと、シーラ様から持ち掛けた協力の要請をウルザに降伏した神々の1柱が持ち掛けた事にするんです」
「ああ!」
「その情報をできる限り自然に内通者が入手できれば、内通者はウキウキでウルザ陣営に報告してくれるでしょう? 今ウルザ陣営に取って1番価値のある情報は俺なので」
自信の無さそうな様子の大河が、思い付いた作戦は内通者を利用するものであった。
ウルザ陣営への情報流出が避けられないのであれば、誤情報を流してもらう。元々、『どの神が爆弾を持ってるでしょう作戦』は大河がシーラの元から離れ、別の神が所有したかもとウルザに思わせ焦らせる事を目的としており、味方側である降伏した神々が所有しているかもしれないと思わせればベストであった。
そのため大河たちはウルザに降伏した神々の陣営に大河の噂を流す予定であった。しかし噂で流れてきた情報よりも、自身が仕組んだ内通者からの情報の方がウルザが信じる可能性は高まるだろう。
「上手く内通者が踊ってくれれば『どの神が爆弾を持ってるでしょう作戦』の効果は更に高まります」
「なるほど」
「それに作戦が成功したとなれば、誤情報を流してウルザに多大な精神的負荷を掛けた内通者は怖くてウルザ陣営との接触なんてできなくなると思いますよ。そこで処すか赦すかは主神と獣王様の裁量ですが」
図らずしも作戦の立役者の1人となってしまった内通者は、ウルザからの報復を恐れ、獣王たちの対応のいかんに関わらず内通者など続けられないだろう。
「……まあ内通者の踊り方次第で獣人族ひいてはエルフィード様陣営の危険度も高まるのであんまりおすすめはできない作戦ですが」
「ううん。いい作戦。これならレグルスに文句を言わせない」
「言われないではなく!? ちょっ――」
「ありがとう! また連絡する」
レイアは大河の制止の言葉を聞く事もなく連絡を切ってしまうのであった。




