内通者と融和派
獣国『ベスティア』に内通者がいる。レグルスからのその発言にレイアたちは特に驚かなかった。
「ウルザならそういうこともするか。獣人族で裏切りが発生するのは意外と言えば意外?」
「……ライカロープ様や獣国『ベスティア』に対しては裏切りですが、内通者の意識としては種族のためにという意識のようです」
「……ウルザ陣営との戦いに勝てないと踏んで、被害が広がらないようにということ?」
「はい。ウルザ陣営に色々と吹き込まれたようです」
ウルザの意地汚さをよく知るレイアたちからすれば、彼女ならそういう手法も使ってくるだろうと容易に想像がつく。
意外といえば、群れの仲間を大切にする種族である獣人族で内通者が表れる点は意外ではある。しかし仲間のため、種族のためと吹き込まれれば、そのために汚れ役となる自分に酔った内通者が表れてもおかしくはない。
「そして内通者から吹き込まれた住民たちによって、エルフやドワーフのように降伏すべきだという声は大きくなっています。先日ウルザ陣営が撤退したことで今は多少収まっていますが」
「降伏の声……それは信者たちだけ?」
「ウルザの本性を知らない若い世代の信者たちが中心です。歴の浅い勇者の一部はそちらにぐらついている感じもしますが」
確かにウルザという神をよく知らない者たちからすれば、圧倒的戦力を誇るウルザ陣営と戦って滅ぼされるくらいならば、早々に降参して生き延びる方が良いと考える融和思考の者たちがいるのは間違っていない。特にエルフやドワーフたちも勇者ではない元信者たちは人族と友好的な関係を築いているように表面上は見える。
そのため、こればかりはウルザがこれまでどれ程の悪逆非道な行為をしてきたかを見ていない世代が騙されるのは仕方がないだろう。
そしてこういった融和の声が挙がってしまえば、仮に今、内通者を撲滅したとしても効果は薄いだろう。
「という訳です。内通者がおりウルザに降伏すべきだという声も挙がっている『ベスティア』が作戦に加わると失敗になる可能性が高まってしまいます。作戦の概要をライカロープ様と僕しか知らないのであれば別ですが……説明にあった『賠償者』を使うためにはそういう訳にはいきませんよね?」
「なるほどな。確かに坊やの命令でタイガの元に勇者だけ向かわせて、むざむざと爆発で倒されたなんて事になったら、タイガと通じていると宣言しているようなものだからな」
「はい」
内通者や融和派に作戦が伝わらないようにすることは可能である。しかし作戦の性質上、大河たちと共謀していると思われる事も好ましくない関係上、内通者がいると作戦の成功は難しくなる。
『賠償者』によって被害回復されるのは勇者だけであるため、作戦を行うとなれば勇者だけを『自爆』に巻き込ませることになる。この時内通者たちがいなければ勇者以外の被害はウルザ陣営には伝わらない。しかし、内通者たちがいる場合、勇者以外の被害も伝わる危険性が高くなる。
「それならシーラ様が協力を持ちかけた時に言えば良かったのに」
「……ライカロープ様はシーラ様を妹ように想っております。ですので」
「弱みは見せられないか」
この事実をライカロープはシーラに言うことができなかった。
シーラ陣営がウルザを追い詰めたお陰で、『ベスティア』を攻めていたウルザ陣営の者たちが撤退していったのだと嬉しそうに語る妹分に、自分はウルザ陣営に内部から切り崩されているとは言えなかったのだ。
「内通者関係は、今回の撤退とエルフたちが『イグドラシル』の自治権を奪還したことで融和派の勢いは落ちていますので直ぐに何とかしてみせます。ですのでそれまで協力は……すみません」
「……事情は分かった。ただそれらの事情を踏まえてタイガに策を練ってもらう。だから協力して」
「え、事情を踏まえてって、そんな事……タイガさんはまだ事情も知らないんですよね。それなのに策を練るって」
「大丈夫。タイガなら」
「え、凄い信頼ですね……作戦次第では考えさせてもらいますが」
「うん。よろしく」
既に協力が確定しているような雰囲気を醸し出すレイアにレグルスは、レイアから絶大な信頼をされている新人勇者の事がとても気になるのであった。




