獣神ライカロープ
大河が考案した新たな嫌がらせは、『どの神が爆弾を持ってるでしょう作戦』というらしい。しかし、その奇抜な作戦名からレイアたちは内容を読み取れなかったようであり、頭に疑問符を浮かべている。
「どういう作戦?」
「名前の通りですよ。ウルザに取っての爆弾である俺が、どの神に握られているか分からなくさせるってだけです」
「……貴方の所有者として目をつけられているシーラ様から目を逸らさせるってことか?」
「つまり……シーラ様の下から離れるって事?」
[え!?]
「あくまでも、ウルザの視点だとその可能性もあると思えるように仕向けるって話です。当然、本当に離れる気はありませんよ」
[ほっ]
説明を聞き狼狽えるシーラたちを大河は宥める。
イージスの言った、現在大河の実質的な主神としてもウルザから目をつけられているシーラから視線を逸らさせるというのはあくまでも作戦の副次効果に過ぎない。本質はウルザを精神的に追い詰める事である。
「ウルザの視点からって……どうやって?」
「そうですね……例えばですが、このタイミングで『孤独の呪い』が解呪された上で『イグドラシル』近郊で『自爆』が行われたら、ウルザはどう感じると思いますか?」
「『孤独の呪い』が解呪されて……エルフィード様とシーラ様が手を組んでいるのなら、『孤独の呪い』を外す必要はない」
「はい。加えて、他の神、そうですねシーラ様と仲が良い神の支配領域の近くでも同様の事態が起こった場合は?」
「……貴方がシーラ様を裏切り他神に対して何かを行っている。そしてその行為を自分に見せつけてきているのではないか、とウルザは思うかもな」
これまで『孤独の呪い』によってウルザから観測されないように行動していた大河が、急に『孤独の呪い』を解呪して行動すれば、ウルザは対して何かを伝えているのだと感じるかもしれない。
「はい。加えて、ウルザに降伏して、ウルザの従神的な立ち位置でどうにか生き永らえている神々がいますよね?」
「うん。いる」
「……その神々の間で俺の噂が広がります。『自爆』によってウルザのポイントが大量に消費されている事や、俺の影響で支配領域の拡大のため派遣していた勇者たちが撤退してきた事などですね。ウルザはどう思いますか?」
「…………なぜそこまで詳細な噂が流れたのかって疑心暗鬼に陥る?」
「それか降伏した筈の神々がタイガに興味を持つかもしれないと焦る……いや、既に降伏した神の手にタイガが渡っているかもしれないかと考える?」
「はい。そしてそういう思考になった場合、『孤独の呪い』を解呪した意味も変わってきませんか?」
「……脅し?」
ウルザに降伏し消滅だけは免れている神々がいる。最後まで抵抗した結果、勇者を全て奪われたエルフィードや滅ぼされたアマタなどがいる一方で、抵抗もせず早期に降伏した神々の中には勇者の殆んどが没収されていない者もいる。
とはいえそれらの神々がウルザに絶対の忠誠を誓っているなんて事は無い。所詮は武力によって強制的に従わせているに過ぎない。それはウルザも理解している。
そのため何か不審な動きを見せれば、ウルザは即刻その神を滅ぼすため勇者たちを動かすのだ
そんな中で、先ほど大河が例に出したような状況が発生した場合どうなるか。
単純に大河がシーラを裏切り、単独で行動しているとは思えないだろう。各地で『自爆』を起こしつつ、噂も流す。それを外れスキルしか持っていない大河1人で出来るとは思えない。
となると誰かしらの神のサポートがある。その容疑者の中には降伏し一応味方である筈の従神たちも混じってきてしまう。
そしてそんな神々が関わっているとなると、『孤独の呪い』をわざわざ解呪した上で事を起こすなんて事をする理由は1つ。お前の爆弾を握っているぞというメッセージをウルザに伝える事である。
「前までは俺の評価は魔神に所有されたらヤバいだったのであれですが、ウルザが俺を過大評価している今なら、この作戦は効果あると思うんですよ」
「また……凄い作戦を」
「それに噂を流してウルザの従神たちが、様々な思惑で俺を捜索しようとすればそれだけで疑心暗鬼に陥らせる事も出来そうですし」
ウルザを恨み大河を手に入れようとする従神もいれば、ウルザへの評価稼ぎのために大河を見つけ出そうとする者もいる。
猜疑心の強いウルザからすれば全員が自身の弱点を手に入れようと思っていると感じてしまう事だろう。
「ただ、『自爆』……出来れば『賠償者』も絡めるとより効果は大きいですが。それを行う場所が『イグドラシル』近郊だけだとバレやすくなっちゃうんですよね」
「なるほど……」
「なので出来れば、エルフィード様くらい信頼できる神様に協力して欲しいんですが」
『イグドラシル』のみでそれが発生した場合、多少疑心暗鬼にはなるだろうが、シーラとエルフィードが協力して行っている可能性の方が高くなってしまう。
そのため『孤独の呪い』を解呪しての『自爆』をする場所は複数の方が望ましい。ただウルザに情報を流されれば終わりの作戦なため、協力者は支配領域及びその近郊での『自爆』や『賠償者』の使用を許してくれる且つ、ウルザに屈しないという中々に厳しい条件がついてしまう。
しかしシーラは、それに該当する神に心当たりがあった。
[フィーくらい……というならライカでしょうか]
「獣神ライカロープ様ですか……確かに今も尚ウルザに抵抗し続けているライカロープ様なら間違いありませんね」
「獣神っていうと確か…」
「獣国『ベスティア』を支配領域されている神様だな。エルフがウルザに落とされてからは攻勢が酷くなっていたが。今回の貴方のお陰でウルザの勇者たちが撤退されたとなれば交渉もしやすいかもしれないな」
それは、獣神ライカロープ、エルフやドワーフがウルザ側についてしまっても唯一抵抗し続けていた獣人族の主神であった。




