疑心暗鬼
大河といえば嫌がらせなので、1つの嫌がらせが終わればまた次の嫌がらせに移行するのは当然であるようにも思える。
しかしレイアとしては、1つ心配な点があった。
「ウルザに嫌がらせをするのは大歓迎。でも見つからない?」
「見つかる危険性は高まるかもしれません。ですが俺たちの拠点が『リュートの遺跡』だってことがウルザにバレないのであれば、見つかるのはありかなと思いまして」
「どういうこと?」
大河の返答に首を傾げるレイア。
元々魔神陣営への亡命の噂を流したことでウルザ陣営が躍起になり始めた捜索の目から逃れるために『リュートの遺跡』を拠点に選んだのだ。
そのため当初の予定では、『リュートの遺跡』とイージスを手に入れることに成功した場合、しばらくの間は『リュートの遺跡』に引きこもるつもりであった。
しかし勧誘のついでのつもりであった嫌がらせが予想以上にウルザの精神にダメージを与えているようである。なので『リュートの遺跡』にシーラがいるという情報が流出しない程度に動く事にしたのだ。
「一撃で2、30万ポイントの消失は流石のウルザも堪えたようですよね、シーラ様?」
[ふぇ? ああ、フィーからの連絡の事ですか? はい。そのようですね。『イグドラシル』を攻めるべく大軍を率いていた勇者たちが大慌てで撤退していったと連絡が入りました]
「それなら、獣神や魔神の支配領域を攻めてた勇者たちもだ。流石に魔神の方は最低限は残してるみたいだけど」
「はい。この動きから分かる事は、ウルザの最優先事項が俺になったということを意味します」
ウルザは他神との領域争いを諦めてまで大河の捜索に全力を出し始めた。逆に他神から攻められるリスクなどよりも、このまま大河を放置するリスクの方が明確に高いと判断したということである。
[それは……これまでもそうだったのではありませんか?]
「いえ、これまでウルザは魔神が所有した場合の脅威度という観点で俺を見ていました。でも『賠償者』によって文字通り失うポイントの桁が跳ね上がった事で、魔神とか関係なく俺を見始めたんです」
『自爆』戦法や『誘爆』戦法は確かに1人の勇者の影響力の範囲内であれば前代未聞と言っても良いだろう。
ただ、これまでは大河が魔神陣営に行かない限りはどうとでもなると考えられていた。
なぜかと言えば、仮に不眠不休で『自爆』を繰り返したとしても1億ポイントを消費するのだけで1年近く掛かるのだ。ウルザの総ポイントを削り切るには何十年掛かるか分からないためだ。流石に何十年も爆発し続ければ位置を補足し捕らえることは出来るだろう。一方的にポイントを消費し続ける存在は脅威ではあるが、それだけであれば嫌がらせの範疇であった。
しかし、『賠償者』によって一度に消費させられるポイントが跳ね上がった結果、大河は本当に1人でウルザを消滅させうる存在に成ったのだ。
「つまりウルザの中で、現時点では魔神よりも俺の方が脅威度的には上ってことです。でも時間が経ち冷静になれば『賠償者』戦法がそこまでのスパンで繰り返せないと気が付く筈です」
「……まあそうだね」
『賠償者』戦法は理論上は『自爆』戦法と同様のスパンで繰り返すことが出来る。しかし実際には過失相殺や勇者の弱体化など様々な要因があるため準備に時間やポイントが掛かるのだ。
そんな裏事情までは分からずとも、賠償請求がさほど来なければ、ウルザも自然と大河の脅威度は下がっていってしまうだろう。それは勿体ない。
「なので、できる限り疑心暗鬼な状態が長引くようにして、精神的に追い詰めようって作戦です」
「精神的に?」
「はい。名付けるなら、そうですね……『どの神が爆弾を持ってるでしょう作戦』ですかね?」
「どの、うん?」
作戦の目的には納得したレイアたちであったが、作戦名を聞いても、内容がまるで理解できないのであった。




