閑話 女神ウルザⅢ
ウルザは焦燥感に苛まれていた。
[どこ、どこにあのゴミ勇者はいるの!?]
女神シーラが魔神ルフェルの軍門に下ろうとしているとの噂を耳にしたウルザは、血相を変えて直ちに勇者たちに神託を下し対応を開始させた。
『自爆』という外れスキルと呪いを組み合わせることで際限なくウルザのポイントを消費し続ける最低最悪の勇者である織上大河。この者の存在がルフェルにばれる事が一番危険であるため、まずは噂を流している大元を粛清し、別の噂で上書きした。
それと同時にウルザの支配領域とルフェルの支配領域の境により多くの戦力を配置しシーラたちが魔族領に行くルートを封鎖した。
そこまでは上手くいっていた。後は逃げ場を失った大河たちをゆっくりと追い詰めていくだけであった。しかし肝心の大河の消息が『ユグド』での自爆代請求を最後に忽然と途絶えてしまったのだ。
[……『シイアの大森林』にあった領域は既に放棄されていたし、あのジジイの領域に行けるルートは全て潰した筈。それなのになぜ見つからないの!]
あらゆる手段を講じた結果、人族全体、更に亜人族も獣人族を除く全てを手中に収めた矢先の今回の騒動。
他全てが上手くいこうと、大河が見つからない限り収束はしない。そのため日に日にウルザの機嫌は悪くなっていく。
[あの落ちぶれ女を抱えて魔族領に行けるルートなんてそこまで無い筈なのに!]
なぜウルザ陣営が総力を挙げて捜索を行っているのにたった1人の勇者すら見つからないかと言えば、ウルザがとある勘違いをしていることが原因であった。
ウルザからすれば、シーラは未だにポイントを失い地上に落とされ脱落寸前の神のままであった。そのため領域を使い捨てたり、移動を転移で行うほどのポイントなど有していないと考えていた。
『自爆』などの仕様に詳しくないウルザとしては、自身の勇者であり続けているからこそここまで苦しめられている大河の『自爆』戦法や『誘爆』戦法によって、シーラに大量のポイントが流れているなど想像もしていない。むしろこの嫌がらせを行うためなけなしのポイントを消費した結果、更に苦しんでいる筈だと思っていた。というか思わずにはいられなかった。
そんな願望混じりの考え方で構築した包囲網に、領域を放棄した上で魔族領とは反対側の地点に仮領域を設置し、そこまでは転移を使って逃走を果たしているシーラたちが引っ掛かる筈もなかった。
[でもあの1件以来、自爆は起こっていない。だから取り逃したって事じゃない筈よ。おそらく『シイアの大森林』の付近でびくびくと隠れている筈よ……そうよね?]
ウルザは自分に言い聞かせるように願望混じりの考えを呟きながら、ポイント収支を確認する。
仮に地獄の自爆代請求が再開され出したということは、シーラたちが魔神ルフェルの軍門に下った証のため、前までは心踊る瞬間であったポイント収支の確認が、一転して息が詰まるイベントとなってしまっていた。
それでも、確認しないことの恐怖に負けて何度も何度もポイント収支を確認してしまうのだ。
[あ、あら。ポイント収入が1万ポイントほど入って……は、ぇ?]
そして、本日10回目の確認を行った時であった。
最近は支出欄ばかり大きな数字が並んでいた中で、久しぶりに1万という大台のポイントが収入欄に記載されていたことに喜ぼうとした瞬間、その下の支出欄に記載されたあり得ない数字が目に飛び込んで来たのだ。
[25万、嘘でしょ……]
約25万ポイント。一騎当千級の勇者を1人育成できるレベルのポイントが一瞬にして消え去ったのだ。
自爆代が請求された際は絶叫していたウルザであるが、今回は絶叫する余裕すらない。彼女の脳内を支配しているのは純粋な恐怖であった。
[さっき確認した時は確かに何もなかった!? 数分の間に消費した!? なに、この賠償代って!]
馴染みのある自爆代ですらない請求によって並みの神であれば破産しかねないポイントが消え去った。
確かに数十万程度、ウルザの総ポイント数から比較すれば大した額ではない。しかし、これが仮に『自爆』戦法と同じ頻度で行えるのであれば、ウルザのポイントは直ぐに底をつくだろう。
[あ、早く。早く見つけないと! 魔神や他の神に構っている暇なんてない! あの男の捜索に注力させないと!]
その未来を想像してしまったウルザになりふり構っている暇はない。慌てて他の神々との領域の境に残していた戦力すら投入して大河を捜索させることにするのであった。




