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賠償者

 イージスが意識を取り戻すと目の前に見知らぬ男性が立っていた。

 状況がまったく読み取れないイージスは、咄嗟に臨戦態勢に入るが、横から見知った声が聞こえてくる。


「イージス、蘇生おめでとう」

「レイア! 何を……蘇生?」

「うん、イージスは『呪瘉』で限界まで体力を削られた後、そこのタイガの攻撃で死亡した。そして今、蘇生された」

「私は無宗教だ! 死亡した場合私は消滅するはずだ!」

「普通はね」


 レイアの説明を受けさらに混乱するイージス。無宗教である自分は死亡すればそのまま消滅する。そのリスクを承知の上でこれまで無宗教を貫いてきたのだ。 

 確かに記憶を遡れば、最後の最後で凄まじい爆発に巻き込まれた事は覚えている。あの爆発ならば『軽量化』や『装甲解除』で防御力を下げたイージスの残り僅かな体力を削り切る事は可能かもしれない。

 しかし、仮にレイアの言った通りであるのならば、イージスがこの場にいる理由は1つしか考えられなかった。


「……まさか、勝手に改宗を!?」

「そう思うなら確認してみればいい」

「ステータス! よかった無宗教のま……レイア!」


 何らかの方法で強制的に改宗させられたのかと勘繰ったイージスは、レイアに促されるままステータスを確認する。確認の結果、ステータスのクラス欄には勇者(無宗教)との記載があった。

 そのため安堵したイージスであったが、それも束の間、ステータス欄の他の項目の異常に気が付き、レイアの名を叫ぶ。レイアはそれを予想していたのか驚く事もせず問い掛けてくる。


「……スキルがそのままだった?」

「ああ、私のスキルは死ぬ前と変化がない。レベルなど一部低下しているスキルもあるが」

「レベルが? ……なるほど。今回の被害回復の限界だね」

「どういう事だ、説明をしろ!」

「……それの説明はこの作戦を立案したタイガからしてもらう。タイガ、お願い」

「……え、ああ、はい」


 戸惑うイージスを横目にレイアは、先程から放置されていたタイガと呼ばれた男性に説明を丸投げする。

 丸投げされたタイガは少し驚きつつも慣れた口調で説明を始める。

 

「えーと、まず今回の説明をする前に、何故無宗教の勇者が死亡したら消滅するのかは分かりますか?」

「死亡した勇者の魂が還る主神がいないからだろう」

「はい、その通りです」


 勇者が死亡した場合、魂は主神の所に還る。そして主神がポイントを消費することによって蘇生されることができる。

 そのため主神のいない無宗教の場合、そもそも魂が還る場所が無く、そのまま消滅してしまうのだ。

 しかしそういう仕組みなのであれば、そもそも魂が還らないようにすれば良い。


「『不死の呪い』、主神の元に還れずその場で強制的に蘇生させられる呪いです。レイアさんに戦闘中、掛けてもらっていました」

「『異常感染』に紛れて掛けていた」

「『不死の呪い』……しかし、仮に呪いで魂がその場に留まっても、蘇生させられるポイントが私には無い筈だ!」 

「はい、ですのでイージスさんの蘇生に必要なポイントは、うちの金づる、いえ主神に払わせました」

「はぁ、えっ!?」 

 

 大河のあんまりな言い方に驚いたイージスは思わずレイアを見る。


「れ、レイア。この男、シーラ様を金づる扱いしたぞ」

「うん? ああ、違う。タイガの主神はシーラ様じゃない。ウルザ」

「ウルザ? あの?」

「はい、誠に遺憾ながら俺はウルザの勇者ですよ」

「じゃ、じゃあ貴方は、ウルザを金づる扱いしたというのか? というかウルザに払わせたというのはどういう事だ?」


 シーラには悪いが、優しいシーラが勇者にポイントを与えている絵は想像できるが、あのウルザが恨みすらある自分を蘇生させるためにポイントを払うとは到底思えない。しかも見るからに弱そうな目の前の男の要請で。


「『賠償者』ってスキルを使いました。このスキルは、このスキルの所有者が相手に損害を与えた場合、その損害を補償する責任を主神が負わなければならなくなるというデメリットスキルです」

「そんなスキルが!?」

「はい。今回の場合、俺の攻撃でイージスさんを殺したため、それによって生じた損害、イージスさんの蘇生代と、これまでに獲得した一般スキルなどの一部が被害回復された感じですね」


 『賠償者』のスキルの説明を聞いたイージスは絶句してしまう。そんなデメリットスキルがあるのかと。

 『神々の聖戦(サンクトゥス)』のポイント関係的に撃破ポイントよりも、強化するために消費するポイントの方が多くなっている。おおよそ1万か撃破ポイントを誇るイージスを、ポイントによる強化だけで育成しようとすれば軽く数十万ポイントが必要となるだろう。今回の場合、一部のスキルレベルが低下しているなどあったがそれでも2、30万は固いだろう。

 つまり自分の勇者が『賠償者』を獲得してしまった場合、その者が勇者を倒せば倒すほど、賠償地獄で破産してしまう事になるのだ。


 そして今回の場合、本来無宗教の勇者は『不死の呪い』で魂がその場に留まっても蘇生するためのポイントが無いため蘇生されないが、『賠償者』によって損害が賠償された結果、蘇生されたという事なのであろう。


「……つまりそのスキルを持つ貴方が私にとどめを刺したから私は蘇生したのか。なぜ、なぜ私を生かした?」

「貴方を仲間にするためです」

「仲間だと?」


 ただ『リュートの遺跡』を奪うだけであればイージスを生かす意味は無い。レイアの『呪瘉』で殺せばよかった。

 しかし、今回の作戦は『リュートの遺跡』とイージスを両方手に入れる事である。そのため大河は『賠償者』に目を付けたのだ。改宗させなくとも無宗教のまま死亡させられる『賠償者』を。

 

「……レイアさんからイージスさんは無宗教に並々ならぬ拘りがあることを聞きました。その上で、イージスさんを仲間にするような作戦を考えろと」

「そんな方法なんて……」

「イージスさんは天神アマタ様を復活させたいですか?」

「復活!? そんな事は」

「シーラ様にも確認を取りました。数十万、数百万なんて目じゃない莫大なポイントが必要ですが、可能だと」

「そんなポイントを集めるなんて……ウルザ」

「はい、ウルザのポイントを絞り取れれば可能だと思いますよ」


 無宗教にそこまで拘るイージスを説得するには、無宗教や『リュートの遺跡』よりも大切な物が必要だと考えた。

 それがイージスの主神、天神アマタである。そのため一応、デバフ欄を見る傍ら色々と調べた結果、滅ぼされた神を復活させることは一応可能であることが判明した。


 ただ主神を復活させる。口で言うのは簡単だが実際に実現するハードルは恐ろしく高い。

 イージスにとって零細神であるシーラ陣営のレイアたちが言った所で信じてはくれないだろう。そのための今回の作戦である。

 無宗教のまま蘇生させるため配慮を行いつつイージスを倒す。加えてウルザという強大な神に対抗する手段を持っているとアピールする。

 それを行う事でようやく神復活という提案をするテーブルにイージスをつかせる事ができるだろうと大河は考えたのであった。


「『賠償者』以外にも俺たちにはウルザからポイントを搾り取る手段があります。ただ手段はあってもそれを実行するための戦力が足りていません。ですよねレイアさん?」

「うん」

「なので、イージスさん。貴方にも私たちの仲間になって欲しいのです。どうですか?」

「…………よろしく頼む」

「はい」


 そこまでしてテーブルにつかされたイージスは、大河の手を取る選択肢以外残されていなかったのであった。 

 

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