奥の手
『呪癒』を掛けた事で時間はレイアの味方となった。安全面を考えるのであれば、このままイージスの体力が尽きるギリギリまでこの場から離れてしまうのもありではある。
とはいえイージスもこれまで生き抜いてきた歴戦の勇者。何かしら『呪瘉』に抗う手段を有しているだろう。
仮に『呪瘉』を解呪する手段を有しているとすれば、離れた瞬間に使われまた振り出しに戻ってしまう。しかも今度は『呪瘉』を警戒されている状態で。
そのためレイアはこの場で耐え続け、イージスが『呪瘉』を解呪したら再度掛け直さなければならないのだ。
「―――『速撃拳』!」
「よっと!」
イージスの拳がレイアに迫る。ただ先程までレイアの全てを受け切り諦めさせることで、撤退を選択するようにと無警戒にデバフを受け続けたツケが響いている。普段よりもイージスの拳にキレがない。
「『拳魂一撃』!」
「遅いね! 『愚鈍の呪い』」
「く、そ!」
そのため、レイアに余裕を持って回避されてしまう。しかも回避の合間にデバフを追加されるおまけ付きで。
「『軽量化』、『装甲解除』、『限界突破』!」
「なりふり構わない感じだ。ならこっちも『過剰血流』!」
このままではデバフを重ね続けられる悪循環に嵌まると確信したイージスは、防御力を削って機動力を上げる選択をする。
それを見たレイアは、自身も強化スキルを発動し応戦する。
「レイア!」
「うん、さっきよりは速くなった。でも、」
「『神速の――」
「『鈍痺の枷』」
「ぐっ!」
「攻撃が速くなっても、それを繰り出すまでの発動時間は遅いままだから意味ないね」
基本的な攻撃は強化された身体能力で回避し、回避が難しそうなスキルによる攻撃は発動前に潰す。そしてその間に効果切れを起こしたデバフは掛け直す。
これを繰り返す事で、イージスは何もできずただ時間を浪費していく。
現在、レイアは完全に戦局を掌握していた。後怖いのは、イージスが隠しているであろう奥の手だけであった。
「そろそろ、命が尽きそうだ」
「そうだな。まさか、最期の相手が貴方だとは」
「最期ねぇ」
こんな口振りではあるが、その瞳からは諦めの感情が読み取れない。そのためここからでも、レイアを倒すなり、追い返すための作戦があるのだろう。
そしてイージス目線では、レイアがその奥の手を上回る何か奥の手を持っていないか気になっている筈である。
こういう場面では先に手札を晒した側が不利となる事が多いため、お互いがお互いの奥の手を探り合う事でにらみ合い状態となってしまう。
「奥の手があるならさっさと出した方が良いよ」
「奥の手、何の事だ」
「……とぼけるならそれでいいよ。使わずに死んで後悔しないで。『革命の一閃』!」
先に動いた方が不利となる。そのため敢えてレイアは先に仕掛ける。レイアが放つのは『革命の一閃』。相手の防御力が高ければ高いほど此方の攻撃力も上昇する剣撃である。
イージス相手に放つ『革命の一閃』は、『無敵要塞』の完全防御すら上回る火力となる。
『呪瘉』で削りに削られた体力であればこの一撃で仕留め切れるだろう。
しかし、レイアの剣はまたしてもイージスの身体に触れることは無かった。
その代わり、イージスの左手がレイアの右手をがっしりと掴む。
「……これは?」
「『無敵要塞』が誇る最後の壁、無敵化だ。この状態の私はあらゆるダメージを無効化する」
「そして無敵化を知らないで攻撃してきた間抜けを拘束することに専念すると……なるほど」
「そういうこと。やっと貴方に攻撃が当たる、『拳魂突撃』!」
右手を捕まれ逃げられなくされたレイアにイージスは渾身の一撃を放つ。イージスの拳がレイアの胸をいとも容易く貫いた。
「終わりだ。もうここには」
「終わり? まあ、そうね」
「……なっ!」
「『血縛』……今!」
しかし、それは罠であった。胸を貫かれた筈のレイアはピンピンしており痛がる素振りすら見せない。それどころか、胸からイージスの腕に垂れてきている血液を利用し、拘束してきたのだ
「今って……」
「終わりの合図を」
「何を言っ――」
状況が入り乱れ過ぎて混乱するイージス。しかしイージスの疑問の声は、大気を震わせるような爆発音にかき消され、誰にも届かないのであった。




