勇者であった証
主神を失った勇者をシーラ陣営に引き込む作戦の立案を丸投げさせた大河は、一心不乱にスキル欄のデバフの項目に目を通していた。
今回の作戦に2万ポイントを消費する許可はシーラから出てはいる。とはいえ使い捨てるには多すぎるポイントである。そのため取り敢えず『弱き転生』の適用範囲内から見て回っているのだ。
そんな大河にレイアが声を掛けてくる。先の話し合いで大河に立案を丸投げしたことをシーラから注意されていたので、少し申し訳なさそうな表情であった。
「……どう?」
「いえ、今のところは」
「そう」
「……レイアさん。別に怒ってませんのでいつも通りにしてください」
「本当?」
「はい。レイアさんが、そのイージスさんを仲間に引き入れる事が重要だと判断したのならできる限りそれが叶うように頑張りますよ」
丸投げされて大河が戸惑ったのは確かである。大河自身、自分の立案能力が優れているとは思っていない。『ユグド大爆破作戦』なども、粗の大きい作戦をレイアの能力で埋めて貰ったが故にどうにか成功したようなものである。
しかし大河の作戦の尻拭いをいつもしてくれるレイアが、今回も大河に立案を任せてくれたのだ。戸惑いはすれど断る選択肢などないのだ。
「ありがとう」
「いえいえ……あ、それで1つ聞きたい事があるんですよ」
「なに?」
「イージスさんが無宗教に拘る理由ってなんだと思いますか? 天神アマタ様への忠心ですか?」
主神という制度を悪用しかしていない大河からすると、イージスの気持ちが理解しきれない部分がある。
今回の作戦はただイージスを倒せば良いので無いため、そこら辺の心理状況も把握しておきたいと大河は考えた。そのため同じく忠誠心が高そうなレイアの意見を聞いてみることにした。
「……私がイージスの立場なら、仮に主神が消滅してなく、主神のためになるのなら幾らでも改宗は受け入れると思う。それは最終的に主神の元に戻れる可能性が残ってるから。でも無宗教状態からの改宗は違う」
「なるほど。確かに天神アマタ様の勇者であった証ですもんね……今も『リュートの遺跡』を守護している理由もそれですね」
「そうだと思う」
「そうですか……」
一度改宗してしまえば、無宗教には戻れない。つまりは生き残りたいや主神を滅ぼした女神ウルザたちに復讐したいという気持ちは当然あるのだろうが、その気持ちよりも主神を慕う気持ちの方が強いという話なのだろう。
その話を聞くとイージスに改宗させた上で『リュートの遺跡』をシーラの支配領域とすることは不可能なように感じる。
しかしレイアの話を聞いた大河は少し考え込んだ後、何かを閃いたような表情を浮かべる
「それなら、えーと確か」
「え、何か思い付いたの?」
「はい。前から目を付けていたスキルが……あ、これです」
「え? なにこれ? えーと『賠償者』」
「はい」
大河に見せられたスキル『賠償者』を見てレイアは首を傾げる。熟練のレイアにも使い方がパッと思い付かない類いのマイナーなデバフスキルであったためだ。
「どういう風に使うかわからないけど、これがあればイージスを仲間に出来るの?」
「はい。成功すれば少なくとも話し合いのテーブルには付いてくれると思います。……ただこのスキルを組み込んだ作戦だと、これまで以上にレイアさんの負担が大きくなってしまいそうです」
「そこは気にしないで、何をすれば良いか指示してくれたらいい」
作戦立案を丸投げしたのだ、全負担を負うくらいの覚悟はレイアにはあった。
「ありがとうございます。レイアさんに頼みたいのは2つ、1つはイージスさんに『不死の呪い』を掛けてください」
「『不死の呪い』? 分かった。2つ目は?」
「イージスさんを死亡させます。その際、トドメは俺に刺させてください」
「え、死亡? 殺すの?」
しかし、予想外の大河の発言に、思わず驚いてしまうレイアなのであった。




