噂を流す
『イグドラシル』で行われていたウルザ陣営の掃討が完了する。最初はレイアだけで行っていた掃討作戦であるが、途中から『イグドラシル』に住んでいるエルフたちの協力も得た事で予想よりも早く作戦を終える事ができた。
エルフたちも突然の事に混乱している様子であったが、長年エルフィードの勇者のまとめ役として活動していたオリーバの説明によりウルザが諸悪の根元であるという事実を一旦受け入れてくれた。
「お疲れ様ですレイア様」
「オリーバも。……途中から来てくれた他の勇者たちは?」
「『イグドラシル』の住民たちに現状を伝えるため街中を巡っております」
「そう」
現在は、オリーバ以外の勇者たちも『イグドラシル』にやって来て、街の中にいるエルフたちに状況説明を行っている。誰も好き好んでウルザの信者となった者はいないため、直ぐにこの街はエルフィードの支配領域に戻ることだろう。
取り敢えず『ユグド』とそこに匿われていた最後の勇者たちが滅ぼされ、エルフィードがポイントを獲得する手段を失うという最悪の状況は回避できた。
しかし、危機はまだ続いている。今回の件はウルザの逆鱗に触れただろう。ウルザは確実に『イグドラシル』を滅ぼしに掛かる事だろう。今回の件でのウルザ陣営の被害は凄まじいものがあるとはいえ、手負いのエルフィード陣営を滅ぼすことなど容易いだけの力は有している。
「……それで、レイア様。これからについてなのですが」
「基本的にはタイガの作戦通り。タイガの存在があれば勇者たちを大量には投入できない筈だけど、初戦はある程度厳しい戦いにはなると思う」
「はい。その間にレイア様が…」
「うん。シーラ様が魔神ルフェルの軍門に下ろうとしているって噂を流す。そうすればウルザ陣営が『イグドラシル』に構っている暇なんて無くなる」
ウルザが『イグドラシル』に戦力を割けなくする作戦として大河が考えたのが、シーラが魔神ルフェルの下につくというブラフを信じさせるという案であった。
現在、唯一女神ウルザと張り合える戦力を保有する魔神ルフェル。そんな神の軍門にシーラが加わるとなると何が起こるか。
ウルザは大河の『自爆』を止める手段を失い、遠からず『神域』の維持すらできない程に落ちぶれる事となるだろう。
ウルザとしては何としてもそれだけは阻止しようと考える筈である。そして仮に大河が魔神ルフェルの元に行ってしまった場合に大河を抹殺すべく備えなければならない。その状況で呑気に『イグドラシル』進攻などやってられないだろう。
「その代わりシーラ様が狙われる事となるのですね」
「うん。だから『シイアの大森林』の拠点も放棄する……そんな顔しない。シーラ様もこの作戦に納得済み」
「ですが……」
その代わり、ウルザのヘイトは全てシーラ陣営に向くことになる。そのため場所が知られている領域は放棄することとなる。
エルフィード陣営の危機を救ってくれた大恩人たちに、リスクを押し付ける形となった事を気にしてオリーバの表情は暗くなる。
「大河が前に言ってた。生かさず殺さずが嫌がらせの基本だって。私たちはただウルザを倒したいんじゃない。これまで受けた仕打ちを何十倍にして返したい。そのための作戦だから、気にしないで」
「レイア様。分かりました。我々も最大限、ウルザに嫌がらせができるように奮闘いたします」
しかしレイアからの励ましの言葉を受け、オリーバは決意の表情に変化させる。
「うん。その方がタイガも喜ぶ」
「……タイガ様。本当にレイア様の言う通り、いえそれ以上に優れた御方ですね」
「ふふ。でしょ? 凄いんだタイガは」
タイガを褒められた事で、付き合いの長いオリーバも見たことの無いほど嬉しそうな笑顔を見せるレイアなのであった。




