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閑話 女神ウルザⅡ

全面降伏した筈の樹神エルフィードが『ユグド』に勇者たちを匿っていたという事実を知った女神ウルザは怒り狂った。

 彼女の中では愚かなエルフィードの降伏を慈愛の心で認めてあげた恩を仇で返された気分なのである。

 しかも『ユグド』の存在が発覚したというのにエルフィードの元勇者たちは潔く諦めることをせず、意地汚く足掻いた。そのせいで勇者という労働力と数日という貴重な時間が無為に消費されることとなったことで彼女の機嫌は決定的に悪くなったのであった。


[はぁー。本当に無駄な時間だったわ。取り敢えずあの樹木女を滅ぼすのは必定として、私の勇者となりながら私を裏切った愚か者たちにも処分は必要よね]


 とはいえ『精神傀儡』のクレアがエルフィードの元勇者から『ユグド』の詳細な位置を聞き出し、その情報を元に十分な数の勇者たちを派遣したことで『ユグド』の消滅が確定的となった事で、ウルザは多少機嫌を取り戻していた。

 

[……そうねクレアのスキルで愚か者たちを操り自らの手であの樹木女にとどめを刺させましょう。そうしましょう。折角なら隠れ里にいる勇者も改宗させようかしら?]


 基本的に勇者や信者のためにポイントを消費することを嫌うウルザであるが、自身のためにならばポイントの消費を惜しまない。

 他神やその勇者たちを虐げて自身の加虐嗜好を満たすためならば特に。


[そうと決まれば、あの子たちに勇者は殺さないように伝えなくちゃならないわね。あ、でも、もう時間も経っているしとっくに滅ぼしちゃってるかもしれないわね。まあそうなったら別の……はぁ?]


 そのためウルザは、エルフィードの最後の希望であろう勇者を改宗させ、より絶望の状態で滅ぼすために『ユグド』に進攻している勇者たちの様子を確認した。

 ウルザは自身の視界に入った光景が信じられなかった。それなりに成長した勇者10人という小さな街であれば簡単に滅ぼせる戦力。その中にはウルザが直々に目を掛けている者もいた。

 それなのに彼らは現在、『ユグド』から背を向けて無様に逃走しているのだ。


[な、なに! なにが起こってるの!]


 神託を受けた勇者が逃走を選択するという事がどれほど異常なのか一番理解しているのは、ほとんど飴を与えず鞭だけで勇者たちを動かしているウルザである。

 勇者たちが何よりも恐れる事は、主神の期待に応えられない事である。主神の基準値を下回らない限りは無限の命がある勇者たちにとって死亡は恐れるものではない。


 そんな勇者たちが全員、五体満足な状態で逃走を選択した。つまり10人の勇者が束になって掛かっても少しの戦果も得られないと判断したという事である。

 そんな普通ならばあり得ない状況を目の前にパニックになるウルザ。しかし彼女の悲劇はここで終わらない。


[どういうこ……え、クレア?]


 ウルザが状況確認をするため逃走中の勇者たちに神託を送ろうとしていた時であった。エルフィードの元勇者に『精神傀儡』を掛け情報を抜き取らせた後、その場で待機させていたクレアが死亡し、魂がウルザの『神域』に戻ってきたのだ。


[なに、何がどうなってるの。クレアを育成するのにどれだけのコストを……え、待って。なんでこの子たちステータスがリセットされているのよ]


 しかもよくよく逃走中の勇者たちを観察してみると、勇者たちはそれなりに成長したステータスが消え失せており、死亡ペナルティを受けたような貧弱なステータスで逃走を行っている事にも気が付く。


[死んだ? それなら私の元に魂が来ないなんてそんなこ……と]

 

 死亡したのに主神の元に来ず地上で強制的に蘇生されたとしか考えられない状況に、とんでもなく嫌な既視感を覚えたウルザは自分に言い聞かせながら、ポイント収支を確認する。


[そんなこと無いわよ。ここは樹木女の領域だもの。あの男がいる筈ないわ。そんな筈……自爆代あるー!]


 するとウルザのトラウマ、自爆代が支出欄に記載されていたことで、ウルザは堪えきれず絶叫してしまう。


 しかもこの後、逃走中の勇者たち10人がそれぞれ10回ほど強制蘇生を行っていた事や、勇者たちやクレアのステータスリセットの損失という現実がウルザに重くのしかかって来ることになるのだが、絶叫中のウルザはまだこの事を知らないのであった

 

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