誘爆の呪い
ポイントを消費することで行うことが可能な転移にも制限が課せられている。その1つが他神の支配領域に転移させる場合は、その神の了承を取らなければならないという制限である。
そのため大河を『ユグド』に転移させる場合は問題ないが、エルフィードとウルザで信者を分け合っている『イグドラシル』などには転移での移動はできなかったりするのだ。
そんな転移によって『ユグド』に到着した大河は見るからに屈強なエルフたちに囲まれていた。エルフたちは不気味なものを見るかのような目で大河を凝視してくる。
「貴方がエルフィード様が仰っていたシーラ様の勇者ですか? それにしては…」
「はい。……何か問題がありますでしょうか?」
「あ、いえ。問題という訳ではないのです。ただ我々エルフは魔術的な要素を五感で感じ取る能力が備わっているのですが……貴方から凄まじい呪気が立ち込めておりまして」
「ああ! すみません」
不躾な視線に何かやらかしたかと思った大河であったが、魔術の感受性が豊かなエルフから見ると呪いにまみれた大河は恐ろしい生物のように見えてしまうらしい。
一般人でもそれだけ呪いにまみれる事は稀であるが、勇者であればそこまでの状態になってしまえば一度死亡し呪いをリセットするレベルなのだそうだ。
確かに、これから最後の砦である隠れ里を捨てるという時に協力者として現れた勇者がそんな者であれば不躾な視線の1つを送るのは当たり前かもしれない。
「呪いは訳があって放置しているんです。なので気にしないでください」
「は、はい。それでエルフィード様から私たちは『イグドラシル』に避難するようにとの神託が下ったのですが……」
「はい。『イグドラシル』には現在、レイアさんと……オリーバさんが向かっていますので、その2人と合流していただければと」
「レイア様とオリーバ様が! ならば安心ですね」
「あ、はい。そうですね」
レイアとオリーバの名前を出した瞬間、エルフたちが明らかに安堵しているのが分かった。
あからさま過ぎる反応の違いに心に来るものはありつつも、この場面で一番困るのは大河が信用できないと彼らが避難をしてくれない事であるので、大河はレイアたちに感謝をしつつ、これからの詳細な動き方について説明するのであった。
◆◆◆
幾重にも張られた結界によって守られている『ユグド』。その入り口に10人余りの者たちがいた
「ここだ」
「本当ですか? 何も見えませんけど」
「ああ。巧妙な結界で守られているが俺様の『看破の魔眼』からは逃れられねぇ」
「ウルザ様が仰っていた場所とも符合します。ここがエルフどもの最後の希望『ユグド』で間違い無さそうですね!」
彼らはエルフィードの裏切りが判明して以降、『イグドラシル』でエルフたちの監視の任に就いていた女神ウルザの勇者たちである。ウルザからの神託を受け『ユグド』を滅ぼすためにここまでやってきていた。
「それで? 中には入れそうですか?」
「当たり前だ! 『看破の魔眼』はあらゆるものを看破する! 結界の入り方も例外ではない!」
「おお、流石はゴウショウさんです」
「そうだろう、そうだろう! 皆、俺様の後ろを離れないように付いてこい!」
詳細な場所はウルザから教えられており、厄介な結界も勇者の1人のユニークスキルで突破できた。
後は中にいるエルフたちと育成途中の勇者たちの相手をするだけの簡単なお仕事である。そうすればようやく、エルフたちの監視という退屈な任務からも解放される。そう勇者たちは考えていた。
結界を抜けた先は、小規模な村のような場所であった。いかにもエルフたちが隠れ住んでいそうな空間。
しかし前情報では少なくとも数十人は生活しているとの話であったが、とてもそうとは思えないほどの静寂が空間を支配していた。そのためゴウショウと呼ばれた男が感知系スキルで周囲を調べるように指示を出そうとする。すると、
「おい! 『生命感知』、『魔力感知』でもいい……」
「無駄ですよ。現在ここには、俺以外誰もいません」
「誰だ!」
視界の端から声が聞こえてくる。ゴウショウたちが声のする方に視線を向けるとそこには、男が1人立っていた。
ゴウショウ含め、殆どの勇者たちはその男が誰なのか知らなかった。しかし、1人だけその男について知っている勇者がいた。
「あ、あいつは!」
「知っているのかスズキ!」
「は、はい。少し前に『シイアの大森林』で交戦しました。ウルザ様から裏切りの勇者と呼ばれていたタイガって奴です!」
「コイツが!? 俺たちの仲間を爆殺しまくったっていう? 何でここに?」
「そんなことはどうでもいい! 爆発を警戒しろ!」
何度もの女神ウルザの討伐命令を退けたタイガという裏切り者の名前は、女神ウルザの勇者たちの中で広まっていた。
ちょうどその討伐命令を受け退けられた勇者の1人がこの場にいたことで、目の前の男の正体は即座に判明し、その場にいた全員が臨戦態勢に入る。
「あら? 知ってる人がいたんですね? 残念」
「はんっ! 残念だったな! てめぇの汚い戦法は通用しねーぞ! 確か爆発で視界を奪っての奇襲だったか? そんなの爆発に警戒してりゃー怖くもなんともねー!」
「ああ。安心していいですよ。さっきも言いましたけど、ここには俺以外誰もいないですし」
「てめぇの言葉なんざ誰が信じるかよ!」
タイガはもう一度登場時の言葉を繰り返すが、ゴウショウに冷たくあしらわれてしまい肩を竦めて残念がる動作をする。
「嘘なんてつかないんですけどね。そんな必要ないし」
「はぁ? そりゃどういう意味だ!」
「どういうって1人で十分って意味ですよ。『自爆』!」
「な、皆さが……はぁ?」
意味深な台詞を吐いたと思ったら、タイガはそのまま『自爆』を発動する。
唐突な『自爆』を警戒していたゴウショウたちは回避行動を取ろうとする。しかし今回の『自爆』ではその必要はなかった。
タイガが発動した『自爆』は限界まで爆発範囲を狭めたものであった。それでも普通の攻撃よりは範囲は広いが、事前に警戒して距離を取っていた勇者たちには届かなかった。
そのため爆発の被害を受けたのは『自爆』を発動したタイガのみという何のために発動したのか分からない爆発であった。
そのためゴウショウたちは何か意図があるのか考えようとする。しかしその前にそれはやってきた
「自殺? 確かアイッ……がっ、な」
身体が破裂したような衝撃がゴウショウを襲う。長い勇者生活の中でこれほどの衝撃を食らった事は一度もない。耐えようもないそれは、瞬間的にゴウショウの意識を奪うのであった。
意識を取り戻したゴウショウが顔を上げると、周囲には自分と同じように仲間たちが倒れていた。
そして目の前には先ほど自らの『自爆』によって身体が消滅した筈のタイガが立っていた。タイガはゴウショウたちが目を覚ましたことに喜んでいる様子であった。
「おお、やった。成功だ」
「……何をした」
「え? 何って見てましたよね? 『自爆』ですよ」
「お前の『自爆』は、お前を吹き飛ばすだけで俺様には当たっていない!」
『自爆』は確かに当たっていない。そもそもタイガが消滅してから少しタイムラグがあり攻撃を受けたのだ。『自爆』でそのラグはあり得ない。
ゴウショウの剣幕を受け、タイガは少し考える素振りを見せる。そして
「……まあいいか。『誘爆の呪い』って知ってますか?」
「『誘爆の呪い』? 死亡した際、その者が最後に受けた攻撃を周囲にいる仲間にも食らわせてしまうという呪いだろう? それがなん……まさか!」
「仲間の定義は様々ですが、ここでいう仲間とは、同じ主神を仰ぐ者って意味です。つまり俺と貴方は仲間ってことです」
「ふざけ、ふざけるな!」
「貴重な体験ですよ。『自爆』を受ける事はあっても、発動すれば必ず死んでしまう『自爆』する側を体験する事なんて、これからありませんから」
自分たちを襲った衝撃の正体を知らされ呆然とする勇者たち。
しかし勇者の1人が疑問を持つ。なぜ自分たちは女神ウルザの元に還っていないのかと。
「……待って。何で私たちは死んでいないの」
「え! そうだ。『自爆』のダメージを受けて、何で俺たちはここに居るんだ?」
「死んでいますよ。ステータスを確認すれば、レベルやスキルなどがリセットされていると思いますよ」
「はぁ!? す、ステータス……ほ、本当だ。なんで」
タイガの言葉により勇者たちは各々ステータスを確認し出す。そして自身のステータスがリセットされていることが判明したことで更に疑問は深まるのであった。




