下っ端勇者たち
魔獣がひしめく森、近隣の冒険者たちからは『シイアの大森林』と呼ばれ恐れられている魔境に向かう3人の男たちがいた。
「……本当にウルザ様からの神託があったんだなスズキ!」
「しつこいなマルイ。確かに神託を受け取った。近くにいる勇者たちと共に『シイアの大森林』に向かい、裏切りの勇者を殺せってな」
「裏切りの勇者ねぇ。大方、ウルザ様のご期待に応えられず逃げ出した愚か者だろうが」
彼らは女神ウルザの勇者であり、ウルザからの神託を受け、裏切りの勇者を殺害するため『シイアの大森林』に向かっていた。
「ただウルザ様が態々神託を授けるのは気になる。それに最近『シイアの大森林』の魔獣たちに異変が起こっているって情報もある。ここは慎重を期した方がいいかもしれん」
ウルザがポイントを消費してまで神託を授けてくる事は珍しい。しかも転生したばかりの勇者の殺害を命令するためだけにそれをするというのは普通ならば考えられない。しかもその勇者がいる場所はここ1週間ほど異変が続いている『シイアの大森林』である。
そのため男たちの中の1人は強敵と戦う前と同じように時間を掛けて準備をするべきだと考えた。しかし、他2人の意見は違った。
「そうか? 名前も聞いたことない新人勇者だぞ。俺たち3人で掛かれば余裕だろ」
「そうそう。それに少し前の亜人族たちの粛清では目立った活躍ができなかったからな。ここらで活躍しとかないとマズイからな。神託を受けのが俺たちだけとは限らないし、ゆっくりしていると功績を逃しかねん」
「……そうか? まあそうだな」
珍しいウルザからの神託だからこそ早期に処理して評価を上げるべきだという考えである。彼らのようにウルザ陣営の中では地位の低めな勇者がウルザに目を掛けてくれるようになるには功績を上げる他ない。おそらく『シイアの大森林』の近くにいたからという理由で回ってきたチャンスであるが、うかうかしていれば他の勇者に取られてしまうかもしれない。
その意見も一理あった。そのためそれに流される形で、3人は大した準備もせずに『シイアの大森林』に足を踏み入れるのであった。
『シイアの大森林』を男たちは順調に進んでいた。事前の情報通り、前まで少しでも中に入れば直ぐに襲い掛かってきていた魔獣たちを殆ど見掛けない。そのため予想よりも早く移動することが出来ていた。
「ここまで魔獣がいないってのも不穏だな。近々魔族の連中が何か仕掛けて来るかもしれないな」
「かもな。帰ったらコミュニティに報告を……っと待て」
マルイと呼ばれていた勇者が他2人を静止させる。彼の『生命感知』に反応があったようだ
「お、いたか?」
「……ああ。前方200m先に生命反応があった。人数は1人。周りに仲間はいない」
「よし、それならとっとと殺して帰ろう」
「殺る前に名前の『鑑定』を忘れるなよ」
「分かってるって。いくぞササキ!」
「おう!」
生命反応の強さ的に勇者であるだろうが、倒して主神の元に帰っていってしまえば確認する術は無くなる。万が一別の勇者であった場合目的の勇者を逃がしてしまえば、取り返しの付かない失態となってしまう。
それは他2人も分かっている。そのため前方に人影が見えた瞬間、『鑑定』を発動し名前を確認する。
「いたぞ!」
「ああ……オリガミ・タイガ、よし間違いない!」
目の前の男が裏切りの勇者で間違いないことが判明したため、スズキは、突然現れた自分たちに驚き固まっているように見える男に斬り掛かろうとする。
「よし、このまま速攻で殺る!」
「あ、待て! こいつのスキル、自ば―――」
しかしスズキの剣が男に届くことは無かった。それよりも早く目の前の男は大爆発を引き起こしたのだ。
目の前でノーモーションで大爆発を起こされては避けようもないため、スズキたちは迫り来る閃光に埋もれ消滅するのであった。
スズキたちの後を追っていたマルイはギリギリ爆発には巻き込まれ無かったが、吹き付ける爆風と視界を遮る爆煙により動くことも儘ならなくなってしまう。
「くっ! なんだこの爆発は! 罠か? それとも…取り敢えず『生命――かひゅっ!」
そのため、どうにか状況を確認しようと『生命感知』を発動しようとする。しかしそれは爆煙から突然現れた剣がマルイの身体を貫いたことで妨げられる。
「なん…で」
「…………」
愕然とした表情を浮かべ、爆煙で姿も見えにくい相手に問い掛けるが答えは返ってこない。その代わりに追撃の剣が振るわれる。
確かに数瞬前に『生命感知』をした際には周囲に仲間はいなかった筈である。それなのに目の前には敵がいた。理解が追い付かない状況のマルイは、その追撃に対して全く抵抗することができずそのまま死亡するのであった。




