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未来の悪逆皇子にスパダリしてたらすっかり毒気を抜かれて可愛い天使になりました ※でも裏で実は…?  作者: しきみ彰


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8.過去:最強女辺境伯、彼の固有魔法について心配する①

 一見すると余裕があるように見えるカルロッタだが、実を言うと不安もある。


(というより、不安要素が多いからこそ、ここまで準備をしているんだろうな、私は……)


 思わず自嘲する。


 自分でも自覚はある。

 テリウスを婚約者にしてレッサリウム領に連れてくることに成功した以上、小説のシナリオとまったく違うのだし、そこまでする必要はあるのか? 考えすぎなんじゃないか? と耳元で囁く声もある。

 しかし、彼女の勘が告げているのだ。


(この違和感は、テリウスのためにも見逃すべきじゃない……)


 それは、テリウスがレッサリウムにいる間に発現したとある能力が原因だった――



 *****



 その力――『魔物を引き寄せる植物を生成できる力』が目覚めたのは、テリウスがレッサリウムに来てから一年経った夏の頃だった。


 そもそもの発端は、テリウスがレッサリウム領の領地改革に乗り出したことだ。


 その頃の彼は、カルロッタに促されるまま真面目に学んだ末、自身の『植物魔法』を発現。結果、今まで彼との婚約に難色を示していた家臣たちに認められ、さらなる価値を示そうと躍起になっていた。


 当時のカルロッタは、困っていた。そこまでして自身の価値を示そうとしなくてもいいと思っていたからだ。


 カルロッタがテリウスに対してそのような誘導を行なったのは、家臣たちの反対に対して、彼が気にするそぶりを見せていたからだ。


 どんなにテリウスの耳に入らないように気にかけていても、自分が歓迎されていないことは肌感覚で分かるのが子どもというものだ。宮廷という蠱毒のような環境で暮らしてきた彼なら尚更だろう。


 小説を知っているため、テリウスがどんな力を持っているのか理解していたカルロッタは、それを伝えるか悩んだ。というのも、テリウスがその力を発現させたのは、作中において成人した後だったからだ。

 しかし同時に、彼が皇族である以上、困難からは避けられないと考えたのだ。


(テリウスにとっても武器になると思い、彼が『植物魔法』を開花できるように軽く誘導したんだが……気が早かったか?)


 だけど本人がやる気になっているのはいいことだし、何より魔法の習得は早ければ早いほど役立つ。

 というのも、こういった固有魔法は、『イメージ』によって操作する一般的な属性魔法と違って、『願い』によって操作できるものだからだ。

 なのでその『願い』をどれくらい注ぐのか、どんな思いを込めるのか……その塩梅がとても難しい。


 カルロッタも『裁断魔法』という固有魔法を使えるので、その難しさはよく分かる。

 たとえるなら、目の前に扉があって、それを開けるためにノックをする感じと言えばいいだろうか。

 しかしノックの仕方を間違えるとそもそも開かないし、ノックの加減を間違えると自分が望まぬ形で魔法が具現化してしまうのだ。

 この辺りは本人によっても感覚が違うため、それを身につけるためには自己研鑽が欠かせない。


 むしろ作中では遅すぎた……などとうんうん考え込んでいたカルロッタの心配をよそに、テリウスは嬉々としてレッサリウム領の課題に取り組んだ。


「……テリウス、そんなに楽しいか?」

「もちろん! 自分に力があるのって、こんなにも自由で頼もしいんだね、カルロッタ! 僕、レッサリウムに来なかったら多分、それを知る機会なんてなかったよ!」

「……そうか。君がそう言ってくれただけで、私は十分だよ」


 実際、テリウスが成人後に力を発現させることを知っていたカルロッタは、その言葉に先ほどまで感じていた後悔や迷いが吹き飛ぶのを感じた。

 同時に、自身の物差しで彼の行動に制限をかけようか迷ったことを反省した。


(テリウスがこんなにも楽しんでいるんだ、それに水を差すつもりはないし……何より、レッサリウムでは自由に過ごせるようにさせたい)


 カルロッタは決心した。


「テリウスがそこまで喜ぶなら、君専用の研究所を作らせよう」

「…………え?」

「さすがに城内に作ると怒られるから、外か……領地は腐るほどあるのだから、せっかくだし大きな建物がいいだろう。あ、植物の栽培には、温室があったほうがいいな……それも作ろう」

「ちょっと待って? 始めようとしたばっかりなのに、作らせるものの規模がおかしくないっ!?」


 カルロッタは首を傾げた。


「しかし必要だろう?」

「そ、それはそうだけど……普通、もっとこじんまりした感じから始めるものじゃないの……?」

「安心してくれ、金なら腐るほどある」

「何も安心できないよ!? 僕が言いたいのはそういうことじゃないし!」


 テリウスにそう言われたが、カルロッタはサクッと作った。

 テリウスを信じていたし、彼のためなら自分にできることをしたかったというのもあるが、魔物が住まうレッサリウムの地において、食糧自給率の問題はかなり前から問題視されていたからだ。


 そもそもレッサリウムは、魔鉱山が聳え立っている影響で、大地に魔力が満ちている。

 そういう地で育つ植物もあるが、主食足り得ない。

 かといって、穀物が豊富に取れる南部で使われているような小麦を植えても、魔力が多すぎるせいで育たないのだ。


 つまり外部からの供給に頼る他ないのだが……ここで問題が二つ生じる。


 一つ目は、倉庫に食糧を保存しておいても、害獣による被害が少なからず出るということだ。

 レッサリウム領の動物たちは魔力のこもった食べ物を食べて育つため、一般的なものより強く凶暴だ。魔物ほどの脅威ではないものの、食糧倉庫を狙って襲ってくることなどしょっちゅうある。

 なので倉庫の数を増やしたり、倉庫そのものを強化して貯蓄する量を分散させて対策を講じているが、そのせいでひもじい思いをさせたり、不安を抱えて過ごす領民も多い。領主としては、できる限り不安を取り除きたいと考えるのは普通だった。


 二つ目は、レッサリウム領の交通の便が悪いことだ。

 魔力で満ちている土地だからか、外部との通行手段である転移門(ゲート)との相性が悪いのが理由の一つ。

 また、冬場は雪が積もる土地なので、魔物による被害を補填するために外部を頼っても、すぐに食糧を用意できないという点も痛い。


(あと、金はあるからまだなんとかなっているが、レッサリウム領の食糧事情を知った上で、相場よりも高い値段を提示してくるところが多いからな……)


 そう。お金はあるからといって、ぼったくってくる商人と取引などしたくないし、そんなことでイライラしたり、無駄な交渉の時間がはまったりするのは大変ストレスなのである。


 かといって、魔法使いたちの独立機関である天空島はそもそも外界との接触をできる限り絶っているし、国内の他の地域には見られない現象なので協力者もいない。なので結局自分たちでやるしかないのだが。


(レッサリウムはどちらかというと肉体労働派ばかりで、そういう知識を持つ人間がいないんだよなぁ……)


 外部から人を雇おうとしたこともあったが、皆この地の過酷さに耐え切れなくなるとすぐに辞めてしまった。給金をあれだけ弾んだのに、軟弱な。


 つまりレッサリウムからしたら、テリウスの存在は光そのものなのだ。

 それに、新たなチャレンジに失敗はつきものだ。うちの家臣たちも、その点に関しては重々承知しているため、たとえ失敗したとしても文句は言わない。


「カルロッタ、来て!芽が出たんだ!」


 そう思い、見守っていたら……ある日、テリウスはカルロッタの腕を引っ張り、そう言ってきたのだ。

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