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未来の悪逆皇子にスパダリしてたらすっかり毒気を抜かれて可愛い天使になりました ※でも裏で実は…?  作者: しきみ彰


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4.現在:最強女辺境伯、第三皇子を送り出す

 驚くほど滑らかに進む馬車の中でカルロッタが考えていたのは、この六年間のことだった。


 自分にできることはすべてやってきたつもりだ。

 皇都へ向かうこの道が整備されているのもそのうちの一つだし、それ以外にも様々なことをテリウスと共にやってきた。


(……まあ、それだけのことをしたとしても、テリウスが何事もなく平和に過ごせる日は未だ遠いんだが)


 それもあり、思わずテリウスに視線を向けていると、それに気づいた彼が首を傾げる。


「どうかした? カルロッタ」

「いや……」


 テリウスの頭から足の先までを確認したカルロッタは、改めてその成長ぶりを感じてしみじみと頷く。


「あんなに小さかったテリウスがもう成人とは……時の流れというのは早いものだな」

「……年寄りみたいなこと言わないでくれる?」

「ははは。領主をやっていると苦労が多いのでね、つい年寄りめいたことを言ってしまうんだよ」


 六年の歳月を経てすっかり軽妙なやりとりをするようになっていた二人は、それからの道中でも付かず離れずの距離で楽しく会話をしながら、数日かけて皇都に辿り着いた。


 するとテリウスは、そこで衝撃的な言葉を発する。


「あ、そうだ。僕、レッサリウムのタウンハウスじゃなくて、宮廷に行くから」

「………………は、?」

「あ。もう手配も終わってるから、安心して」


 カルロッタは思わず、テリウスを三度見する。

 すると、テリウスは呆れた顔をした。


「あのねぇ……僕はこう見えて、皇族なんだよ? しかもまだ結婚してないんだ。そんな人間が皇都に戻ってまで婚約者の家に入り浸ってるのはダメでしょ?」

「それは最もだが……私が今まで、君を意地でもレッサリウム領から出したがらなかった理由は分かってるはずだろう」

「もちろん。宮廷なんて正直帰りたくないよ。僕にとっては伏魔殿みたいなものだからね」


 けど、とテリウスは続けた。


「もう成人するんだ、いつまでも目を逸らし続けてはいられないでしょ?」

「…………」

「それに、『逃げてばかりではなんの問題も解決しないなら、一度撤退した後に準備を整えて再戦するしかない』って教えてくれたのは、カルロッタだよ?」

「……それはそうだ」

「でしょ? そして僕は、自分の問題に立ち向かうために、レッサリウム領でたくさん準備をしてきた。なら、僕が変わったってことを見せつけるためにも、宮廷には帰らないと」


 カルロッタは、自身の胸に複雑な感情が込み上げてくるのが分かった。

 テリウスの成長を直に感じられて嬉しい一方で、なんだか手元から本格的にいなくなってしまう気がして寂しいような。まるで、雛の巣立ちを見守る親鳥のような心地だ。


(けど、テリウスの言うことは正しい)


 いくらカルロッタが、幼少期のテリウスが過ごした環境を変えたからと言って、否、変えたからこそ気づいたのだ。テリウスが持っている性質は、一歩間違えばいくらでも悪用できてしまうものばかりだったのだから。


 そんな彼はいつも、不穏ととなり合わせの生活を送る羽目になっていた。そんな状態で守りにばかり徹していては、いずれ立ち行かなくなる。なので力をつけたのなら、問題に自ら立ち向かってそれを乗り越えなければ意味がない。


 同時に、カルロッタの心中にはモヤモヤとした思いが込み上げていた。


 まるで生まれたときから、悪役になることを義務付けられたかのようだった。


(そんなこと、あってたまるか)


 こんなにもいい子に育ったのだから、テリウスは絶対に幸せになるべきだ。否、カルロッタがしてみせる。

 改めて決意してから、カルロッタは彼を安心させるために笑みを浮かべた。


「分かった。君がそこまで言うのなら、私は見守ろう」

「うん」

「……いや、待て。虫除けはしておこう」


 そう言うと、カルロッタはテリウスの婚約指輪に口付けをする。

 実を言うと婚約指輪の石には魔石を使っているので、魔法が仕込めるのだ。


 婚約指輪を見つめながら、テリウスが首を傾げる。


「何を仕込んだの?」

「転移魔法だ。魔力を込めれば起動し、対の石がある私のところに転移するようにしてある」

「そんな大魔法を? 大袈裟な……」

「大袈裟なものか。あんな伏魔殿で、いつ寝首をかかれるか分からない日々を過ごすんだ。これくらいしたって足りないくらいだろう?」


 そう言うと、テリウスは一瞬面食らった顔をしてから、照れた顔をした。


「そっか……そうだよね、うん」

「ああ。君の帰る場所はいつだってレッサリウムだ。それだけは忘れないように」

「うん」


 じゃあ、行ってくるね。


 そう微笑むテリウスの顔は、それはそれは美しかった。



 *****



 カルロッタの前では強がり、なんてことない顔をして見せたが、テリウスは宮廷へ向かうのが嫌だった。

 だって宮廷は彼にとって、自分が弱すぎるあまり、惨めで情けなくなるような記憶しかないからだ。


 テリウスが宮廷で過ごしていた頃の惨めで嫌な記憶――それらの多くは、皇帝の伴侶たる皇妃たちの手によってもたらされていた。


 もちろん、中にはこっそり手を貸してくれた皇妃もいたが……基本的に皆、メイドから生まれた汚れたちを持つ皇族のことを疎んでいたからだ。

 そして唯一の肉親である皇帝も、子どもたちに等しく無関心だったため、止める者はいなかった。


 国のトップがそれなのだから、使用人たちも同じように扱う。

 なので母親が亡くなってからというもの、彼は宮廷内で空気のように扱われていた。


 しかしある日、それはさらに悪化する。

 それを助長させある理由は、皇帝がテリウスが十歳の頃に告げた後継者の方針のせいだった。


『最も皇帝の器たる余の血を引く子どもを、次の後継者としよう』


 その発言により、皇妃たちは自分の子どもを守って周囲を蹴落とすことに躍起になった。

 そして、本来であれば選ばれないであろうと考え、今まで存在そのものを無視していたテリウスを殺そうと考える者が現れた。


 しかし殺せなかった。それは彼が皇族ゆえに持つ『皇家の血を継いだ者は、毒や病にならず、回復力が高い』という特徴のせいだ。


 そしてそのせいで、降り注ぐ悪意の矢はますます過激になった。

 だからこそテリウスは、広い宮廷の中でひとりぼっちだった。


 それでもなんとか生き足掻いたのは、母が最期に残した言葉があったから。


『テリウス……不甲斐ないお母さんでごめんなさい。どうか……あなたが幸せに過ごせる場所を見つけて』


 誘拐される前まで、彼は自身にそんな場所ができるなんて考えてもいなかった。


(けど、今は違う)


 目を閉じれば、レッサリウム領の風景が、一緒にそれを守ってきた家臣たちの姿が、領民たちの姿が浮かぶ。そして、テリウスにそんな居場所を作ってくれたカルロッタの姿も。


 だから今の彼に、もう怖いものは何もないのだ――

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