13.現在:最強女辺境伯、宣戦布告をされる
それから無事に宮廷パーティーは終わり、カルロッタはテリウスを連れてタウンハウスに帰宅することにした。
というのも、今宮廷に戻れば間違いなく、ミルフィアたちに八つ当たりをされると思ったからだ。
カルロッタが提案すると、テリウスは「まあ、その通りだね。今日くらいはゆっくり休みたいし……」なんて言って、素直に頷いてくれる。
(よかった、てっきり渋られると思ったからな)
それもあり、意気揚々と帰ると、屋敷のみんなが大喜びで二人を出迎えてくれた。
「テリウス様、お久しぶりです! 宮廷での生活は大変ではありませんか?」
「まあまあかな……」
「テリウス様ー! きちんと食べていらっしゃいますか!? テリウス様は少食であられるから、心配で……」
「た、食べてるよ……まあレッサリウムのご飯に適うものはないけど……」
「テリウス様……!」
どうやら、使用人たちはみんな、テリウスの状況が心配だったらしい。ものすごく詰め寄っている。テリウスがたじたじになるレベルなので、かなり珍しい。
そんなテリウスににこにこしながら、カルロッタがさっさと風呂に入って寝室に戻ると、そこには同じように風呂上がりのテリウスがいた。
「あ、来た。よくも僕のことを置いていったね……?」
どうやら、不服を訴えに来たらしい。
そんな様子に可愛いなと思いつつ、カルロッタは「すまんすまん」と謝った。
「けど、たまにはいいものだろう? レッサリウムは君にとっての実家なのだし」
「それはまあ……うん」
どうやら、テリウス的にも悪くなかったらしい。表情にそれが現れている。
(せっかくだし、今日のパーティーの話でもするか)
そう思ったカルロッタは、ベッドのふちに腰掛けるとテリウスを誘う。
「まあ、せっかく来たんだから、話でもしよう。おいで、テリウス」
「……………はいはい。何?」
テリウスは、何か言いたげな表情をしたまま、しかしそれを飲み込んで、人一人分ほど開けた位置に腰を下ろした。
(今日は普段よりツンツンしているな。さっき、私が置いていったからか? それとも疲れてるからか……)
そう思いつつ、テリウスの頭を、カルロッタは撫でる。びくりと、彼が肩を揺らした。
「な、なに!?」
「いや、今日は偉かったと思ってな。思っていたよりもずっと、宮廷パーティーに馴染んでいたじゃないか」
「そ、そんなの、普通でしょ……」
(……それが、小説の中だと普通じゃなかったんだよな)
小説の中のテリウスは、成人ということでようやく出席できた宮廷パーティーに期待をしていたが、しかし貴族たちから心無い言葉をかけられて心を折られ、会場の外の庭で一人泣いていた。
それを知っているカルロッタとしては、貴族たちと和やかに会話をするだけじゃなく、あまりにもしゃんとした姿を見て、なんだか色々な感情が込み上げてくる。
小説の中の時系列にようやく足を踏み入れ、自身がやってきたことがテリウスのためになっていると分かったからだろうか。今日は感傷的になっている気がする。
そんな気持ちを飲み込み、カルロッタは肩をすくめた。
「いや、とても素晴らしかったよ。それに私が見ていないところで、もう貴族たちと関わりを持っていたみたいだな。宮廷に戻りたいと言ったのも、このためか?」
「まあね。いつまでもカルロッタにばかり頼っていられないし」
「ははは。君だって十二分に、レッサリウムに貢献してくれているじゃないか。頼ってばかりだなんてとんでもない」
「……そう思ってもらえてるなら、悪い気はしないけど」
「そうだぞ。自己肯定感は上げていったほうがいい」
そこまで話してから、カルロッタは当初から言おうと思っていたことを口にする。
「それで、だ、テリウス」
「なに?」
「今日の宮廷パーティーで、気になる同年代の子はいたか?」
「…………え?」
カルロッタは、きょとんとした。
「挨拶をしていただろう? 気になる人がいたら、と思っていたんだが。レッサリウムには、貴族で同世代の子どもと関わる機会は少なかったからな」
なぜだろうか。口を開けば開くほど、テリウスの空気が悪くなっていく気がするのだが。
困惑するカルロッタをよそに、テリウスは目を細めて彼女を見る。
「……それってつまり、僕が気になる異性がいたって言ったら、婚約を解消するつもりだってこと?」
「え? ま、まあ……それはそう、だな……?」
カルロッタ個人は気にしないが、社交界において年上の女性と結婚することは、嫌な意味で噂になることが多い。
正直馬鹿馬鹿しいと思うが、きっとテリウスだってカルロッタのことを保護者と思っているだろう。それなら、別の選択を提示するのも、大人の役割だ。
(……そうなれば会う機会は減るわけだし、寂しくないと言ったら嘘にはなるが……)
なんてカルロッタが思っていると。
どんっと、乱暴に押し倒された。
(え?)
カルロッタが目を丸くしていると、テリウスは上から見下ろしながら低い声で言う。
「……僕との婚約を取り止めてもいい? 今更僕のことを捨てるの? そんなこと、許さないよ」
なんと言えばいいのか。空気がとても不穏だ。
元から、カルロッタのことが大好きだという空気を隠さないテリウスであったが、今回は背景に黒いものが滲み出ている。
(環境が変わったことで、天使のような純真な子になったと思っていたのだが……私の勘違いだったか……? この場合、小説通りの流れに足を踏み入れてしまったことになるのか……っ?)
背筋に冷たいものが走るのを感じつつ、カルロッタはふう、と息を吸った。そして首を横に振る。
「君を捨てるつもりなんてさらさらないさ、テリウス。ただ、君はまだ子どもだ。色々な経験ができる年齢で、考えが変わることも多い。だから私は、その選択を尊重したいと思っただけで……」
「分かってない」
「え」
「僕が言ってるのは、そういうことじゃないよ、カルロッタ」
「????」
元々、その辺りについては鈍いほうだが、今回は本格的に何を言われているのか分からない。
カルロッタが盛大に困惑しているのを見て、全てを悟ったらしい。テリウスはため息をこぼしながら、言う。
「カルロッタが僕にそういう目を向けてないのは知ってたよ? 僕は未成年だったし、それは正しいよね。けどさ、僕は一応婚約者なんだよ。本来ならそういう関係だって分かってるよね?」
「それは……君を守るのに一番手っ取り早い関係がそれだっただけで……」
「知ってるよ、それくらい。けどさ、寝室にいても怒らないどころか、ベッドの隣に座るように言うのははどうなの? 僕、男として意識されてないよね?」
「……えーっと……」
ここで意識していないと言っても、してるともと言っても、怒られる気がした。なのでなんと言ったらいいのか分からず口をもごもごとさせていると、テリウスがにっこりと微笑む。
「カルロッタにその辺りのこと、期待した僕がバカだったよ」
「テリウス……?」
「けど……ここまでしたら、分かるでしょ」
テリウスの美しい顔が近づいてくる。
――ちゅっ。
唇に温かい感触が広がったとき、カルロッタはキスされたことに気づいた。
同時に、テリウスが勝ち誇ったような顔をしてから、スッと目を細める。まるで獲物を狙う狩人のようだと、他人事のように思った。
「これで分かった? 僕はカルロッタのこと、ずっと恋愛的な意味で好きだって」
そう言ってから、テリウスはカルロッタの唇を親指でそっとなぞる。
「と、いうわけで。成人したんだし、これからは隠すことなんてしないし、カルロッタを僕が手放すなんてあり得ないから。 ――覚悟してよね?」
面白かった!という方、良ければ☆評価やリアクションをしてもらえると、私のモチベーションが上がってとても助かります!




