おとぎの国
今回はカイルと、エリオ君も一緒だった。
正直、反対したけれど、エリオくんは頑として退かなかった。
ここで行かなければ自分が来た意味がないと。
彼は元々、危険だろうと、なんだろうと、貴族失踪事件を調査するつもりでここに来たのだ。
僕は観念した。
それに、オイレさんは味方にならないまでも、今のところ敵には回っていない。
気になるのは、赤い人狼、それを守るように現れた、あの強烈なプレッシャーだ。
***
紅玉楼は僕たちが思っていた以上に、大人な雰囲気を漂わせていた。
流石に、カイルとエリオくんを伴って中に入るのはまずいだろう。
カイルとエリオ君は周辺の宿で待機。
結局、僕とユノ、そしてリシアのグループで潜入することになった。
こんなときに、リサが居てくれたらと、心から思う。
***
「いや……いやいやいや! 絶対に変だよ」
僕は白雪姫だとか、シンデレラに出てくる王子様のような服を着せられていた。
金髪の顎の割れたイケメンが着るならともかく、これは無理がある。
本当に無理がある。
「文句言うなよ、俺だって嫌だ」
黒いロングドレスに身を包み、髪をアップにしたユノが言う。
「大丈夫にございます、ユウはとても似合っておりますし、ユノア様は……馬子にも衣装で、とても素敵な仕上がりです、たぶん」
白を基調とし、金の刺繍が施されたドレスを着たリシアが言う。
スレンダーで長身、スラッとした美人のユノと、どこか神秘的にすら感じられるリシアを両側に配した僕は、
なんだろう、衣装を着せられて連れてこられる、曲芸のチンパンジーみたいだった。
あまりに拒否する僕に、
「じゃあ、お前、エリオにこの役やらせる気かよ? 俺たち、めちゃくちゃ危ない女になるぞ」
とユノが語気を強める。
確かに、あんな爛れた場にエリオ君を連れて行くなんて以ての外だ。
半分、遊郭みたいなお店に女の子たちを連れて行くのはいかがなものかと思ったが、僕とカイルが二人連れ立って行ったところで、門前払いだろう。
「世の中には、そういう趣味の方もいらっしゃいます」
「別に、女を伴って行くのは変じゃないどころか、ステータスらしいぞ」
という女性陣二人の意見に翻弄され、僕はこんな七五三みたいな状況になっているのだった。
実際問題、僕とカイルが二人で潜入したところで、何も掴めない、何も引き出せないという、現実的な問題もある。
僕はうなだれ、リシアにやられるがまま髪を整えた。
***
「ユウは横柄に頷くだけで構いません。
ユノア様は、喋らないで下さい」
リシアは僕とユノに指示を出す。
ユノのことを気にしてくれとは言ったが、なんだか、いちいち言葉が刺々しい。
紅玉楼というのだから、ルビーのような派手派手しい建物を想像していたが、赤を基調としたアウターヴァルにあって、紅玉楼はその名に反し、真っ白な大理石――石造りの建物だった。
素人目に見ても、その重厚感や洗練された佇まいは、普通でないと感じられた。
門の前に立つ、衛兵だろう人に、リシアがエリオくんから借り受けた指輪を見せ、僕の後ろに控える。
衛兵は僕のことをじっと見たあと、用紙で何かを確認して。
おもむろに門を開けた。
ちなみに僕もリシアもユノもそれぞれ仮面をつけていて表情はある程度隠せているはずだ。
アウターヴァルで仮面は珍しいものではない、それでも借金などで人が消えるのは仮面をつけたところでオイレさんの目から逃れることができないからなのだろう。
重厚な扉の先には、綺麗に敷かれた導入路があり、ガラス? 宝石?
ステンドグラスのような廊下に、アーチがあった。
まるで、御伽の国にワープするような、そんな。
両側に控えたいかにもメイド然とした、年若い女の子たちが、スカートの裾を引いて出迎えてくれる。
僕たちはその間を、ゆっくりと歩いた。
喉がひりつく。
自分がうまく歩けているのかどうか分からなかった。
僕の両腕をユノとリシアが支えてくれてるから歩けてるけど。
これじゃあ、僕は捕獲された宇宙人だ。
我ながら情けない。
僕は完全に気圧されていた。
二つ目の扉を抜けると、そこはダンスホールを中心とした円形のラウンジだった。
仮面をつけた、紳士淑女が酒を酌み交わし、時に談笑し、時に踊り、時に音楽に耳を傾ける。
見ているだけで頭がぼーっとした。
本当にここは、まるでおとぎの国だ。




