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それぞれの事情

僕たちは一旦、カイルたちと合流することにした。

ユノとリシアは……なんだか、ずっと険悪だ。


オイレさんからもらえた情報は、とても有力だった。

正直に言えば、僕たちだけでは到底たどり着けない類のものだった。


示された場所は――紅玉楼。


これは後から、あのカナリアみたいな黄色い服を着たメイドさんが、渡してくれた情報だった。


オイレさんは、この街の大体のことを把握している。


「旦那様はおっしゃいました。

『オメぇが、いつケツを拭いたのかすら分かる』と」


上品な声で、メイドさんはそう言った。

……いや、それはどうなんだ。


ヴォルフさんのところのメイドさんもそうだけど、

この世界のメイドさんって、ちょっと特殊じゃない?

と、僕は一瞬だけ、現実逃避みたいなことを考えた。


でも、そんなことは問題じゃない。


問題は――

そのオイレさんですら、把握しきれていない場所があるということだ。


それが、紅玉楼。


最近できた社交場で、

一階には上品な社交室、

二階以降には洗練された宿泊施設がある。


上がりも十分。もめ事もなし。

オイレさんとの関係も良好で、表向きは何一つ問題がない。


だからこそ、怪しい。


オイレさんは、こう言ったらしい。


『マダム・シュランゲは、最高の淑女レディーだ。

俺のところにも、キッチリ挨拶にきた』


カナリアリメイドさんは、その言葉を、まるで見本みたいに再現していた。


そして、こう続けたという。


『……なのに、おかしいだろ?

 その店からも、客が消える』


つまり。


全く怪しくない。

客を守るはずの店から、客が消えている。


異常の中の正常。

その正常から生まれる、異常。


貴族や客が消えているのは、その店だけじゃない。

もちろん、オイレさんが直接指示を出さなければならない、分かりやすく問題のある店はいくらでもある。


だからこそ――


なぜだ?


なぜ、優良店から、客が消える?


***


今すぐにでも紅玉楼に行きたかった、が、それ以前に解決しなければならない問題があった。

黙り込んだユノといつも通りのリシアだ。

カイルと合流した僕は明日、これまでの成果と今後の話をすると、告げて別れた。

一刻も経緯を知りたいだろう、エリオくんには申し訳なかったけれど、今のままではダメだと思ったのだ。


僕は久しぶりにリシアと二人の部屋を取ってもらった。


僕の世話をしようとするリシアを制して、僕はリシアにお茶を淹れる。

あまり詳しくないけど、リシアから茶葉を貰って。

魔術を使ってお茶を淹れる。


水から不純物を取り除く。

イメージだ。

リシアは魔術はイメージだといった。

自然への命令だと。

言葉や思いを使って、いかに魔法に伝えるかだといった。


だから僕はお願いする、リシアが喜ぶ紅茶を、

それを淹れられるように、綺麗な水を、適した温度を、炎を調節する。

落ち着いて、落ち着いて。

雑念をはらい、それだけを心の中に。


茶葉が動き、中空でお湯が沸く、適切な空気を、適切な温度を。

お湯の中で茶葉を蒸らし、そして、要らないものを漉してポットに入れる。

茶葉は外の小皿に、これはゴミじゃない。

リシアは出涸らしの茶葉をよく眺めていたから。

なるべく自然、なるべく綺麗に。


「どうぞ」


僕が言うと、リシアは何だか不思議そうな顔をして紅茶を一口、口に含んだ。


そして言った。


「『クソまずいな』でございます」



ちょっとは美味しく出来るかな、とか、思ったけど、これが僕の限界か。


というか、なんで昨日のメイドさんとユノのマネを織り交ぜたんだろう?


「ぬるいお湯、茶葉も動いておりません、それから水もひどいものでござきます、甘いです、苦いです」


僕は自分が精製した水を飲んで、理解する。

うん、甘いし雑い。


何もかもが中途半端だった。


「頑張ってるつもりなんだけどね」

苦笑いを浮かべる。


僕が言うとリシアは

「ユウは誰よりも頑張っています、ゆえに、美味しくなくてもとても美味しい」

と、僕の淹れた紅茶を瞳を閉じて飲んでくれる。


「リシア、ユノも同じなんだ」


見てあげてほしい。

僕はこの数日でユノの危なさを知った。

僕はなんだかユノのことをずっとお姉さんのように見ていたけれど、考えてみれば年も僕より下か同い年くらいで。

彼女の知ってる事なんて、この世界の一部でしか無いのだ。


けれど僕は知ったつもりで、分かったつもりで、ユノは強いとか、リシアは分かってるとか、思ってる。


「リシア、僕が間違ってるなら教えてほしい」

僕はリシアに言った。

リシアは僕の言葉に視線を落とした。


リシアにはリシアの事情があるのだろう。


だから、それ以上は望めない、僕はユノのことをみてあげて欲しいとリシアにもう一度、頼んだ。

リシアはとても複雑な表情をしたあと、コクリと頷いた

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