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出来すぎている

リシアはラウンジの出入り口に陣取り、あの瓶に一際強く反応した客たちを、次々と拘束していく。


彼らは知っているのだ。

――この薬が、何なのかを。


もし“消される”のだとしたら、まず最初に狙われるのは、この人たちだ。


回収が終われば、楼の外へ。

貴重な証人になる。あとはリシアに守ってもらえば安心だ。


一方で、ユノは相変わらず縦横無尽に暴れ回っている。

……ほんとに演技か、あれ?

と、僕は少し不安になる。


そうしてようやく――

今回の本丸が、姿を現した。


「あら、あら……ずいぶん、壊してくれたわね」


マダム・シュランゲだ。


氷のように冷たい瞳が、ユノを射抜く。


「下手なお芝居は、おやめなさい。

お嬢さん、その飲み方では――

薬に効力は、無いわ」


シュランゲの言葉に、ユノの動きが、ぴたりと止まる。


……想定内。

だが、想定内すぎて――少し嫌な予感がした。


僕たちは、シュランゲが“しらを切る”前提で、いくつもの搦手を用意していた。


ユノが、瓶に直接口をつけなかったのは、その中でも、もっとも分かりやすい罠だ。


そして、その初手の罠に、シュランゲは、あまりにもやすやすと乗ってきた。


「……認めるってことか?」


「認める?

ああ、その薬のことかしら。

ええ、そうね――私のお薬よ」


ユノの問いに、シュランゲは悪びれる様子もなく、あっさりと肯定した。


……そもそも、隠す気が無いのか?


「良い薬でしょう?

でも、飲み過ぎはダメよ。

狼さんに、なっちゃうから」


妖艶に、シュランゲは笑う。

真っ白な顔に、ひときわ目立つ赤いルージュが、不気味だった。


シュランゲは言う。

その薬は、もともと大量に飲むことを想定していないし、暴れることを促す薬でもない。


少しだけ、欲望を解放し、心を、ほんの少し楽にするためのものなのだと。


「……飲んだあなたなら、分かるんじゃなくて?

お嬢さん」


僕がユノを見ると、ユノは、短く頷いた。


「確かに、この薬は別に破壊衝動を呼び起こすもんじゃねえ。

ごく単純な欲望を、解放するだけだ」


ごく単純な欲望。


それに、ユノが耐えてきたことを思えば、確かに、それ自体は――

堪えられるレベルのものなのかもしれない。


でも、問題はそこじゃない。


薬の効力がどうこう、という話ではなく。


「貴方は、貴族や商人、あるいは冒険者の失踪事件にも、関わっていますよね?」


シュランゲは、くい、と首を傾げた。


「関わってると言えば、関わってるかしら?

でも私は、ルールに則って売買をしているだけ。

この街で、別に悪いことをしているわけじゃなくてよ?」


……どういうことだ?


その、のらりくらりとした受け答えに、痺れを切らしたユノが、踏み出す。


「御託はいい。

貴族どもを、どこへやった?」


その言葉を、待っていたと言わんばかりに、シュランゲは、ゆっくりと頷いた。


「――ついていらっしゃい」


そして、微笑む。


「VIPルームに、ご案内差し上げるわ」



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