リシアの観測と、寝起きのユノ
翌朝、僕が目を覚ますと、ユノはもう起きていた。
窓際で珈琲を飲みながら、なんだか妙にすっきりした顔をしている。
そういえば以前、リサが言っていた。
ユノがよく昼寝をするのは、夜も周囲の気配を探り続けていて、眠りが浅いからだと。
寝ているように見えて、実際にはただ目を閉じているだけ。
そんな状態なんじゃないか、と。
……良くも悪くも、薬のおかげで、久しぶりにちゃんと眠れたんだろうか。
「おはよう」
声をかけると、
「……よっ」
と、ユノは少し間の抜けた返事をして、手を上げた。
寝起きのせいか、ほんのり顔が赤い。
それが昨日のことを気にしているせいなのか、単に血行がいいだけなのか、僕には分からない。
「体調は大丈夫?」
そう聞くと、
「おかげさまで」
と、そっけなく返される。
……うん。
いつものユノだ。
その様子に、僕は素直にほっとした。
僕が一息ついたときだった。部屋のドアがノックされ。
「ユウさん、入っても大丈夫?」
外から、カイルの声。
扉を開けると、カイルとエリオ君が少し遠慮がちに入ってきて、その後ろにリシアがつづく。
カイルは部屋をぐるっと見回して、
「……部屋、普通だね」
と呟いたあと、
「大丈夫だった?」
と、僕を見る。
それを聞いていたユノが、少しだけ眉をひそめる。
「おい、カイル。それ、どういう意味だ?」
「いやだってさ、あの薬って、普段抑え込んでる衝動が解放されるんでしょ?」
絶対ユノさん暴れ回るじゃん。
さも当然みたいに言うカイルに、
ユノは深いため息をついて、眉間を押さえた。
「ユウも、お前も……俺のこと、何だと思ってんだ」
***
「で、教えてもらうか」
ひと通り無事を確認したあと、最初に口を開いたのはユノだった。
視線は、まっすぐリシアに向いている。
リシアは、あの時点で、すでにこの薬がどういうものか分かっていたはずだ。
だから、あの妙な言い回しをしたのは間違いない。
瓶の外に出せば、薬はただの水になる。
リシアは、コテンと首を傾げる。
「何を、お教えすればよろしいのでしょうか?」
「この瓶の中、何が入ってるんだ?」
「薬、なのではございませんか?」
あくまで曖昧な答え。
「……なあ、リシア」
ユノが少し低い声で言う。
「お前、ああなることが分かってて、俺があれを飲むように仕向けたよな?」
「ああなる?それは具体的にどういう状態でございましょう」
銀の眼が、まっすぐユノを見る。
しばらく睨み合ったあと、ユノは小さく舌打ちして、首を振った。
「……いい。聞くだけ無駄だな」
僕は、改めてリシアに聞き直す。
「リシアは、瓶から出したら水になるって知ってた?」
「リシアは、目の前のお皿に出された状態のものしか観測しておりません。
瓶の中、あるいは別の容器に移された状態については、知り得ないのです」
言っていることは分かる。
相変わらず、嘘はついていない。
……リシアらしいといえばリシアらしいのだけれど。
「リシア様が分かる範囲で、他に何かありませんか?」
エリオ君が、おずおずと聞いた。
リシアは瓶を手に取る。
「恐らくですが、高濃度の魔素によって、薬効を無理やり定着させているのでしょう。
この瓶には、それを安定させる術式が無数に刻まれております、あとはこれでございますね」
そう言って、瓶の底をこちらに向けた。
円を穿つ、牙の紋章。
「あれ……これ」
僕は思わず声を上げる。
「ヴォルフさんのクランの紋章?」
┃環穿の牙といったろうか。
「そうだね」
カイルも頷く。
「なんで、こんなところに?」
僕たちは顔を見合わせた。




