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薬の効力

「舐めてみろよ」


そう言われて、小皿に少し出されたものを、僕も舐めてみる。

水かどうかはともかく、少なくとも、何ともない。


遅効性なのかもしれない。

フォルシェンさんは、すぐに効いたと言っていたけど……正直、当てにならない。

あの人の言うことだ。


時間差で、カイルも舐めてみる。

何も起きない。


エリオ君も確認したそうだが、僕はリシアを見た。


「お願いできるかな?」


リシアは頷くと、小瓶から小皿に液体を落とし、それをひと舐めする。


「これは、水と言って差し支えないでしょう」


言い切るリシアに、僕は念のため確認した。


「……リシアにとって、じゃなくて、だよね?」


以前、リシアは言っていた。

たいていの毒は、自分には無毒だと。


「誰にとっても、今のこれは水でございます」


そう答えられ、エリオ君も肩を落とす。

「もう一度お確かめになられますか?」

リシアはユノに小瓶を手渡した。



「……あの野郎」


吐き捨てるように言って、

ユノは小瓶を少しながめてから、直接、もう一口確かめるように、ゴクリと飲む。


流石に全部ではない。

それでも、一口分くらいは飲んだだろうか。


まあ、気持ちは分かる。

せっかく得られた手がかりなのに。

ギルドか、どこかに持っていけば、成分を調べてくれるかもしれない。


とはいえ、リシアが「ただの水」と言った時点で、

中身が水なのは、ほぼ確定……。


そこまで考えて、僕は、はっと気づいた。


――リシアの、悪い癖だ。


「今のこれは水」

そう言った。


じゃあ、瓶の中に入っていた“状態”は?


僕は、ユノを見た。


まずい。

これは、絶対にまずい。


もし、ユノの“衝動”が解放されたとしたら、この部屋は!……洒落にならない。


「リシア、皆を外に!」


僕が言うと、リシアは、最初から分かっていたかのように頷き、カイルとエリオ君を部屋の外へと案内した。


人数が増えたため、部屋は二つ取っている。

きっと、隣の部屋に移動させてくれているだろう。


「……ユノ」


気づけば、僕は、ユノを抱きしめていた。


腕の中で、ユノが低く唸る。


「……あのクソ魔女」


その声に、僕は、より強く腕に力を込めた。


ユノは震えていた。

それは、オイレさんの時とは違う類のものだった。


恐怖というより、

何かに必死に耐えているような、そんな震え。


僕が手を離そうとすると、


「……そのままにしてろ!」


と、強い口調で怒鳴ったあと、

「クソ……何なんだ、アイツ……」

と、絞り出すように言う。


そして、僕の胸に、深く、深く顔をうずめた。

ズリズリと頭を擦りつける。

痛いくらいに。

呼吸が荒くなる、大丈夫かと顔を見ようとすると腕に思いっきり噛みつかれた。

「悪い」

言いながらユノの肩が震える。

そのまま僕の首筋を噛み直す。

僕は鈍い痛みを感じながら、両手でユノを押さえ込んだ。



少しして、震えがましになっていく。

僕はただ静かにユノが落ち着くのを待っていた。



離れる理由もなかったし、どうすればいいのかも、よく分からなかったのだ。


――このまま収まってくれれば。


ユノを押さえつけながら、色んなところに意識を飛ばす。

女の人にこんなふうに抱きつかれるなんて、初めてで。

そんなこと思ってる状況じゃないって分かっていても、そりゃ。なんか。ドキドキしてしまう。

不謹慎だとは分かっていても。



どれくらい、そうしていただろう。

長かったような気もするし、思っていたより短かったような気もする。


時間の感覚が、曖昧だった。


気がつくと、ユノの体から、さっきまでの力が抜けていた。


呼吸が、規則正しい。


ユノは、僕の腕の中で、すやすやと眠っていた。


その顔は、妙に穏やかで、どこか満足そうにも見えた。


理由は分からない。薬の影響が抜けたのかもしれないし、ただ疲れただけかもしれない。


少なくとも、さっきまでの様子が嘘みたいに、静かだった。


僕は、ユノが起きないように、抱えていた腕の力を少しだけ抜いた。


――強いな。


こんな薬を飲んでも、結局、自分で耐えて、自分で乗り越えてしまう。


そう思うと、少し呆れるような、少し安心するような、そんな気持ちになった。


僕は眠るユノに目を落とす。

いつものクールなユノでも、狂犬みたいなユノでもない。

子供みたいに眠るユノは、なんだかとても可愛かった。


「『ですわ』も悪くなかったな」僕はなんだか毒気を抜かれて、フォルシェンさんみたいなことを呟いてクスリと笑った。




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