第八話
刹那、発砲音が鳴り響いた。
「お前はッぁぁああ!!!」
放たれた弾丸を二歩、三歩空中で回転しながら避け、距離を取るQA。
JKは攻撃の手を緩めることなく、続けて発砲。
撃鉄が撃針を介して雷管を叩く音が鼓膜を震えさせた。
「あら? こっちはまだ質問させてもらってないのだけれども?」
至近距離から放たれた銃弾を、正確に刃で一刀両断していく。
これくらいは朝飯前といった表情だ。
「黙れ! お前、私がどれだけ苦しんでいるか、わかってんのかぁ!!」
「私には関係の無い話よ。貴女がどれだけ苦しもうと、貴女の記憶を取り戻させるわけにはいかないから」
「ッ────何故だッ! 何故、邪魔をする!!」
「こっちの質問に応答する気の無い人に、答えるわけないでしょ?」
「QA!!!」
叫び声と同時にQAに接敵するJK。
思わぬタイミングで戦いの火ぶたは切って落とされてしまった。
彼女の質問に答えれなかったのは申し訳ないが、もうJKは止められそうにない。
「JK! まっ……」
「この野郎ッ!!」
修羅の形相で発砲を続ける姿。本気で怒っている。
記憶喪失……それに苦悩している姿を私は見たことが無かった、
でも、よく考えれば当たり前の事だ、
記憶が無い、自分が誰かもわからない、本当の名前も、親の顔も、友人も、全部、全部わからないまま生きてきたんだ。
毎日がどうしようも無く不安で当たり前。
私は、そんな事を忘れ、ただ彼女の事が好きだからと接していた。
伴侶失格だ。自分の気持ちを押しつけ、その気持ちに応えて貰おうだなんて、我儘すぎる。
愛しているつもりだったが、愛ではなかった。
JKの今の顔を見ると、はっきりとわかる。私は未熟であったと。
「晴海! ボケっとすんな!!」
「え!? あ、ごめん!! ハチッ!!」
そうだ。今考えていてもしょうがない。
目の前にはアクセを持った美少女がいて、それを手に入れればJKの不安を取り除く事ができる。
進んでいける。頑張れ……頑張れ私。
猪突猛進、天真爛漫、相思相愛。
「行くぞぉ……最初からフルスロットルだ!!」
「……」
「あれ? ハチ?」
私の呼びかけに、ハチは言葉を返してくれない。
違和感を感じ、手首に視線を移すと、あのカスタネットみたいな口はしっかりと閉じていた。
変だ……いつもなら「俺に跨りな! ヒィヒィ言わせてやるぜ」って言うのに。
まるで、昔暴走男が使っていた時のように無機質な物になっちゃってる。
……いや、今は気にしちゃだめだ。
きっと、この緊張感を感じ取って黙っているだけだ。
そう信じて、私もQAに向かって突貫した。
「う、ぉぉぉッ!!」
「へぇ、二対一……卑怯だとは思わないの?」
「卑怯も糞もあるか! 私は、自分の記憶を取り戻すだけだ!」
「JK、後ろに下がって! 前衛は私がやるから」
「任せた!」
前進したのを見ると、JKは牽制しながら大きく後方へ飛んだ。
そして、彼女の影から真っ直ぐに右ストレートを放ち、QAの顔面を狙いにいく。
ガキンッ!
一燐奏とハチがぶつかり、激しい金属音が鳴り響いた。
ガントレットと刀の鍔迫り合い。
グッと強引に押しこみ、そのまま力尽くで押し倒そうとする。
だが、QAは身体強化された私の力に拮抗した力で押し返してきた。
「ッ……なんでこんな力が!?」
「子猫ちゃん、貴女は私の質問に答えてくれるわよね?」
「た、戦いが終わったらね!」
「案外ずるい女ね」
彼女は刀越しにジッと視線を合わせてきた。
感覚的に、また動けなくなってしまうと思い直ぐに次の攻撃に移る。
「しゃがめ!」
「なに?」
「──チャンスッ!!」
後方からの支援射撃が刀を弾いた瞬間に、一歩前へ出る。
腕の下、懐に潜り込み左肩を密着させ全力で右拳を振るった。
「お……らぁ!!」
クリティカルヒット! 開いたお腹に晴海ちゃんの鉄拳が突き刺さる。
これは悶絶必死、勝敗は決した!
……って、展開になる予定だったんだけど……。
「なにか、した?」
「へ? ぐぁッッッぁ゛!!」
全くダメージを受けた様子の無い彼女に、ひざ蹴りをかまされ悶絶したのは私の方だった。
めり込む膝は呼吸器官を塞ぎ、その場で膝が崩れる。
な、なんでだ……JKと同じ実力を持った人だとしても、ハチの一撃をくらってノーダメージなんてありえない。
だってこっちは純粋な身体強化型なのに……。
「気がつか無い?」
「ぐッ……きゃぁぁああ!!」
しゃがんでいるところに、強烈な右蹴り。
両手を交差して防ぐも、その威力に体ごと吹き飛ばされてしまう。
「晴海!」
「ご、ごめん……」
JKが私の体を受け止め、抱きかかえられた。全身がものすごく痛い。
なんだかアクセの能力が弱まっているみたいだ……って、弱まってる?
そうだ、力もいつもより入らない……というか、徐々に弱くなっている。
熱はまだ全然ある。なのに、ハチがそれを食べてくれない。
「JK……なんか、私調子悪いみたい……」
「……」
「ほらほら、生娘なんて当てにするからよ。JK……貴女、教えてないんでしょ?」
「……晴海、お前は後ろに下がっていてくれ。私だけでなんとかする」
「だ、大丈夫だよ! 少しだけだから……戦えるよ!」
JKは、私を下すとアクセをピアスの形へと戻した。
戦闘中に一度アクセを解除するということは……まさか。
「待って! それは駄目だって!」
「お前が戦えないんだ。QAに勝つためには、これしかない」
「戦えるって!!」
「手を見てみろ」
「……え?」
言われた通り、自身の手を見た。
まだ開戦したばかり。一撃を受けたが元気だ。痛いけど体も動く。
だけど……私のアクセは気がつかない内にブレスレットに戻ってしまっていたのだ。
「どうして!? さっきまでは本調子だったのに!?」
「ふふ……本当に教えて無いのね。いや、教えれないのか」
「黙れ。お前なんて私一人で十分だ」
「やせ我慢ね。実力が拮抗しているのに、どうやって戦おうと」
「……Its Show Time」
JKは私の言葉を無視し、手を×字に交差させ同時にピアスを弾いた。
ハードボイルドモードになった。なってしまった。
スゥーっと大きな瞳は、細く鋭い物に変わり、重い空気が場を支配する。
寒気を感じる程の存在感。
QAに見つめられた時と同じ感覚……鋭い殺意。
「へぇ……忌々しい姿ね。それは」
「お前は邪魔だ。殺す」
「怖い怖い。だけど、殺されるわけにはいかないのよ……ね!!」
QAは刀を上段に構えたまま、接近してくる。
JKも迎え撃つように弾丸を飛ばしながら接近。
私を取り残し、また二人だけの戦いが始まってしまった。
「死ね」
「可愛くないわよ、その態度ッ!!」
駆ける勢いを利用し、そのまま一直線に刀を突く。
JKはそれを最小限の動きで避け、背中を向けると彼女の腕を脇に抱えた。
そして────




