第九話
ボキ。
「ッッッぁぁぁぁあああ!!!」
鈍い音と共にQAの絶叫。
抱えた腕の関節に自身の腕を重ね、反対方向へへし折ったのだ。
刀は手放された瞬間、光の粒子となり彼女の指へと集まった。
指輪……それが一燐奏のアクセ形態だった。
「これで刀は使えないな」
「ッ……くそがぁ!!」
顔から余裕が消え、今度はQAが修羅の表情で襲いかかる。
逆にJKは無表情で迎え撃っていた。
足払いを華麗にかわし、反転しながらマガジンで額を殴る。
大きく仰け反ったところに追撃で発砲。
腹部に当たった弾丸はQAの体を軽々と吹き飛ばした。
「げふッ!?」
「次は脚だ。不良品」
「ッ……このッ!!」
普通の角度ではありえない方向に曲がった腕をダランと垂らしながらも、咆哮する。
額からは血が流れ、白い髪の毛を紅く染めていた。
破れた腹部から見える肌は、真っ赤に変色しており彼女のダメージの重さを伝える。
圧倒的だった。暴走男と戦った時よりも、段違いに強い。
あの時は、ある程度消耗してからの変貌だったから……これが本来の強さなのかもしれない。
けど……このままだと、同じだ。
「QA! そのJKは危ないから、逃げて!!」
「へぇ、倒そうとしていた相手に逃げてって……貴女、矛盾してるわよ」
「私たちは別に殺そうとしてたわけじゃない!」
「アクセはいいのかしら? JKの願いに背く事になるけど?」
「……命を奪って叶える夢なんて、そんなの夢じゃないよ。きっとJKもそう思ってる!」
「そうかしらね……彼女は望んで今の姿になったのよ? 私を殺してでも叶えたいからじゃないの?」
「ッ……それは……」
「若いわね。そんなのだから、アクセに見放されるのよ」
「!? どういう意味……?」
「戦いが終わったら教えてあげるわ。それに……私はまだ負ける気はないの」
QAは私から視線を外すと、じりじりと歩み寄る女性を睨めつけた。
「まだ戦う気か? 諦めて死ねよ」
「……不良品には不良品の意地があるの。例え相手がオリジナルだろうと、負けるわけにはいかないわ」
不良品? オリジナル?
やっぱりQAは知っているんだ、JKの過去を。けど、一体どういう意味だ?
QAは不良品で、JKはオリジナル……?
あぁダメだ。さっぱりわからん。
とにかくこの戦いを終わらせて、ゆっくり聞かなきゃ理解できない。
「JK、止めて! QAも、もう降参してよ!!」
「いや、殺す」
「だってさ……なら、私も本気を出すしかないようね」
「……あれ? QAの腕……治ってる?」
「ここからが本番よ。さぁ、踊りましょう……Shall We Dance?」
その言葉を呟いた瞬間、更に場の空気は重くなった。
気持ち悪くなるほど暗く、沈んだ空気だ。
気がつけば、QAの腕は回復し日本刀が握られている。
そして……真っ白だった髪の毛は真っ赤に変色した。
JKと同じハードボイルドモード?
いや、少し違う。
全身に血管が浮かび上がり、どくどくと脈打っている。
「……カカカ、覚悟、シロッ!!」
艶やかな声は掠れた声に。
ある意味ではJKと真逆……もっと情熱的で熱い。
だが、まともな状態で無いことは確かだ。
獣のように歯をむき出しにし、目を見開く様は悪魔のようだった。
「死ね」
「シネ」
消えた。と、思えば爆発音が鳴り、遅れて吹き飛ばされそうな程強い風圧に襲われた。
「お、おおおおおおお!?」
私は地面にしがみつき、必死にその場へとどまる。
舞い上がる砂埃。壊れていく地面。
わずかに見える黒と赤の閃光。
二つの光がぶつかる度に、霧は晴れていく。
「グ……GAAAAAAAッ!!」
「害獣駆除だ」
まるでレベルが違った。
ハチが使えたとしても、私はこの戦いについていけなかっただろう。
QAはこういう戦いになるとわかっていたのかもしれない。
だから、決闘場所に広場を選んだ。
街中でやれば……二次、三次被害はまのがれない。
「……私……どうすればいいんだろう……」
ふと、そんな言葉が漏れた。
意識して言ったわけでは無い。自然と漏れていたのだ。
私は普通の美少女。
目の前で繰り広げられる戦いは、入り込む隙が無い。
JKに惚れて、JKの為に、JKと一緒にいたいから、力になりたいから頑張った。
でも……それは私の一人よがりだったのか?
「……いや、いやいやいやいやいや!!」
って、ばっか!! 違うだろ!
なに弱気になっちゃってんの私!?
ネガティブてぃぶこちゃんは似合わないでしょ。
JKがどれだけ記憶喪失に関して悩んでいるか気がつけなくて、ショックを受けちゃったけど……でも、悩んでいても仕方ない。
彼女の力になれない? 彼女の苦しみに気付いてやれない?
だったら、結婚、相思相愛を諦めるっていうの?
そんな訳あるかいな!
絶対に結婚するし、私の事を大好きになってもらう。
ならば! やることは一つだろ!
QAがしゃべっていた事も、今はいい。
JKの秘密も関係ない。
私は彼女が好きで、愛していて、絶対に幸せにする。
それ以上であっても、以下はない。シリアスモードは似合わない。
幼いころ、母がよく話してくれた言葉を思い出せ。
「命短し恋せよ美少女、あかき唇あせぬ間に、熱き血潮の冷えぬ間に、明日の月日は ないものを」
パンパンと頬を叩き、気合を入れる。
今に全力、今に本気。それが私、桜 晴海だ。
「応えろ、ハチッ!!」
今度こそと、両手首に熱を注ぎ込む。
今ならいける、絶対にアクセは応えてくれるという確信があった。
「……よし」
すると、ブレスレットは光の粒子になり恐竜型のガントレットへと変化する。
口が大きく開き、呑気な声が聞こえた。
「……ふぁ~……俺としたことが居眠りしちまったぜ」
「よかった。おはよう、ハチ。ところであれを見てくれ」
「あ? なんだ……って、Uooooo!? ありゃなんだ!? 戦争でもおっぱじめたのか!?」
「もう少し、私の動体視力を上げてくれない? まだ目で追えない」
「お、オーケーオーケー」
グッと体温が下がり、急激にダルくなる。
ここまで熱を取らないといけないのか……。
だが、その効果もあり二人の動きがはっきりと追えるようになった。
「まるでボレロだな、ありゃぁ。情熱が身を焼くぜ」
「……ハチはわかりにくい例え、好きだよね」
「徐々に過激になっていってるぜ。見ろよ、お互いがお互いを熱くしてやがる……それに、あの黒ビッチ……」
「彼女はQAって女の子。知ってる?」
「いや……装着者はわからんが、アクセならわかるぜ」
「刀の方は知ってるけど、もう一個はなに?」
「言葉で説明するのは面倒だ。緊急事態のようだし、頭に直接送るぞ」
「え、頭にって……うわぉ!?」
ピカっと目の前が光ったと思ったら、大量の情報が頭に入ってきた。
○
Qのアクセ・アーマー『スイート・クイーン』。
アクセ形態はブローチ。
武器形態は無し。
解放時の効果は……洗脳?
装着者の唇が触れた相手を、傀儡にすることができる!?
つまり……彼女は私を性奴隷にしようとしてたってこと!?
○
「いや、違うだろ」
ハチが心の声に突っ込みを入れてくる……え?
「あ、お前、もしかして思ったことがわかるの!?」
「当然。装着者とアクセは一心同体だぜ?」
「先に教えてよ! てゆうか、最初っからこうすれば早かったじゃん!」
「せっかく喋れるようになったんだ。俺はお喋りがしたいんだよ」
「……そうだね!」
まぁ、私も喋るの好きだし良し!
「しかし、洗脳の力かぁ……なら、今のQAはAだけで戦ってるのかな?」
「どうやら奴は、自分に洗脳を掛けてるみたいだぜ」
「……自分に?」
「あぁ、肉体の限界以上の力を引き出す為に、脳の制御機能をQを使ってオフにしてやがる」
なるほど……もしかしたら急速な回復も、この力を使った物かも。
いや、でもそれだとやばいんじゃないか?
だって、限界以上ってことは限界ってことでしょ。
「持って後2分が限度だろうな」
「それが過ぎると……?」
「全ての神経がちぎれ、細胞が自壊するだろう。つまり、死ぬ」
「ぬぁにぃ!? ヤバい、急ぐぞ!!」
「あ、おい!!」
私は慌てて彼女達のもとへと駆けた。
足に力を込め、地面を抉りながら走る。ハチの性能も絶好調みたいだ。
これなら、なんとか二人の戦いに割り込めるかも知れない。
そう思ったのだが……。
「失せろ」
「ジャマダダダダダッ!!」
「ヘブゴバ! ゴガガッ! ぴゃーッ!!」
「……馬鹿」
獅子は勝負の最中に割り込む者を一時協力し排除するという。
今の私が正にそうだった。
二人からの連続攻撃を受け吹き飛ばされ、結局元の位置へ戻ってきてしまう。
ぼこぼこだった。
「めっちゃいたい」
「死ななくてよかったな」
「ハチが防御に熱を全振りしてくれたおかげでね」
「……」
「しかし、完全に二人の世界になっちゃってるね」
誰にも邪魔できない世界だ。
目で追えるようになって気がついた事が一つある。
二人とも笑っていたのだ。
身体を傷つけあいながら、血を吐きながら、笑顔だった。
「まるでチャンバラごっこで遊ぶ姉妹じゃねーか」
「私もそう思った」
夢中になって遊んでいるようにも見える。
だがやっているのは殺し合いだ。
どちらかの命が尽きるまで終わらない遊び。
だから、誰かが止めなければいけない。
私は、JKの願いも叶えたいけどQAの命も奪いたくないからだ。
何故かって?
もちろん、美少女だからに決まってるでしょ!!
「身体目的か?」
「ち、ちがうよ!」
「あのデカチチを揉みしだきたいんだろぉ?」
「……うん」
「HAHAHA,なら意地でも止めねえとなぁ。ご主人」
「あぁ、言われずともわかってるさ」
ならば、もう一回と脚を踏み込んだ時、ガチっと身体が固まった。
体内から縄で亀甲縛りされているような不思議な感覚。
これは間違いない。ハチが止めているのだ。
「なんでよ!?」
「どう考えたって無理だろうよ。アリが象に立ち向かうのと同じだぜ」
「でも、だからといって諦めるわけにはいかないじゃん!」
「無駄死にするだけさ」
「いいや、死なないね。私は死なない」
「どうしてそんな事、自信満々に言える?」
「だって……」
「だって?」
「愛は無敵だから」
「ふ、ふふ、HAHAHAHAHAHAッ!!」
「むぅ~ほんとなんだぞ! 愛に勝てる物なんて、存在しないんだもん」
「そうか、そうかそうか。なるほど、なるほど」
一人(?)納得っしたように頷くハチ。
だってそうだもん。
愛に勝るもの無し! 桜家の家訓だもん。
例え、ユートピアで決められたレールをひかれても、これだけは忘れちゃいけないって。
小さい時から教えられてきたんだもん。
「わかった。ご主人、俺様に一つ提案がある」
「提案? 二人を止める為の?」
「もちろん。もしかしたら……今のあいつらよりも強くなれるかもしれないぞ?」
「ほ、ホント!?」
あの規格外の強さより、更に強くなれるの!?
そんな一瞬であのレベルまでいけるなんて信じられないけど、ハチの声色は自信に満ち溢れている。
私は食い入るように彼に聞いた。
「一体どうすればいいの!?」
「俺にもっと食わせてくれればいい」
「熱? けど、さっきの攻撃と防御でかなり消耗しちゃってるよ」
というか、ほとんどはハチが気を利かせて防御に回してくれた時に消費したものだ。
普通に受けてたら、今頃は木っ端みじん子ちゃんだった位、強烈な攻撃だったからなぁ。
その分、消耗も激しかった。
「熱が少ないのは知っている。だから、もうひとつ……重要なものを貰いたい」
「もうひとつ……?」
そういえば、前にJKが「アクセで使うのは熱だけじゃない」って言ってたな。
QAも戦いの最中に「教えてないの?」って言ってたし、まだ何か必要なのか?
「もしかして、それが足りなかったから、ハチはさっきまで動かなかったの?」
「お前にしては察しがいいな。その通りだ」
……あの時に無くて、今はあるもの……?
いや、戦いの前はそれがあったからお話できてた。
一体なんだ?
と、私の思考を読み取りハチは疑問に答えた。
「いいか? 俺達アクセ・アーマーはな、装着者の『ソウゾウ力』が必要なんだ」
「うわー、また新たな単語がでてきたよ……想像力?」
「違う、『ソウゾウ力』だ。どうせ理解できないだろうから、ほれ」
「お、うぉぉぉぉ!!!」
再び目の前が真っ白になると、ハチのイメージが頭の中へ流れ込んでくる。
なんて便利機能なんだ、これ!
えっと……なになに……。
○
熱は稼働の際のエネルギー源となる。
主に装着者の体温がエネルギーに変換されアクセ・アーマーは一度それを取り込みナノマシンを生成することで装着者の身体能力を向上させたりする。
視覚で捉えることは難しいが、装着者はこのナノマシンを常に周囲へ纏っている状態だ。
つまり、熱を使用すれば防御にも転用でき、攻撃にも転用できる。
そして、ナノマシンの特性がそのままアクセの特殊能力に繋がるのだ。
Qのアクセ・アーマー『スイート・クイーン』の場合、ナノマシンが体内に入り込むことで脳の操作をおこな────あぁ、もうこの辺はいいや。
理屈はいいから、もっと肝心なとこ……これか。
ソウゾウ力は名称の通り、装着者の「想像」「創造」する力、能力の事を言う。
また、アクセ・アーマーによって必要なソウゾウ力は多岐に渡る。
現、装着中の『アハト・レクス』の場合、必要なソウゾウ力は『未来を想像する力』が必要とされる。
ソウゾウ力はアクセ・アーマーの形成能力に影響を及ぼすため、不足している場合、熱エネルギーのみが暴走しナノマシンの過稼働による装着者の暴走、もしくは発動不良が起こる。
補足としてソウゾウ力とはエネルギーではなく、アクセ・アーマーの99%を構成する『キルシュヴァオム粒子』に影響を及ぼす精神的────ぬぁ!? もー無理だ!!
○
「ッ……はぁ!」
「お帰り。理解できたか?」
「ただいまッ、なんとなくだけどね。要は、めちゃ妄想すればいいんでしょ!」
「……少し違うが、まぁそうだな。ご主人が未来を……あのビッチとの将来を想像すればするほど、俺様は自由を手に入れる」
「自由?」
「そうだ。もっと強く、もっと硬く、より万能な姿に変化できるのさ」
……つまり、進化するのか。
なるほど。だから、暴走男の時と私の時ではハチの形状が少し違うし、喋れるようにもなったのかな?
妄想しまくればしまくるほど強くなれるなんて、最高に私向きじゃないか。
「私は妄想するだけでいいの?」
「ラッキーな事に、俺様には自我が芽生えた。制御はこっちで何とかしてやる。ご主人は集中していればいい」
ふ、へへ……へへへ。
そうかい。
難しいこと考えなくてもいいなら、私の妄想力は1千丁億万倍にできる。
「ハチ」
「なんだ? まだ悩める乙女気取る気か?」
「いいや、覚悟してよ」
「……は?」
「私の妄想、全部受け止めてね」
「あ、え? は? どういう──」
「うぉぉぉぉお!!!」
両拳に力を込め、足を踏ん張ると全開で頭を回し最高の妄想をスタートさせた。
私はケーキの苺は一番最初に食べるタイプだ。
よって、JKの妄想から開始する。




