第七話
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と、そんな事を考えながら迎えた決戦当日。
夕方の8時頃、バイクに乗って第九区へと向かった。
え? 約束の時間に遅刻しているじゃないかって?ふふ、これもJKの作戦の一つ。
相手を待たせイライラさせることで、勝負を優位に進めるのだ。
なんでも、大昔にとても強いお侍さんが使った戦術だとか。
卑怯? 美少女は何をやっても許されるんだよぉ!!
「そろそろだな……」
バイクの揺れが少しずつ小さくなっていき、ジャンクキングダムの外側に近ずいていることを知らせる。
舗装された道を通るなんて何時ぶりだろうか。
大きな建物は無いものの、一階建ての小さな家が道路を挟むようにして、いくつも並んでいた。
どれもこれも、ボロボロではあるが壊された形跡は無い。
経年劣化によるものだ。
気になるところと言えば、この区間全体を覆うように霧がかかっていること。
濃霧では無いが、100メートル先は全く見えない。
どうやら、第十区も同じようだ。
「ここら辺まで来ると、ほんと治安がいいんだね」
「血の気の多い奴らは真ん中に集まるからな。蟻地獄みたいなもんさ」
アクセを求めて危険な場所へ赴き、そして欲に縛られたまま死んでいく。
そこまでして、これが欲しいのかと不思議に思ってしまうのは、私が力に興味無いからだろうか。
「力があっても、幸せにはなれないのにね」
「そんな事はないぞ。この街では力が全てだ。どんな欲望だって果たせる」
「例えば?」
「好きな物を食って、好きな女を抱いて、気に食わない奴はぶっ殺せる。言わば、自由を手に入れれるって事かな」
「……JK、それは幸せとは違うよ」
「そうか? 欲望を果たす事が人の幸せだろ?」
「それだと、愛がないじゃん」
「……愛、か」
「?」
そう呟くと、それっきり彼女は口を閉じる。
何か怒らせるような事を言ってしまったかと、ドキドキしたが、横から見える表情からは怒気の色を感じない。
なんだろう……すごく、不思議な顔。
考えているような、悔しがっているような……そんな表情だ。
でも、初めてじゃない。この顔を見たのは。
JKに対して、おふざけ無しで『愛している』と、『結婚して欲しい』と前に言ったことがあった。
その時、『冗談は辞めてくれ』と返された。
私は、『本気だ』『命を賭けてもいい』……そう必死に伝えたのだが、受け止めてもらえず、最後にこの顔をされたのだ。
困っている……だけではないみたい。
もっと複雑な何かが、彼女の中にはあるように感じた。
「着いたぞ」
「────っえ!?」
「なにボーッとしてんだ。戦いの前だぞ、集中しろ」
「え、あ、ごめん」
彼女に呼ばれ、ハッと顔を上げると手紙に記載されていた第九区の広場に到着していた。
いかんいかん、JKの言う通りだ……これから、互角の相手と戦うんだから気合いいれないと。
バイクから降り、両手首に着けてきたブレスレットへ意識を集中させる。
脳内で過去に見た恐竜の頭部をイメージすると、光の粒子になりグローブに再構築された。
「──おぅ、ようやく出番かい? ナルシスト」
「うん、頼むよ。ハチ」
「HAHAッ、負けるわけねぇな。勝利の女神は俺様に惚れてる」
生き生きと口を動かす相棒。この軽口も、戦いの前だと心強い。
「準備はいいか? 晴海」
「OK!」
JKも同じようにアクセを解放し、両手に拳銃を持っていた。
「これからパーティが始まるんだ。もう少し御粧ししないのかい? お嬢ちゃん」
「……アハト・レクスがそれだけ元気ってことは、お前も万全みたいだな」
「元気モリモリングだよ!」
「いよし!」
セーラー服を靡かせながら振り向くと、広場の中央に向かって進んでいく。
私は彼女の背中にくっついていった。
威風堂々、なんとも頼もしい背だと思う。
広場は結構な広さがあり、霧のせいで奥まで見えなかった。
しばらく進むと、白い景色に黒い点がポツンと浮かび上がってくる。
「……ゴクリ」
彼女だ。QAがそこにはいた。
凛とした姿勢で正座をし、刀を横に置いて待ち構えている。
まるで、歴史の授業で習った侍にのようだった。
瞳は閉じているが、気配で私たちを感じ取ったようだ。
「JK、貴女なら来てくれると思ってたわ」
静かで大人びた口調。
その声色からは覚悟さえ見て取れる。
BARであった時とは雰囲気が全然違う。
「あぁ、勿論だとも」
「パーティーには遅れてくるのが礼儀とはいえ、流石に1時間は長すぎやしないかい?」
「衣装選びに手間取ってな。だが、その分準備はできているんだろ?」
「ふふ、実は貴女なら遅れてくるだろうと思って、私も今来たところなの」
「……つまんねー奴だよ。お前は」
「遅刻しておいて、その言い草はないんじゃなくて?」
声を殺して笑い合う、同じ顔をした少女達。
以前、実力も同じと言ったが……どうやら思考も同じらしい。
私は、初めて彼女に出会った時からどうしても聞いてみたいことがあった。
もしかしたら、アクセを集めなくてもJKの願いを叶えられるかもしれないから。
「QA……ちゃん!」
「ん、あぁ……あの時の子猫ちゃん。貴女も来ていたのね」
1歩前に踏み出すと、蠱惑的な眼差しで見つめられる。
ゾゾゾっと背筋に冷たいものが走った。
視線が合っただけなのに、物凄いプレッシャーだ。これが殺気ってやつなのかも。
「あの! 戦う前に一つ聞きたいことがあるのです!」
「あらら、その手……なるほど。ちょっと理解できないけれど、いいわ。なんでも答えてあげる」
「ありがとうござま──」
「その代わり……」
「!? 晴海!!」
「────ッヒ!?」
正座のまま素早く抜刀すると、首元寸前で細く透明なものがピタリと止まった。
ハチを解放し、身体能力が向上しているにも関わらずピクリとも反応できないくらい速い居合。
一燐奏とJKが呼んでいた刀の刀身は、水晶のように透明で、剃刀のように鋭い。
JKは私とは違い、QAが抜刀した瞬間に銃を構え頭に突きつけていた。
緊迫した空気が広場全体を支配する。
「安心して、せっかくの出演者なんだから殺さないわよ。だけど、嘘を言えば……わかるわよね?」
本気だ。嘘を吐けば、躊躇無く殺されてしまうだろう。
……だが、晴海ちゃんは負けない。
女は度胸、少女は最強、ならば美少女は無敵なのだ。
「お、おっけー……じゃあ質問しても、いいかな?」
「どうぞ?」
「……QAちゃんはJKと……そ、その……姉妹なの?」
「────は?」
質問に対して、先に口を開いたのはJKの方だった。
その間、QAは口をギュッと紡ぎ下を向いている。
「ちょっと待て、晴海。どうして私とQAが姉妹だと思う?」
「え……? だってJK、こんなにも顔がそっくりなんだよ!? 普通、血縁だって思うじゃん!」
「……そうか?」
「髪と肌の色とたいけ──いや、ここまで一緒だと姉妹か親子以外ありえないって!」
「…………?」
あれ? 私、変な事言ってる? 真っ当な考え方、思考回路の筈だ。
親子、兄弟、姉妹は似る。
だったらこの2人は血縁関係がある……そう考えるのは普通の筈なのに。
どうして、どうしてJKはこんな不思議そうにしてるんだろう。
そう疑問に思っていると、QAは不気味に笑った。
「ふ、ふふふ」
「……QAちゃん……貴女もそう思うでしょ? というか、間違いなく姉妹、もしくは双子でしょ?」
「神に誓って言うわ。私とJKは姉妹でも、双子でも、ましてや親子でも無い。残念だったわね」
「そ……そんな……」
「子猫ちゃんの魂胆はお見通しよ。彼女の記憶についての手掛かりを、私から探ろうとしてるんでしょ?」
この子は……JKが記憶喪失だってことも知っている?
「そうだよ。だって、そーやって分かるなら、ここで戦う必要もないんだもん。危険な目に合わなくても済むし……だから、知ってる事教えて欲しいの。JKについて」
「それはできないことね」
「どうして!? JKが記憶を取り戻すことができれば、アクセは貴女に全部あげるのに!」
「晴海、よせ!!」
「ふふ……子猫ちゃん、どうして私がアクセを集めてると思う?」
「……力の為」
「そんな物騒なこと考えないわよ」
「じゃあ……何?」
「私はね────」
────彼女の記憶を蘇らせたくないの。




