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乙女なら、拳で語れ【完】  作者: あむあむ
第二章 少女は少女と戦った。
7/22

第六話

 ○


「……知ってる天井だ……」


 目を覚ますと、いつもの寝室だった。

 真夏日だと言うのに、ふかふかの羽毛布団が身体全体を隠すように掛けられている。

 額には濡れタオル、ベッド横の小さなテーブルには桶の中に氷水が溜めてあった。

 どうやら、ハチの言っていた事は本当だったみたいだな。

 熱の使い過ぎによる失神……ちょっと無茶し過ぎたかも。


「ッ……痛てて……」


 上体を起こそうとすると、頭痛と吐き気が同時に襲いかかってきた。


「無理すんなよ」

「ん……JK」


 丁度いいタイミングで部屋の扉が開き、JKが顔を覗かせる。

 彼女はベッドの横までくると、お盆の上に載せた料理を小テーブルに並べ言った。


「まだアクセの使い方になれてないんだ。あんまり無茶はするな……心配したぞ」

「ごめん。それと、ありがとう」

「うん。ま、無事で何よりだ」

「5のアクセはどうなったの?」

「それなら……ほら、コレだ」


 服を少したくし上げると、バックルが星の形をしたベルトが細い腰に巻きついていた。


「解放すると靴になるみたいでね。能力は……」

「『なんでも蹴れる』だね。ハチが言ってた」

「へぇ?……奴も役に立たつんだな。名前は?」

「そこまでは……聞いてみようか?」

「あ、バカッ!」

「ハチ、出ておい────ッげぼぉ!?」


 彼の声を聞こうと、ブレスレットに意識を集中させた瞬間、胃液が逆流し吐き出してしまう。

 即座に反応したJKは、どこからか紙袋を取り出すと顔の前に差し出した。


「うげぇ……ゲロゲロゲロ……」

「ったく……今熱不足で倒れたばっかりだってーのに、学習しろよ」

「ご……め、ゲロゲロゲロ……」

「はぁ。いっそ全部出してしまえ」


 背中を右腕でさすられて、胃の中に溜まったものを全て吐き出し、渡されたコップの水を一気に飲み干した。

 く、キツイ……こんなに辛いとは。


「とりあえず、アクセの影響でこーなった時は沢山食べるのが一番だ」

「そう……だね……というか、JK」

「なんだ?」

「料理……得意なんじゃん……」

「人並み程度さ」

「これが……人並み……」


 彼女が持ってきてくれた料理は大層豪華な物だった。

 いや、上品といった方が合っているかもしれない。

 卵粥に株漬け、赤みの魚の塩焼きにゴボウの炒め煮……うぅ、何だか私とレベルが違う。

 ユートピアでもジャンクキングダムでも、これほどのものは見たことがない。


「人並みじゃ収まらないよ……」

「ま、昔は誰でもこれぐらいは作れたもんさ。それとも……嫌だったか?」

「え!?」

「晴海の好き嫌いとか知らないからな。無理だったら食べなくてもいいぞ」

「ん、んなわけないでしょ!?!?」


 JKの作った物なら、例えイモリの素揚げでも完食できる自信がある。


「そうか、ならよかった」

「────ッ……!」


 安心したように胸を撫で下ろし、笑顔を向ける。

 その表情は、いつものキツイ顔ではなく、まるで母のような暖かいものだった。

 不意を突かれた私は、つい顔を背けてしまう。

 かわいい……かわいすぎるぞ、我が嫁。結婚したい。結婚しよう。結婚した。


「ほら、晴海」

「ん……んんんッ!?」


 視線を戻すと、目の前にはスプーンに乗ったお粥があった。

 これは、俗に言う『アーン』なのでは!?

 いや、ちょっと待て。夢の可能性が浮上してきたぞ。

 あまりにも理想的な展開すぎる。

 JKは優しいし可愛いし格好良い……けど、ここまでしてくれるか!?

 もしかして偽物……違う、晴海アイは間違いなく目の前の女性をJKと認識している。

 なら、なんだこれは。

 え、死んだ? 私、実は死んだ?


「? ほら、食えよ」

「わ、わかった……食べるよ……」

「どうぞどうぞ」


 意を決し、差し出されたスプーンに口を近付けると、パクっと咥えた。


 刹那────


「ッぁぁあぁぁぁあ゛!?」

「どうした!? 熱かったか!?」

「……美味でございます」


 全身を突き抜けるような幸福感と、舌を撫でる絶妙な塩加減に叫び声を上げてしまう。

 さ、最高だ……最高じゃねぇか、これ。


「JK、もう1回」

「お、おぉ……はい」

「ッッッッぁぁぁああ゛!!! も、もう1回……」

「え……えぇ……は、はい」

「ぬぐぉぉお゛ッ!! これも最高……もう1回」

「だ、大丈夫か? 辛いか?」

「早く……早くするのじゃ……美味い、美味すぎる」

「そ、そうか……なら、はい……」

「キョェェェッ!!!」


 JKの右腕に背中を支えながら、全てアーンしてもらい私は料理を平らげた。

 こんな事なら永遠に病人でも構わないな……と思っていたが、彼女のおかげで熱は完全に元に戻り、完食した時には普段通りに戻っていた。残念。


「ご馳走様でした!!!」

「お粗末様でした。治ったろ?」

「お陰様で! 料理一発で治るとは思ってなかったよ」

「……アクセに使うのは、熱だけじゃないからな。さて、私は食器を片す。晴海は今日は休んどけよ」

「ううん、もう元気だから後は任せて!」

「……わかった。なら、任す」


 ベッドから跳ね上がり、その場でぴょんぴょん飛んでみせると食器を持ち台所へと向かった。

 もうアーンしてもらえないのは残念だけど、致し方ない。

 私はJKの旦那であり、妻であり、相棒なのだから。


「いよぉし!」


 彼女に待っているよう伝えると、気合いを入れなおし台所へ。

 まずは食器を全て洗い水気をふき取り食器棚へと収納。

 お湯を沸かし、インスタントコーヒーを作るとJKのもとへ持っていく。

 いつもの席、いつものテーブルで新聞紙を広げる彼女。


「はい、おまた」

「うん」


 さっきの優しさはどこへやら、元気になったのを見るとそっけない感じに戻っちゃった。

 これはこれでツンデレ感があっていいので、私的に不満は無い。

 コーヒーを啜る姿を横目に、事務所の外に出るとポストの中身を確認した。

 朝刊は自分で取ったみたいだし、中を見たのならこれ以上手紙は入っていないと思うけど、習慣というやつだ。


「ん、あれ? なんか入ってる」


 真っ赤で小さなポストの中に入った一枚の手紙。

 白い紙が二つ折にされていた。

 表紙には……『果たし状』と書かれている。なんて物騒なんだ。


「JK-! こんな物が来てたけど、身に覚えある?」


 彼女のもとへ戻り、さきの手紙を渡すとチラリと見てこう答えた。


「覚えがありすぎて、忘れた」

「はは、そうだよね……」


 いろんな所で逆恨みを買っているのだから、当然のリアクションだ。

 以前にもこういった手紙が来たことはあった。

 あの時は脅迫文だったっけな。

 所有するアクセ・アーマーを全て渡さなければ、ここを爆破する……的な。

 結局、犯人を捕まえてボコボコにしたんだけど。

 あ、その時の4人組かもしれない。

 膨らんだ目の隙間から恨めしそうにこっちを見てたもんなぁ……怖い怖い。


「あれ? 晴海、それ差出人書いてないか?」

「え? ホント?」

「あぁ、裏面に何か書いてあるみたいだぜ」


 JKは手紙を手にし、裏にすると一人納得したように唸った。


「……あ、あぁ~なるほど」

「ちょっと、私にも見せてよ。一体誰だったの? その命知らずは」

「この間みたいにちゃちゃっと終わらせれる相手じゃなさそーだぜ」

「? それってどういう……」

「ほれ」


 手紙を受け取り、私も裏面を確認した。

 なになに……って、英語? いや、これは……。


「QA……ってハチをゲットした時、JKと互角に戦ってた……」

「そのQAで間違いないだろう」

「な、中にはなんて書いてあるんだろう」

「目的はこの前のチンピラと一緒に違いないさ」


 JKの予想は的中していた。

 手紙を開くと『自分の所有するアクセと、JKが所有するアクセ、全てを賭けて戦おう』って書かれてる。


「ホントだ……あっちはどれくらいもってるのかな?」

「知らんな。けど、私達と同じくらいはあるんじゃねーの? ……まぁ、最低でも二つはある」


 こっちはJKが持つ『ジャックポット』『キングランページ』と、私が持つハチ……じゃなくて『アハトレクス』。

 それに昨日手に入れた5のアクセで計4つ。

 向こうはQとAは持っているってことか……あれ?


「あの時は一つしか使ってないように見えたけど。日本刀みたいなやつ」

「それは『一燐奏』ってアクセだ。前にQAがそう言ってた。『この一燐奏に斬れぬもの無し』って」

「じゃあもう一個は?」

「お前、そのアクセの攻撃をくらってたんだぞ?」

「え?」


 くらっていた? 何もなかったと思うけど……。


「ま、あれは特殊だから気付けないのも無理はないか」

「特殊?」

「今までのアクセは装飾品が武器の形になったろ?」

「うん」

「けど、あいつが持ってるのはちょっと違って装飾品のまま効果を発揮できるのさ」

「……その装飾品ってなんなの?」

「Qの形をしたブローチさ。見えなかったか?」


 そう言われて記憶を辿ると、確かにあった。

 心臓の位置に輝く緑色のブローチが。

 あの時は、唇に気を取られていて気がつかなかった……なんて、口が裂けても言えない。


「Qの名前は『スイートクイーン』って言うらしい。これも自分で言ってた」

「案外口数が多いんだね。QAちゃんって」

「晴海と相性がいいかもな」

「身体の?」

「あれの能力は『魅了』することらしいが、私も詳しくは知らない。だけど、あの時のお前の様子を見るに『自分を好きにさせる力ってとこかな」

「身体の?」

「厄介だとは思うが、知っていれば大した問題じゃない。そんなアクセさ」


 JKは私を無視し続け、コーヒーを啜った。

 むむ……やっぱりお母さんJKに戻ってほしいかも。


「なるほど……」


 悲しくなり、彼女の前の椅子に座り手紙にもう一度目を通す。

 予定時刻は明日の夕方7時。

 この季節だと、まだ明るい時間帯だ。

 場所は第九区……人が少なく、比較的平野の多いところか。

 小技を使わず真っ向から戦いたいって意思を感じる。


「どうするの?」

「もちろん行くさ」


 即答だった。


「私はアクセを全部集めないといけない。その為なら、なんだってする」

「……記憶を取り戻す為……だね」

「そうだ。過去の記憶がないと、自分が何故生きているのか……わからないんだ」


 新聞紙に視線を戻した彼女の瞳は、どこか寂しげで、どこか悲しげだ。

 私は、自分の嫁のこんな顔を見ていられない。

 だから命を賭けてもJKの願いを叶えようとするのだ。

 惚れた女だから。

 人によっては、たったそれだけの理由って言われるかもしれない。

 けど、私にとっては十二分な理由だ。


「倒せるの?」

「さあな。晴海の言う『ハードボイルド』なら、なんとかなるかもしれないが」

「それは禁止」

「だろ? だったら、方法は一つしかないな」

「互角の相手と戦って、必ず勝つ方法」

「私たちは正義の味方じゃないんでね」

「くっくっく……JK、主も悪よのぉ……」

「銃を使う奴に善人なんていねぇよ。できるか?」

「大丈夫。明日になれば、更に大丈夫」


 体調も戻った。熱量も回復しつつある。相手は一人、こっちは二人。


「敵の能力も、実力もわかってる」

「向こうは私がアクセを使えるって知らない」

「QA、すまないがこの勝負……」

「晴海ちゃん&JKが」

「「いただくぜ」」


 私たちは不気味な笑い声をあげながら、悪だくみに花を咲かせた。

 最低でも二つ手に入るのだ。残り、後6個ということになる。

 ふふ、我が嫁の悲願が達成する日も近い!!

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