第三話
バキュンッ!!!
痛快な発砲音と共に彼女の唇は離れ、後ろの酒ビンが木っ端みじんに砕け散る。
そう、帰ってきたのだ。我が嫁が。
「JK!!!」
「おうおうおう、私が出かけてる間に浮気とは……やるじゃねぇか。晴海」
BARの入口では銃口から漏れた硝煙を吹き消すJKの姿があった。
体が動くようになった私は、急いで彼女の近くに駆け寄りスライディング土下座をする。
「いやいやいやいや違うのです! 決して浮気なんかではありませんよぉ!」
「いい訳かぁ? あぁ?」
「だって! 信じられないかもしれないけど、体が動かなかったんだって! ほんと、ほんとだよぉ!」
「へぇ……ふぅん、なるほど。美少女なら誰でもいいんだろぉ?」
「違う違う! あぁ、もう、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「……ッ、ぷッ、あはははははは」
「……え?」
私が顔を上げると、腹を抱えて笑うJK。
あれ、なにか変な事言った? え、え?
「はは、いや、からかってすまなかった。そうだろう、離せないと思うぜ」
「ど、どういうこと?」
「けど、残念だったかもな」
「……?」
「見てみろよ」
彼女が銃口を向けた先へ視線を向ける。
そこには、銃弾を避けた勢いによりフードが取れた先ほどの女性が私たちを見つめていた。
余裕の笑みでカウンターの腕に肘をつき、グラスを傾けている。
「……な、なに? ど、どういうこ……と?」
「な? 残念だろ? 久しぶりだな、QA!! お前がいるってことは、本物で間違いないみたいだな!!」
「えぇ、お久しぶりね、JK。悪いけど、8番は私が貰うわよ」
「お前に渡すわけないだろ?」
「そ・れ・は・こっちのセリフ」
左の腰にぶらさげた鞘から刀身を引き抜くと、こっちに剣先を向け敵意を露わにした。
が、そんな事はどうでもよくなるくらいの衝撃が走ったのだ。
「なんで……JKが、二人!?!?」
つややかな女性の顔は、JKと瓜二つだった。
違うのは肌と髪の色……そして、抜群に育った劣情を煽る肉体!!
……違うぞ! JKが悪いんじゃない、このQAって人が良すぎるのだ!
「ッ……もったいなかったかぁ……」
「晴海、なんかいったか?」
「なんでもありません。それより、彼女は誰? 一体何者!?」
「さぁな。私もよくわからん」
「わからんって!?」
「言葉のままだ……さぁ、来るぞッ!!!」
「ぇ……うぁ!?」
彼女が二丁の拳銃を構えた瞬間、QAは急速接近し刃を振るった。
一瞬の出来事。銃と刀が重なり合い、目の前で火花を散らす。
「わわわわ!」
「どいてろ、晴海!」
JKは私の首根っこを掴むと、そのままカウンター側へと投げ飛ばした。
「のわー!!!」
「桜! うぉっと」
「マスター、さんきゅ!」
ひょっこり顔を出し私を受け止めると、そのままカウンターの下へと隠れる。
そして、グラスを渡してきた。
「さぁ、飲め。始まるぞ」
「ちょっと呑気じゃないですか?」
「どの道手は出せないんだ。のんびり観戦しようぜ」
少しだけ頭を出し彼女達の方を向くと、既に戦闘は激しく行われていた。
うん、見えない。まさか、肉眼で追うことができないとは驚きだ。
衝撃音、金属音、爆裂音、三つの音が交わると床が砕け、壁が破裂する。
人間の領域を超えた戦い。
JKが強いとは知っていたけど……ここまでだとは。
もはや、人外と感じてしまう。
「ねぇ、マスター?」
「なんだ?」
「どうして二人は、あんなに戦えるんですか? 流石に激しすぎる気が」
「激しいのは嫌いか? 譲ちゃん」
「ちゃかさないでください。今は真面目モードはるみんなんです」
「わかったよ。JKは説明が下手だからな……いいだろう。なら、『アクセ・アーマー』から話す必要があるな。いいか……アクセとは──」
崩れゆくBARの中で、マスターは一つ一つ説明をしてくれた。要約するとこうだ。
アクセ・アーマーとは、ジャンクキングダムに存在する幻の武器らしい。
普段はその名の通り、アクセサリーの形をしており戦闘時のみ武器の形状に変化する。
その力は武器としての領域を凌駕しており、一騎で千の兵士を相手できるだとか。
アクセは全部で13種類……1~10、ジャック、クイーン、キング、それぞれ形状と効果が違う物が存在し、JKが使っているのは『J』のアクセ、『ジャックポット』と『K』のアクセ、『キングランページ』。
JKは過去の記憶が無く、自身の名前を知らないからアクセの頭文字を取り『JK』と名乗っているのだとか。
「──で、今回ここに来たのは8のアクセを手に入れる為だろう」
「なるほど……つまり、JKはその13種全てのアクセが欲しいってことか……でも、なんでなんだろう」
「さぁな。俺もそこまではしらねぇ」
まぁ、JKが欲しい物は私が欲しい物。理由なんて、二の次、三の次だけど。
「でさ、あのQAって何者なの?」
「初めて見たよ。JKにそっくりだな……名前からして……」
「QとAのアクセ・アーマーを持ってるってことかな」
「あぁ、口ぶりからして、奴も8を狙ってるんだろう。アクセ争奪戦だな」
「マスターは参加しなくても?」
「さっきも言ったが、俺は店を開けてるだけで幸せだ。それに、アクセを狙ってるのは二人だけじゃねぇ……絶大な力を手に入れようとする野郎は多いのさ」
「……でも、マスター?」
「なんだ?」
「店、もうもたないと思いますよ?」
「……なに? うわぁぁぁぁああ!!!」
長話をしている間に天井は天井の意味を失ってしまった。
壁ももう残ってはいない。
私たちが隠れているカウンター以外は、既に木くずと化してしまったのだ。残念だ。
けど、ようやく戦いも一区切りついたみたい。
「……っと、だけどようやく終わったみたいだよ?」
煙の中で息を荒立てる姿が肉眼で確認できた。
戦いは……ドロー、引き分けかな。
片や銃を地面につけ膝をつき、片や剣を杖代わりに震える足を支えている。
顔もそっくりなら……実力もそっくり、か。
「ッ……はぁ、はぁ……QA、私の……勝ち、だな」
「はぁ……戯言を……JK、そんな女を連れてるから……腕、落ちたんじゃないの?」
「そう……かもな」
なんて失礼な。
きっとJKは私のお陰でパワーアップしている筈なのに。
愛の力でね。
「……あぁ……俺の……俺の店が……」
「まーしゃーないって。壁とか床、汚かったしリフォームにちょうどいいでしょ」
「ぁぁ……」
「それにほら! カウンターは残ってるんだし、プラス志向にいきましょ。ほら、星はあんなにも綺麗なんだか──ッ!?」
スカッとした天井に指を向け、すっかり暗くなった空に視線を向けた時。
なにかが真っ直ぐこちらに落ちてくるではないか。
わかんないけど、全身の危険センサーがびんびんビン子ちゃん!
「なぁぁぁぁ! マスターぁ! 危ないぃぃぃ!!」
「ぅぇ? ぁぁぁあああ!!」
私はマスターを突き飛ばし、カウンターから飛び出した。
天から降ってきた物体は、大きな煙と爆音を上げ元いた位置を木っ端みじん子ちゃん。
哀れ、最後の希望は断たれてしまった。残念無念、また来週。
「お、俺の店がぁ……」
「命あっての物種だよ! ……てか、やばそうじゃない?」
少しずつ晴れゆく煙から覗く紅い光。
一つでは無い……二つ、三つ……計六つ。影の形は、二足歩行の人?
「ようやく……来たみたいだな。晴海! 気をつけろ!」
JKは私に向かって叫ぶと、ゆっくり立ち上がり再び銃口を構えた。
そうか、理解した。
この影が……8のアクセ・アーマーの使い手。
つまり、こいつの取り合いが始まるのだ……って、あれ?
「JK、QAは?」
「あいつは逃げたよ。私との戦闘で熱を使いすぎて、分が悪いと判断したんだろう。姑息な奴だ」
熱……あれを使うには体温が必要なのか。
だったら、JKのあの顔色……相当やばい気がする。
顔面蒼白、血の通っていないゾンビのような色。余裕の表情を浮かべてはいるが。
「JK……貴女も限界なんじゃ?」
「私には奥の手がある……大丈夫だ」
「奥の手……?」
「あぁ、だけど、それを使えばお前を殺しかねない」
「!?」
「だからできるだけ離れておいてくれ。いいか、できるだけ離れるんだぞ」
「いったいどんな──ッ!」
「グぉぉぉぉぉぉぉおおお゛お゛ッ!!!!」
その瞬間、会話を引き裂くように野獣が如き咆哮が響き渡った。
煙は晴れ、奴の姿が鮮明になる。
普通の男……年は30半ばといったところか。
頭には血管が浮かび上がり、全身はやせ細っている。
JKと同じく熱不足状態で、顔色は悪い。
だが、その両手に付けている特殊な形状のガントレットは燦々と輝いていた。
「なに……あれは……」
幼き頃、データベースで見た太古の生物『T-REX』の頭部を彷彿とさせる形。
金属質な質感に紅い瞳……六つの光はこれか。
「ッ……これじゃあ死ぬまで解放し続けるな」
JKは、拳銃を二つともホルスターの中へと仕舞った。
するとそれは光の粒子になり彼女の耳たぶへと移っていく。
なるほど、これがアクセと呼ばれる由来か。
再度形が形成された時には『J』と『K』のピアスが付いていた。
「よし、晴海……とにかく逃げろよぉ」
「う、うん」
腰を落し、腕を体の前でクロスさせると指をピアスに近づける。
それを合図に私は愕然とするマスターの腕を引っ張り全力で足を踏み出した。
「Its Show Time!!」




