第二十話
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キルシュヴァオム粒子に包まれた二人の少女。しっかりと手を握りしめ、閃光の中へと沈んでいく。
円を描きながら、アクセ・アーマーの粒は混じり合い一つになっていった。
激しく、熱く、まるで少女達の魂に呼応するかのように、ぶつかり合い火花を散らす。
白い光は徐々に紅くなり、小さな金属音を鳴らし始めた。
音の正体は、粒子が硬化し擦れる音。
無骨な音が研究室に響き渡った……かに思われた。
だが、反響するアクセの音は次第に色を変えていく。
例えるなら、ウエディングベルのような。
カラン、カランと少女達の幸せを祝福している。
ありえないことだと思うかもしれない。
けれど、よく考えれば当然の事象なのだというのがわかる。
この狭い空間に、宇宙一幸せな少女が二人もいるのだから。
加速する粒子の回転は遂にトップスピードに到達する。
そうして、限界を迎えたアクセは紅き恋の光を爆発させ周囲を染め上げた後、少女達に纏わった。
────否、少女である。
円の中心に立つ、黒と赤のオッドアイの少女。
光は上から被さるように降り注ぎ、衣装を作り上げていく。
乙女の夢、花嫁衣装へと。
二人が立っていた場所には、一人の花嫁が立っていたのだ。
つまり、夢を叶えた乙女達は────
○
「ぬぁぁぁぁあ!??! わ、私達ぃ、合体してるぅぅぅ!?」
光が止み、開口一番で晴海は絶叫した。
自分で叫んでいるのと同じだから、凄く大きく聞こえるけど全然五月蝿くない。
「そ、それにこれ……うわぁぁぁ……」
春海の感情がダイレクトに伝わってくる。
涙が溢れんばかりの感動……といったところか。
「ふふーん、どうだ、凄いだろ?」
「この時代にウエディングドレスを着ることができるなんて……夢だったんだ、私」
「へへ、名付けて『FIRST NIGHT WEDDING』ってとこかな」
「確かに……合体しちゃうなんて、最早これはセック──」
「時間が無い。とっとと始めようぜ……Its SHOWTIME!」
「え、ぁ、ちょ! れ、Lets PARTY!」
彼女の言葉を遮るように言い、少し後ろを向いた後、深く深くしゃがみ込み思いっきり飛び上がった。
「っ、ぉお!」
想像以上の脚力に自分で地面を蹴っていながらも、狼狽えてしまった。
シャッターのように移り変わる景色。
研究室の天井を破壊し、外に出たと思えば円形状のジャンクキングダムは既に豆粒のように小さくなっている。
雲を抜け、太陽の光を浴び、青空へ。更に上へ、上へと抜けていく。
ほんの少し前まではあれほど明るかったのに、瞬きをした次の瞬間、暗闇に包まれていた。
「ここが……宇宙か!」
「ひゃー、星がキラキラしてて綺麗だねぇ。それにふわふわしてる」
「流石の私も初めてくるからなぁ……感動」
足元には青く輝く惑星が。地球は青かった、というやつだ。
「JK、もしかしてあれがMOTHER?」
右腕を伸ばし指さされた方角にそれはあった。
チューリップの球根みたいな形をした機械物質。
地球の衛生起動上に漂う、この惑星を支配せんとするもの。
宇宙という闇の中で白く不気味に光っていた。
「不味いな」
あの光はキルシュヴァオム粒子の輝き。
MOTHERの各部には粒子射出口が備わっており、そこから少し漏れているのだ。
「つまり……?」
「発射一分前っつーことだ!」
「うげッ!? モーレツにやばいじゃん! スーパーダッシュしなきゃッ」
ドレスのスカートから粒子を勢いよく噴出させ、ジェット機の要領で加速。
MOTHERとの距離を詰めて行った。
すると、奴もこちらの存在に気が付いたのか迎撃体勢に移行する。
尻付近の金属パネルが開き、中から見るからに危険な銃器が大量に現れた。
「晴海!」
「わかった。ここは任せたよ!」
一度、体の操作権を全て私に委ねてもらう。
と、同時に銃器からは大量のレーザー光線が放たれた。
ジグザグな軌道を描きながら、確実に私達の方へと向かってくる。
これは……思考回路を繋げる為の光線じゃないな。唯一愛した女性達、つまり対Joker用迎撃武装ってことか。
数は……二十六。なるほど、当たると痛そうだ。スピードも速い上に、この軌道……間違いなく避けたところで追尾されるだろう。
「骨が折れるな」
「うそ!? 痛くない!? 変わろうか?」
「ばっか、そう言う意味じゃねーよ。折れてたら晴海も痛てーだろ」
「そっか」
「ま、見てな」
Jokerの時なら苦労したかもしれない攻撃。
けど、今の私は一人じゃない。
二人……いや、もっと多くの人の思いを背負っている。祝福されている。
そんな私が、この程度の攻撃────
「食らうわけねぇだろぉ!!」
迫り来る光線の嵐を拳で弾き飛ばしていく。
正拳、裏拳、回し蹴り、肘打ち。
四肢全てを駆使し二十三発打ち消した。
そして最後は大きく足を上げ踏み付け消す。
「どーよ!」
「JK、もっとおしとやかに」
「え? お前が言う?」
「ふふーん、私も結婚して大人になったのさ」
「へ~じゃあ見せてもらおうかな」
「え? あ、ちょっと!」
「Make Over」
今度は操作権を全て晴海に。
「ほら、追撃が来るぞぉ! 躱せ躱せ!」
「こ、んのぉ! どSッ!」
「私は責めが好きなんだよ。頑張れ頑張れ」
「ッうぅ?ッ、嫌いじゃないけど、さ!」
迫り来る光線の数、実に四十本。
春海は両腕を広げ、周囲に粒子を散布。そして拳をぎゅっと握りしめ再生成。
無数の足場を作り出すと、それを踏み台にし四方八方へ動き回った。
「と、ふっ、はッ、とぉ!」
僅かな光線の隙間を縫うように飛び交い、華麗に躱す。
「ふ、ふぅ?どうだい、JKさん。これが、おしとやかな躱し方ってやつだよ」
ドヤ顔で鼻を鳴らす晴海。
なるほどなぁー……けど、私がわざわざ弾き消した意味わかってないな?
「晴海、うしろうしろ」
背中に迫る光線。それぞれが後方で合体し、一本の巨大なレーザーになり襲いかかってきている。
これでは最早、弾くこともままならない。
「どーするんだ? あれは腕力じゃどうにもならんぞ」
「ふふ、JK……私が考えなしに躱したと思っているのかい?」
「……なに」
晴海は不敵に笑うと、身体を反転させ極太光線と向き合った。
そして叫ぶ。
「ENGAGE!」
「ッお!?」
一度別れた操作権が再び二分の一に戻る。
え、このタイミングで!?
「晴海、お前どういうつもりだよ!?」
「発射まで後十秒、距離千百六十二メートル」
「へ、は? なんでそんな正確に距離まで測れんの!?」
「この程度、服の上からスリーサイズを正確に算出する晴海アイにとっては造作も無い」
「……」
「つまり、避けたり弾いたりしながら接近しては時間が足りない……だったら、こうだ!! 飛んで!」
「お、応!!」
声に従い、光線直撃の寸前に宇宙を蹴り飛んだ。
すると彼女は粒子の噴出を調節し、無重力下で半回転。身を捻らせクルンと回ると
────なんと、光線の上に乗っかったのだ。
「ひゃっほーーーぉぃ!!」
「んえぇ!? どういう理屈だよ!?」
「この、暴れ牛め! うりゃ、うりゃぁ!」
サーフィンでもするかのように、足で光線を操作し移動する。
ジグザグな軌道を利用し、追撃も華麗に躱していた。
凄い……この考えはなかった。
「このまま行くよ、JK!!」
「あぁ、やっちまおうぜ、晴海!!」
カッと踏みつけ軌道調整。進路、MOTHERに向けて一直線。
加速、加速、光線の勢いに加え背面から粒子を放出させ更に加速。
急激に接近する距離。
「「必殺ッ────」」
全力で足場を蹴り飛ばし最高速に達した時、右足を伸ばし飛び蹴りを放つ。
足先は真っ赤に燃え上がり、真っ暗な宇宙にレッドカーペットを敷いていく。
「「ラブラブ・ウエディング・ロードォォォッ!!!!」」
亜光速で放たれた飛び蹴りは、刹那の速度でMOTHERの中心を貫いた。
滑るように残火を引き摺り停止すると、ドカンと背後で大きな爆発が起こる。
MOTHERの破壊に成功したのだ。
「……やったな、晴海」
「決まったぜ……って、えぇ!?」
「どうした?」
「あれ! あれ!!」
「ん、あぁ」
爆発したMOTHERからは何億本もの細い光が地球全体に向けて放たれている。
「と、止まんなかったの!?」
慌てふためく晴海。
私は心の中で彼女を落ち着かせ言った。
「いや、あれは違う。もっと気持ちのいいものだ」
「……? 気持ちのいい……あッ!」
ようやく気が付いたようだ。
細い光は所々で括られており、光の花を作り出している。
それがいくつも束になり、一つの物を作り出しているのだ。
これが、私と晴海の結婚式のフィナーレ。
「凄い……地球規模のブーケだ」
「幸せの御裾分けさ。お前なら、一人と言わず生きとし生ける全ての生物にすると思ってな。MOTHER直撃時にちょこっと細工させてもらった」
私達(実際は一人だが)は煌めく花束と地球を眺めながら、ようやく戦いが終わった事に安堵し余韻に浸った。
「……綺麗だね」
「……ぉ、ぉ、は、晴海の方が……」
「え? なんて?」
「いや……なんでもない……」
「ふふ、なら続きはハネムーンで聞いちゃおうかな!」
「ッ────聞こえてんじゃねーか!」
「当たり前でしょ? だって私達、合体してるんだから」
「……それもそうだな……」
「さ、行こ! 金星でも、木製でも、冥王星でも好きなところに好きなだけ! これからは、私達だけの時間だよ!」
「……ああ、最高に楽しもう。そして、宇宙一幸せになろうぜ!」
「当然ッ!!」
────こうして、私達は宇宙の彼方へと飛び立った。
私は晴海と出会い変わり、幸せになれた。
だから次は、戦いで彼女を助けるのではなく……一人の女の子として、妻を笑顔にしたいと思う。
長い戦いは幕を下ろし、次は『日常』という新たな日々が始まるのだ。
想像しただけで、胸が踊った。
「私たちの結婚生活は、人生は、ここから始まるのだよ!」
お・わ・り




