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乙女なら、拳で語れ【完】  作者: あむあむ
第一章 少女は少女に恋をした。
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第一話

 気分爽快、快晴の空。

 太陽は顔を見せ、貧相な街を明るく照らす。

 ここはジャンクキングダム第四区にある木造建築の一軒家。

 私とJKの愛の巣だ。


「これをこーして、あーして……っと」


 そんな陽気な天気とは裏腹に、私の朝は慌ただしい。

 フライパンに乗っかっている卵を、火力を調節しながらじっくりと焼いていた。

 それと同時にトースターへパンを投入。

 最大効率で朝食を仕上げていく。

 晴海ちゃんは料理もできて、その上美少女なスーパーウーマンなのだ。が。


「ぅ、ぉあ!? やばいッ!!」


 食器を用意しながら作業をしていると、焦げ臭い香りが鼻を摩った。

 ガス台へ目を向けると、地獄の業火で身を焦がす目玉焼きちゃんが真夏のギャルも驚くくらい真っ黒になっている。

 私は彼(彼女?)助けようとして、咄嗟にフライパンを掴んだ。


「ぬぁぁぁちぃぃぃぃ!!!」


 限界を知らぬ鉄の塊は、掌をジュウっと焼く。

 驚きのけぞると、次は背中がトースターへとぶつかった。

 なんということだろう。

 設定した時間にならなければ飛び出てこない筈のパンが、その衝撃により発射され私のくりくりお目目に激突。


「ぬがぁぁぁッ!!」


 ダブルコンボッ! 晴海ちゃんに九九九九のダメージ!

 まるで食材達に意思があるかのような、華麗な連係プレーを受けその場に倒れこんだ。

 だが、悪夢はまだ終わらない。

 倒れる直前、肘をフライパンに引っかけた結果、テコの原理で宙に舞う真っ黒な卵焼き。

 目の前にゆっくりと迫りくるアツアツの卵を見ながら、ふとそんな事を思ったのであった。


 ジュウッ。へぎぃ。


 とまぁ、こんな悲劇がありながらも何とか朝食を用意した私はお皿に焼きなおしたトーストと目玉焼き、ベーコンを乗せテーブルに並べていった。

 今度は一つ一つゆっくり丁寧にこなしていく。

 お湯が沸いたのを確認すると、コップの中へ少量の粉を入れてから注いだ。

 これで、JKご希望の朝食メニューが完成だ。……といっても、もう十一時なんですけどね。


「さて!」


 パンパンと手を叩き、次の仕事へと移る。

 その仕事とは……我が家の主、JK様を目覚めさせることだ。

 先ほど言葉の通り手を焼いたフライパンとオタマを手に取り、階段を上っていく。

 二階……というよりかは、屋根裏のような小さな空間だが、そこが彼女の寝室だ。


「JK-、起きてるぅ?」

「……」


 眠り姫からの返事は無い。

 ベッドまで近づき顔を覗くと気持ちよさそうな顔で吐息を立てていた。

 そう、姫は王子のキスで目が覚める。

 この際、どっちが姫で王子なんかは関係ない。 


「ふひ、ふひひっひひ……」


 にっこりとほほ笑みながら、JKの顔に少しずつ自分の顔を近づけていく。

 チャンスは逃さない。それができる女の心得だ。

 白い肌着は私の劣情を更に煽り、うっすらとピンク色の唇は心拍数を上昇させた。

 私のファースト・キッスを捧げる時が来たようだ。


「隙だらけだJK……んーっ」

「……誰が隙だらけだって? この野獣」

「んひッ!?」


 顎に冷たいものがあたっているのに気が付き、両手を上げた。

 カチャっと引き金に指がかかる音が鳴った。

 あ、やばい……これは痛い方の銃だ。


「ふぁ~……ったく、人の寝込みを襲うとは。油断も隙もあったもんじゃねーな」

「え、へへ。ご主人様、朝食ができておりますよ?」

「うむ、結構」


 銃口を向けたまま、彼女は立ちあがると背伸びをした。

 ぶかぶかの白いシャツに純白のパンツ一丁姿。エッチだねぇ。


「鼻息が荒いようだ。一度頭を冷やしてみるか? 鉛玉は冷たくて気持ちいいぞ?」

「先に下りてます」

「あぁ、そうしてくれ」


 真っ赤な瞳に睨まれ、私はしぶしぶ一階に下りJKを待った。

 そして、しばらくするとセーラー服姿になって下りてくる。

 眠気眼を擦りながら「ふぁ~」と可愛らしく欠伸をし、椅子に座った。


「ぉ、朝飯……今日はなかなかいいできじゃないか」

「でしょ? 嫁の為に一生懸命作ったんだから」

「だから……私は嫁じゃないと何度言えば……」

「さ、召し上がれ。愛情たっぷり愛妻朝ごはん!」

「はーい、いただきます」

「いただきます」


 私も一緒に席に付き、朝食をともにした。

 トーストを一口食べると、歓喜の表情を浮かべるJK。

 その顔を見て、私も幸せになった。


 彼女と一緒に暮らすようになってから、既に一週間の時が過ぎている。

 結婚を懇願したが断られ、無理やり家まで付いてきた。

 最初は「帰れ」の一点張りだったが、私がユートピアから逃げてきたことを知ると家に入れてくれた。

 そして、二つの条件付きで共に暮らす事を許してくれたのだ。


 条件一、家事全般を行う事。

 条件二、お仕事を手伝う事。


 家事なんて人生で一度もしていなかったから、ものすごく苦戦したが……愛の力で少しずつ習得中だ。

 ユートピアでは全てロボットがやってくれていたからね。

 こんなに労力を使うことだとは思ってもみなかったけど、愛する者の為だ。

 小言はチャックし、仕事にとりかかろう。


「JK、今日はどうなの?」


 トーストを口に咥えながら、新聞紙を広げるJK。

 ジャンクキングダムに唯一存在する情報源『シャット・アウト』。

 この街で起きた出来事は大体ここに乗っているのだ。

 うんうん……『第二区で謎の大爆発!?』か、毎日起きているな。大爆発。

 それと……『第九区、数年で一番の豊作!』かぁ、いいねぇ……お米たべたいなぁ。


「でも、変わったニュースはなさそうだね」

「ん……そうだな。シャット・アウトの質も落ちたかなぁ……」


 記事全体を見ると、平和と崩壊が混在している。

 てっきり、私はこの街に来るまでは、ただただ無秩序で荒くれ者ばかりが集まっている世紀末な場所かと思っていた。

 けれど、本当はもっと複雑な構造をしていたのだ。

 ジャンクキングダムは円形状の土地をしており、周りから中心に向かうにつれ第十区~第一区へと分けられる。

 区間の数字が小さくなればなるほど、危険度は高くなっていくらしい。

 だから、大きい数字の場所では農業や商業が盛んで平和なニュースも多いのだ。

 ちなみに、私がJKと出会ったのが第三区……なにも知らず、結構危ないところに行っちゃってたみたい。


「ん……?」

「どうしたの?」


 JKは、フッとある記事に注目した。

 新聞紙を半分に下り、片手でコーヒーを啜りながら、じっくりと目を通す。

 私も顔を乗り出し、その記事を読んだ。

 なになに……『壁に謎の刻印。何かのメッセージか?』かぁ……ゴシップ記事かな。

 白黒で見にくい写真だけど、8の字に壁が抉れているように見える。


「これがどうかしたの?」

「……あぁ、久しぶりに仕事みたいだ。行くぞ、晴海」

「えぇ!? これが!?」

「そうだ。8の字に抉れた壁……間違いないさ」

「なんだか良くわかんないけど、ようやく初仕事ってわけね!」

「早速準備する」

「うん!」


 彼女はきゅっと顔を引き締めると、ポケットから二つのピアスを取り出し耳に付けた。

 右耳には『J』、左耳には『K』の形を模した物だ。

 そして、玄関に掛けてある黒いロングコートをセーラー服の上から羽織ると、エンジンキーを手に取った。

 私も早々に食べ終わった食器を片づけ、彼女の後ろへ付いていく。

 外に出ると、JKは既に大型バイクに跨りエンジンを吹かしている。

 小気味の良い音を奏でながら、後ろに座るよう手招きをした。


「よっと……まさか、初めてのニケツがバイクとは……!」

「飛ばすぜ。しっかりと掴まってろよ」

「ど、どこを掴めば?」

「あ? 腕を腰にまわして体を近づけろよ。でないと、振り飛ばされちまうぞ」

「わ、わかった……よし」

「……よしじゃねーよ。そこ、胸」

「へ? いや、それにしては平らすぎる気が……」

「撃つぞ」

「すみません」


 私はおとなしく彼女の腰に手を回し、体を密着させた。

 と、同時にスロットルを回すとバイクは急加速し発進する。

 肌を刺すような尖った風が頬に当たり、舗装されていない道は車体を揺らした。


「で、どこに向かってんの?」

「第三区だ。そこに『エンジェルリング』っていうBARがあるから聞きこみをする」

「りょーかい!」


 こうして、私たちはまず情報収集から始めることにしたのである。


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