プロローグ
想像力、それは人類が失うべきではなかった力。
発達した科学により、生活環境を合理的に管理されるようになった人間は想像力を犠牲にして安定した人生を手に入れた。
だが、機械に管理されることを拒絶した人間もいた。
相反する二つの意思は、この狭い地球の中で争いを始める。
世界歯車戦争……通称WGW。
この戦いにより世界は真っ二つに分かれてしまった。
それが、AIにより管理された都市『ユートピア』と、規律が一切存在しない無法都市『ジャンクキングダム』だ。
ある時、ユートピアに超絶純粋可憐美少女が産まれる。
名を『桜 晴海』……私のことだ。
とても活発的で人望も厚く、成績は……まぁ、人並みのチョイ下くらいの乙女。
そんな私は、常にAIに監視されているユートピアの生活を鬱陶しく感じていた。
だって、嫌じゃない?
思春期真っ盛りの美少女は、もっと青春を謳歌するべきだと思うんだ。
毎日毎日、指定された場所・時間・行動。
産まれた瞬間から年間スケジュールが組み立てられてて、食事や恋も自由にできない。
来年になったら、クラスの冴えない眼鏡君と結婚して妊娠して子供作ってって……そんなの絶対に嫌だ。
更に言えば、だ。
私は男より女の方が好きだ。機械様にとっては、非生産的かつ愚かな趣向だろう。
しかし、考えてみてほしい。
ゴツゴツとした腕に掴まれるより、柔らかくモチモチとしたおっぱいに包まれた方が百兆倍幸せなのでは?
可愛いし、愛らしいし、気持ちいい。
なら、私は女の子と結婚がしたいね。当然の理、VIVA美少女最高!
……ということで、思ったが吉日。
規律と規則に縛られた街を抜け出した私は、ジャンクキングダムへと単身向かったのだ。
無法地帯であるのなら、女の子と結婚してもいい筈だ。
夜は二人で体を重ねあいながら、欲望をぶつけ合うことだって可能な筈だ。
ぐへへ……っと、よだれがでてきちまったぜ。
と、単純な思考、猪突猛進で突き進んだはいいものの……晴海ちゃんは美少女故、街の荒くれどもに囲まれてしまうのであった。
「ぐへへ……っと、よだれがでてきちまったぜ」
私の心の声と同じ台詞を吐く野蛮な男達。
薄暗い裏路地に誘い出し、横に広い体で道を塞ぐと舌舐めずりをした。
後ろには金魚のフンみたいに付いてくるガリガリの男が。世紀末かよ。
「あ、の! 確かに、行動原理は理解できますよ? 可愛いし、手を出したくなる気持ちもわかります」
「こいつ自分で自分の事を可愛いっていってますぜ、兄貴!」
「いや、可愛いっしょ。どこに目を付けてんだが骨男!」
「あぁ!? てめぇ、自分の立場わかってんのかぁ? やっちゃいましょうよ、兄貴!」
こいつの語尾は兄貴なのか。
そう思うほど、言葉の最後に大型の男を呼び、視線を向ける。
いやはや、これだから男は嫌いなのだ。
「生意気な口を聞いていられるのも今だけだ。直ぐにヒィヒィ言わせてやるぜ」
指をぽきぽきと鳴らし、私の体に迫ってくる。
肉薄する距離。大きな影に覆い尽くされ、完全に逃げ道は失われた。
「あれ……これって、絶対絶命、阿鼻叫喚なのでは……?」
「いまさら気付いても遅ぇよ! さぁ……堪忍するんだな」
太く、毛むくじゃらの腕が胸部目掛けてゆっくりと伸びてきた。
背面は壁、武器は無し、可憐な少女が力で太刀打ちできるわけがない。
あわやこれまで……そう思った時である。
「小さな女の子にしか相手にされないだなんて、悲しいねぇ」
「ッ、だ、誰だ!!」
大男の後ろから、凛とした声が聞こえた。
裏路地の入口を塞ぐようにして仁王立ちをする影。
逆光で顔を見ることはできない……けれど、体形から明らかに女性だとわかった。
それも、声、影から察するに私よりも若そうな。
「人助けをする趣味はねぇが、放って置いても後味が悪いんでね。少しばかり、躾をさせてもらおうか」
「なんだと……この糞ガキ……お前も同じ目にあわせてやろうじゃねーか」
「やっちまってくだせぇ! 兄貴!」
「はは、私を襲おうってのか。いい度胸してるじゃねえか……なら、とっとと来な」
人差し指をクイっと曲げ、挑発する少女。
私は、何もすることができず、ただただその光景を見ていた。
二人掛かりで襲う男達を、長い髪を靡かせながら華麗にかわし、捌いていく。
まるで羽のような動きに翻弄されながらも、次の攻撃を放とうとした。
が、二回の破裂音と同時に男の体は天高く舞い上がる。
一瞬の内に、彼らは地面に口づけをすることとなったのだ。
「暇つぶしにもならねぇな」
いつの間にか、少女の両手に形の違った拳銃が二丁握られており、太ももに着いたホルスターへクルクル回しながら仕舞うと背中を向けた。
私は、咄嗟に叫ぶ。
「助けてくださり、ありがとうございます!!」
「ここら辺は危険地帯だ。早く帰んな、お譲ちゃん」
「あ、の……お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「名前? ……そうだな、皆からは『JK』って呼ばれてる」
「JK……」
「お前は?」
「わ、私の名前は桜 晴海です!」
「晴海か……いい名前だ。もうここには近づくんじゃねーぞ」
「────ッぁぁあ!!」
彼女は振り返り、尻もちをつく私にそっと手を差し伸べてくる。
その瞬間、鼓動は荒く波を打ち、頭はお星さまのように輝いた。
はっきりと見える顔は正に美少女だ。
白い腕に黒い髪のコントラストは最早芸術の域。
ジャンクキングダムには似合わないセーラー服を身にまとい、幼きながらも凛とした顔つきは、視線を奪って離さない。
何より、宝石のように輝く赤い瞳。景色が一瞬にして切り替わる。
「結婚してください」
「……は?」
運命だ。これは運命に違いない。
こんな偶然、あり得ないもの。
ピンチに駆けつける白馬の王子様。
いや、紅眼のJK。神様は言っている。
この者と幸せになりなさい、と。聞こえた、確実にそう言ってた。
「JK、貴女を愛しています」
「ちょ、ちょっと、なんだお前!? 私は女だぞ!?」
「大好物です」
「は、はぁ!? わ、わわわ、ま、待てよ! おわーーーッ!」
「好きだぁぁあぁぁ!!!」
私は、下から抉りこむようにJKの体に抱きつくと、そのまま押し倒し求愛を続けた。
ものすごい力で引き剥がされそうになるが、決して離さない。
「すこ! すこなんだぁ!!」
「ッぁ!? や、やっかいな奴を助けちまったなぁ……」
この街に来て本当に良かった。
だって、夢が叶ったんだもの。
神様サンキュー、今度ポテチ奢ってあげる。
「嫁、ゲットだぜ」
「だ・れ・が・嫁だぁぁあ! 離せッ!」
「やだもーん」
「ぬぁぁぁあ!!!」
薄暗い裏路地に、少女二人の喘ぎ声が響き渡るのであった。
────これが、JKとの出会い。
まだ、私は知らなかった。
彼女の秘密、そして、この街の事についても。
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