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乙女なら、拳で語れ【完】  作者: あむあむ
第四章 少女は少女と永遠を誓う。
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第十六話

「わたし……の、愛は……どこに……」

「もう終わりにしよう。貴様は危険因子……残しておく事はできん。じゃから……最後は最愛の者に介錯してもらうといい」

「…………JK」


 目の前で、彼女の拘束が解かれていく。

 それと同時に二つのアクセが輝いた。

 Jの『ジャックポット』、Kの『キングランページ』。

 2丁の拳銃が手に掴まされ、黒い疾風が包み込んだ。

 赤い、紅瞳が開かれた時────タキシード姿で歩き出す。


「…………」

「ねぇ……JK、私は……」


 ようやく、最愛の人とここまで近づく事ができた。

 最悪の形で、最低の結末を迎えに、終わりを告げに。

 無言で歩み寄って来るJKの瞳は、普段のものとは違う。ハードボイルドの時とも違う。

 肌を刺すような殺意も無い。

 暖かさも、冷たさも感じられない。

 無い、無い、何も無い。


 ────『無』そのもの。


「私が……私がわからないの!? JK!!」

「…………」

「無駄だ。Jokerの記憶は既に零、生まれたばかりの赤子と変わらん。儂の命令を忠実に聞く赤子じゃがな」

「そんな! だったら……だったらぁ!」


 彼女を愛した記憶も、全てが無くなったというのなら、私の愛を証明してくれる人は……誰一人いない。


「Delete」


 淡々と告げられる、機械的な言葉。

 目の前まで来た彼女は、膝をつく私の額に銃口を押し付けた。

 まるで、呑み込まれてしまいそうな程、深い瞳。

 その瞳に絶望を感じていると、指に掛かった引き金が容赦なく引かれる。


「ッ、ぁあッあ゛!」


 ガアンっと鈍い発砲音と共に、身体は吹き飛ばされ入り口付近の壁に激突した。

 硬い壁が背骨を殴り、直撃を受けた部分からは血が流れ、口の中に入る。

 辛い鉄の味がした。

 痛……ぃ、けど、死んでない……?


「ぐ、ぁ……ッ、ぅぅぅ!」

「ほぅ、体内にアクセを取り込み瞬時に防御へと転換させたか。なるほど、少しは認めよう。桜 晴海という女を」


 死んでないけど……時間の問題だ。

 お義父さんの話では、どうやら体内のスイートクイーンが発動してくれたみたいだけど、長くは持たないだろう。

 なにより、無意識に発動したものだから次も同じようになるかはわからないし。

 死ぬ、今度こそ確実に死ぬ。


「Delete」


 JKは距離を取ったまま、再びKの銃口を向けた。


 ────ガンッ!


 撃鉄が薬莢を叩き弾丸が放たれ、左肩に直撃。


「がッぁあああ゛!!」


 ────ガンッ! ガンッ! ガンッ!


 次は脇腹に、左太腿にに、右膝に、衝撃と激痛が走り張り付けにされる。

 Qが私の身を守ろうと自動で発動しているのか、命は繋がっていた。

 これは……死ぬよりも苦しいかも。

 ラブちゃんにやられた時は、痛みなんて感じる暇はなかった。

 一瞬で意識が刈り取られてしまったからだ。

 今は違う。じわじわと滲み出るような痛みが後に残っている。


「ぁ……ぁぐッ! ぁぁ゛!」

「ふむ、Jokerの空間把握能力がズレているのか? 後で微調節が必要じゃな。的確に急所を狙えないようでは役に立たんからな。もう少し、的役を頼んだぞ」

「ッ……ぅぅ……」


 苦しい、痛い、辛い、泣きたい、もう辞めてしまいたい。

 身体だけじゃない、心も、だ。

 今、頑張ってJKを取り戻したところでどうなる。

 記憶を消された彼女になんて言えばいい。どうすればいい。

 私の愛は偽りの愛だった。

 きっと、迷惑になるだけだ。幸せにしようと、独り善がりをするだけだ。

 ずっとそう思われていたかもしれない。


「意味が……なかったの……?」


 だったら、もう諦めた方が楽。

 何も残せず、何も愛せず、何も幸せにできず……私の人生は幕を下ろす。

 夢があった。美少女と結婚するという夢が。

 それはJKと出会い、彼女と共に幸せになりたいというものへ昇華した。

 ……叶わなかった。

 根本的に間違っていたのだ。


 私は────誰からも必要とされていなかった。


「Delete」


 何度引き金を引こうと、彼女の表情は変わらない。

 JとK、2丁の銃口と紅瞳が向けられ、今度こそ死を覚悟した。

 それでも、最後に一言だけ伝えたい言葉がある。

 痛みを抑えながら、絞るような声で呟いた。


「さようなら、JK……ありがとう。私は……幸せだった」

「…………」


 破裂音がドーム内に鳴り響いた。死の世界へ送るファンファーレ。

 これで楽になれる。そう心の中で呟いた時、続いて別の音が二回鳴る。


 ────キンキンッ!


 金属と金属が合わさり跳ねるような音。

 そして、いつまで待っても弾丸が私に届くことは無かった。

 不思議に思い、ゆっくりと瞳を開くと……頼もしい背中があった。

 ボロボロのセーラー服に身に纏い、刀を構えている少女。

 褐色の肌。髪の毛は、白から光緑色に変わっていた。


「らしくないんじゃないの? いつもの根拠が無い自信はどうした、義妹」


 少し後ろを向き、ニヤリと広角を上げる彼女、クロちゃんだ。

 私は、安心した表情で言う。


「クロちゃん……勝ったんだね。ラブちゃんは?」

「ちょっと昼寝してもらってるよ。ほら、あそこ」


 視線を向けた先。

 入り口から離れた安全な場所で壁にもたれかかるようにして気絶しているラブちゃんの姿があった。

 怪我も少なく、綺麗な寝顔だ。恐らく、圧倒したのだろう。


「凄いね……あのラブちゃんを一人で……」

「晴海ちゃんのお陰よ」

「……私の? ううん、クロちゃんの実力だよ」

「なら二人の力だ」

「……私は……何もしてないよ。何も出来ないし……」

「あれま、ホントにどうしちゃったんだい? お姉ちゃんが覚醒して、諦めちゃったの?」

「……それもあるけど……私の愛は偽りってことがわかった。私は……何もできていなかったんだ……」

「んな!? ちょっと、晴海ちゃん! それはち────」

「Delete」

「────ッぅ!!!」


 追撃に即座に反応し、正面を向いたクロちゃんは弾丸を真っ二つに斬り裂いた。


「お姉ちゃん、邪魔しないで!!!」

「Delete」

「チィッ……世話の焼ける姉だ。晴海ちゃん、私が時間を稼ぐから貴女はどうしたら元に戻せるか考えなさい!」

「……けど、私には……何も……」

「ッッうぅぅ?、こっちもか! わかった、顔を上げて!」

「……え? ッぁ゛!!」


 上を向くと、胸グラを掴み引き寄せられ、オデコをゴツンと打つけてくる。

 よりにもよって一番最初に弾丸を受けた場所。

 クロちゃんは「いたぁー!」と苦しむ私を無視し、くっついたまま叫んだ。


「私はね、貴女に救われたのよ!! 晴海ちゃんが私を愛してくれたから!!」

「……私が……?」

「死の覚悟をした私を、リスクを犯してまで、自分の身を危険に晒してまで助けてくれた!! 出来損ないと自分を蔑む私を怒ってくれた!! どッッッれだけ嬉しかったかわかる!?」

「だって……それは……」

「だってもヘチマもない! あの時、心底愛されてると思ったわ。それを偽りだって言うの!?」


 嘘じゃない。偽りなんかじゃない。

 ……と、声を大にして言いたかった。

 だけど、自分の愛に自信がないから声がでない。

 独り善がりだったのではないかと、不安だ。


「……私は……」

「貴女の愛は偽りなんかじゃない! しっかりと、私に伝染してる!」

「でん……せん……?」


 その言葉を聞いた時、頭の中の暗雲が少しだけ晴れた気がした。

 愛は……伝染する?


「自分を捨て、お姉ちゃんを助けようとするのは間違いだって気が付けた。晴海ちゃんの心は、私の中で生きている。そういうのが、愛なんじゃないの!?」

「クロちゃんの中で……生きている……? 私が……?」

「だから諦めないで。本当に覚醒したお姉ちゃんなら……Qの防御なんて紙切れ同前の筈」

「……それって……もしかして……」

「私が認めた人なら、私を愛する人なら、私の義妹になりたいのなら……お願いだから、諦めないで」

「────ッ!」


 両肩を掴み頭を離すと、クロちゃんは再び正面を向きJKと対峙した。

 地面を噛みしめるように歩き出し、肉薄する。

 その光景を後ろから見つめることしか、今はできなかった。

 けど、光が見えた。

 クロちゃんのお陰で、小さな、小さな光が。


「お姉ちゃん、この間の決着をつけましょうか。今度は逃がさないからね」

「Delete」

「……皮肉も言えなくなるなんて、地に堕ちたもの……ねッ!!」


 急激に加速し、姿を消す二人はドームの中心で激しく衝突した。


「ぁッ……」


 胴体が仰け反るほどの突風が体を突き抜けた。

 クロちゃん、JKは離れ、衝突、離れ、衝突を繰り返す。

 ドーム全体がギシギシと悲鳴を上げ、小刻みに揺れた。

 緑と黒の閃光。私には、そうとしか視認することができない。

 異次元のスピード……クロちゃんは確実にパワーアップしていた。

 何故……私のお陰?

 一体何が彼女を変えたというのだ。

 私は……何もしていない。ただ、美少女が傷つくのを見ているのが辛くて、もっともっと笑顔で楽しくなって欲しくて頑張っただけだ。

 それを……愛と呼んだ。伝染する愛と。


「出来損ないがJokerに対抗するか? なるほど……クローバ、貴様は後で再修正を施してやる。面白いデータが取れそうだ」

「創造主……いや、お父さん!!」

「ッ……やはりまだバグは健在のようだな。桜 晴海の影響か? 不要な感情を取り入れ、アクセの性能を下げる。致命的な欠陥じゃ」

「違う……ッ! 私は……私達、唯一愛した女性達は……貴方の兵器じゃない!! この感情、この気持ちこそが……アクセ・アーマーに必要なものだ!!」

「妄言を。もういい、耳障りじゃ。破壊してから記憶データだけ抜き取らせてもらうこととしよう、Joker」

「了解……Delete」

「ナメるなぁぁぁぁぁぁああ!!!!」


 振り下ろされる刃と放たれる銃弾が交差する。

 獣が如き咆哮を上げ、JKに向かっていく。

 あんなクロちゃん初めて見た……熱い、熱いよ。

 私も……私も動かなきゃ。

 だけど、どうしたらいい。

 愛の本質も分かっちゃいないのに、どうやってJKと向き合えばいいんだ。


「……ご主人」

「え!? は、ハチ?」


 ブレスレットから聞こえる声。

 アーマー形態にしていないのに、彼の声が聞こえた。


「ど、どうして喋れるの!?」

「思い出した……先の電流で、自分が何者なのか。何故、自我が存在するのか……」

「……は、ハチ……?」


 彼の喋り方に違和感を感じた私は、もう一度名を呼んだ。

 口調も声色も違う。少し女性っぽいというか……けど、男らしいというか。

 この声は……以前にも聞いたことがある。


「そうか……晴海、初めましてだな」

「どうしちゃったの! まさかあの電流で……壊れちゃった……?」

「正確には直った、だ。性格は壊れちゃったかもなぁ、HAHAHA!」

「……? 貴方は……誰?」


 笑い方はそのまんま。

 だけど、根っこが変わってしまっている。

 もしかして……私のせいか?


「ハチだよ、ハチ。クク……あの時、粒子を残して置いて正解だったなぁ」

「粒子? 残す?」

「こっちの話。しかしどうした? ほんのちょびっとしか、ソウゾウ力が流れて来ないぞ? 零、よりかは百億兆倍マシだがな」


 クロちゃんのお陰で、少しだけ未来を想像できるようになっていたのか。

 だから、今まで黙りだったハチが喋るようになれた……けど、アーマー形態になるには足りないって感じかな。

 ともあれ、相談相手がいるっていうのは心強い。これ以上は、一人で考えても答えはでなさそうだったから。


「……ねぇ、ハチ。愛って……なんだと思う?」

「はッ、単刀直入だな。……本物の俺様は、逃げたから……偉そうなことは言えない」

「本物……?」

「あぁ、∞・REXには川上 純の意識データが組み込まれている。つまり、俺様は川上 純の残留思念ってことだな」

「ぅえ!? J、JKのお母さんの!?」


 な、なんてことだ!? またご挨拶が遅れてしまった!


「いや、俺様はあくまで残留思念。彼女とはまた違うさ……だから、お義母さんとか呼ぶなよ? ハチのままでいい」


 流石は共に死線を乗り越えてきた相棒、私のことわかってる。


「けど……どうして純さんは、意識データをハチに?」

「寂しかったんだよ。逃走生活の中、話し相手がいなくてな……あんな事になってしまって、一人で戦い続けて」

「……え?」


 寂しかった……? お義父さんはとアイリスさんは純さんと一緒に逃げていたはずなのに?

 まさか嘘? いや、あの声と言葉には嘘を吐いてそうな感じはなかった。

 それに、本当じゃなきゃ「世界平和」の為にここまでする筈はない。


「あの……男二人と一緒だったんじゃ……」

「あぁ!? アイツらはな、金魚のフンみたいに着いてきただけだよ。人の話を聞かないで自分の話ばかり……隙をみては恋人顔しやがる。大体、私の言った通り警備の強化に務めていれば、侵入されることもなかったんだ! なのに『いつでも傍にいます』とか、ストーカーかよッ! あぁ、思い出しただけでイライラしてきた!」

「…………」


 ブレスレットが勝手にガチャガチャと暴れまわっている。

 相当お怒りのご様子だ……純さんって、結構荒っぽい性格だったんだな。

 ……しかし、あの話の実態はこういうことだったのか。

 一方的な愛の押し付け。けど、私と同じだ。


「……私もJKに同じことしちゃった……やっぱり怒ってるのかな……」

「ぬぉ!? お、おい! ソウゾウ力減らすな、喋れなくなんだろ!」

「ぁ、ごめん……けど……」

「ぬぁぁぁ! 待て、春──ご主人は今『同じことをした』と言ったな!」

「う……うん」


 そうだよ。出会ったばかりのJKに付いて行って、勝手に家まで上がり込んで。

 結婚しようと無理矢理迫った。

 彼女の気持ちを考えず、自分の気持ちを押し付けたのだ。

 私なんて……私なんて……────ッ、痛ぁぁ!!


「ちょ、手首ギューっと締めないでよ! 痛ッ、つねるなぁ!!」

「一度落ちると地の底まで落ちるな……いつも高い分ギャップが激しい」

「仕方ないじゃん! だって……ぅ、ぎゃぁぁああ!」


 また、またぁぁぁあ!! ッ……こいつ!!


「よく聞け、愛ってのはお互いの気持ちがあってこそ、だ」

「お互いの……気持ち?」

「愛とは繋がり、人と人との繋がりだ。愛し愛され、愛し合う。これが、本当の『愛』なんだよ」

「……でも、JKは私の事を愛してなんか……」

「馬鹿ッ! 愛してるに決まってるだろ!」

「……え? マジで?」


 ほ、本当に!? や、やばばい……胸がドキドキしてきた。


「そりゃそうさ。献身的に尽くす女を嫌いになる訳ないだろ? 嫌がったことが一度でもあったか?」

「……はぐらかされることはたくさんあった……けど、嫌がることは……してないつもり……」

「なら、自信を持て。ご主人の愛は本物だ」

「……繋がり……愛し愛され、愛し合う……あッ!」


 そうか……そうかそうかそうか!!!!

 ようやくわかった。お義父さんの間違いが。

 私との大きな違い……ここが違うから、過ちを犯してしまうのか。

 人は……愛があるから幸せになれる。

 ちゃんと伝えなきゃ。愛とは何か、を。

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