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乙女なら、拳で語れ【完】  作者: あむあむ
第三章 少女は少女の真実を知る。
14/22

第十三話

 ○


 ────そして現在。


「やっぱり来たんだぁ?☆」


 真っ白なドーム状の空間の奥の奥。

 天真爛漫な笑顔を向け、明るい声色で話しかけてくる少女と私達は対面していた。

 頭にはカチューシャが着いており、おでこがよく見える……ッ!


「ラブちゃん……!」

「あれれ?? ハルちゃん? 君は私が天使の世界へ送ってあげた筈なんだけどなぁ?」

「へ、JKと添い遂げるまで死ぬわけにはいかないからね」

「あ、そ」


 興味無さそうに返されると腹立つな。

 もっと「すげー! ゾンビじゃん!」とか「こ……これが愛の力……!」ってな具合で驚いて欲しかったけど、やっぱり私の事は眼中に無し、か。

 まぁいい……今に見ていろ。君の視線を釘付けにしてやる。


「出来損ないも来たんだ?やっぱりバカだなぁ、私に敵うわけないのに」

「ハート……他のシリーズは、やはりまだ修復されていないようね」

「そーだよ! みんなまだ痛い痛いなの。けど、あなた達二人くらい完全に回復したハートちゃんの敵じゃ、ないんだよねぇ?☆」

「どうかな、やってみなきゃわからないでしょ?」

「あはは、遂に戦闘状況把握能力もバグっちゃったの? かわいそー」

「今回は私も全開……彼女を返してもらうわ」

「そう、そう……生意気ねッ。今日はちゃんと壊してあげる……ゴミは、ゴミ箱に」


 クロちゃんはラブちゃんの元へ一歩一歩進んでいく。右手が光り、刀が出現。

 それに合わせてラブちゃんも、カチューシャを輝かせた。

 光の粒子となったそれは、頭の上で円を描きドームの天井に張り付くと弾けるように広がった。

 これが……天輪の能力、敵の頭を読み取る彼女専用のフィールド『天使の舞踏会(エンジェル・ダンス)』。

 空間に入っている者の思考を全てラブちゃんに送る絶対有利領域だ。


「さぁ、はじめよっか。一輪奏も、お姉ちゃんも……貴女の大事な相棒も……私が奪ってあげる!」

「来いッ!! ハート!!」


 刀を上段に構えた瞬間、ラブちゃんの姿が見えなくなった。

 と、同時に激しい突風が私を襲った。


 ガキィィィンッ!!


 甲高い金属音がドーム内に反響し、耳を刺す。

 高速で突き出された拳を、刀で受け止めた音だった。

 ラブちゃんの拳には私から奪い取ったハチが装着されている。


「それ私の! 返して!」

「使いにくいアクセだなぁ?。どうして私には話しかけてくれないんだろ? ガオガオ」

「────ッ隙あり!!」


 私に意識が逸れた隙に拳を受け流すと、身を回転させ中段回し斬り。

 だが、「隙なーし!」の軽く返され深くしゃがみこむことで回避される。

 そして、カエルのようにぴょんと跳ねると真下から頭に向けアッパーを放った。


「か、はッ!!!」


 クロちゃんは顎にハチの拳を受け首から取れるのではと思うくらい勢いよく頭が跳ね上がった。

 少し右に避けていたのに、追尾されている……完全に行動を読まれてしまっているのだ。


「まだまだだよぉ☆」

「ッ、くぁッ!」


 不規則に振り上げられる拳、拳、拳。

 一撃一撃がコンクリートを豆腐のように砕く程の威力がある。

 躱し、受け止めようとするが、その隙間を縫いパンチはクロちゃんの身体に直撃していく。

 一方的……これが天輪の力。


「さっきまでの威勢はどこいっちゃったのかなぁ? ね、ね、ね、今どんな気持ち?」

「ッ……がっ!? く、そがっ……!」

「悔しいでしょうねぇ? あはははは!」


 ボコボコ殴りながら、ラブちゃんは愉しそうに笑った。鮮血で染まっていくセーラー服。

 その姿は天使……というよりも悪魔だった。


「クロちゃん! やるよ!!」


 私は叫び彼女に合図した。無言で頷き、それに応える。今こそ秘策を実行する時。


「秘策? そんなものあるわけないじゃん!☆」


 これも読まれているのか。だが、好都合だ。

 ラブちゃんの意識は今、私に集中している。

 こんにちわ、今から貴女を倒す。覚悟しろ!

 ……喰らえぇッッ!!!


「どんな攻撃だって、されることがわかってれば対処でき────ッえ!?」


 初めて彼女の口から狼狽えた声が漏れた。

 まだまだまだぁ!!


「な、なに? なになになに?! な、ななななな!!」

「ッ……ハート?」

「ぅが、ガガガガがぁ!!!」


 ラブちゃんは腕を止め、その場に膝をつくと頭を抱え苦しみだす。

 私の思考はだだ漏れ。隠すつもりは一切ない。

 むしろ、こっちから流し込む勢いだ。

 オラッ! オラッ!! もっと飲み込めッ!


「晴海ちゃん……一体何をしているの?」


 すまん。返事ができるほど、余裕がないし、今はこっちに集中したいんだ。ッへへへ。


「ッ……ラブちゃん……綺麗な肌してるねぇ……もちもちでぷにぷにだぁ」

「ぐぁぁあああああ゛あ゛!! やめ、やめてぇ!!」

「おっぱいも可愛いね……興奮しちゃったよ。先っぽはどうなっているのかなぁ?」

「は、ひ、へ!? わ、わぁぁあ゛!!」

「WOW、木苺みたいだね。もしかして……もうひとつの方は……」

「下にぃ!? 手を伸ばすなぁ!! ぁ゛、抵抗しろよ私ィ!!」

「おっとっと、こっちは、小豆みたいだね。ふふふ、とってもエッチだよぉ」

「あがぁ! 違う、違う違う違うぅ!!」


 ふふふ……いいぞぉ。やはりJKのソックリさん。ピンクは淫乱と相場が決まっているのだ。

 捗る……とても、捗る……うッ。


「じゃあ……始めようか。えっちっちタイム」

「ぐッ……ぬ、ぁ!? 嫌だ、嫌だァ!!」

「……なるほど、なんて奇策を考えつくんだろうか……この子は」


 遂には地面に身体を転がし悶え始めるラブちゃん。そんなに拒否しなくてもいいのに……。

 まぁ、何はともあれ作戦は成功だ。

 頭の中を読まれてしまうのであれば、私の妄想を流し込んでしまえばいい。

 彼女は処女、このセクシーな映像に耐えれるわけがないのだ。


「濡れてるね……興奮しちゃった?」

「してなぁぁぁい゛!」


 否定を叫ぶが、頭の中のラブちゃんは憂いのある表情で私を求めてきている。

 こうなると、もう暴走列車は止まらない。


「ベロチューが好きなのかい? しょうがない子だにゃぁ……」

「ふ、ぁ、寄るな!! 寄るな寄るなぁ!!」


 行為もクライマックスに近づいていく。後は抱き合いながら幸せなキスをしてエンド。

 ────と、ここまで来て天井に散らばった10のアクセがラブちゃんの頭に戻り始めた。

 思考を読み取ることを止めたのだ。

 この一瞬が最大の好機。

 天輪が解除される寸でのところ、私は思考を切り替え一言、心の中で叫んだ。

 ────ハチ、ハウス!!!!


「応ッ!!」


 天輪は若干の粒子を残し、彼女の頭へと戻った。残留したそれは、まるでイルミネーションのようにドーム内を煌びやかに照らす。

 久しぶりに聞いた彼の声……妄想を終えた私は瞳を開き、自分の両腕に視線を落とす。


「相変わらず、ご主人のソウゾウ力は脂っこいな。胃に穴が空いちまうかと思ったぜ」

「おかえり、ハチ。浮気は楽しんだかい?」

「あぁ、ネズミの気分を堪能した。窮屈だった……やっぱ、お前の中は広くていい」

「なにそれ、下ネタ?」

「ブレないねえ……」


 私の相棒なら、弱ったところで呼べば自ら主人の元へ帰ってくると信じていた。

 両腕にまとわりつく金属の感触、全身の血が沸騰し暴れ回る感覚は安心するな。


「ご主人こそ、浮気しているじゃないか。なんだぁ? この張り裂けそうなエネルギーは」

「それが一回死んじゃってねー、今はQのアクセで生きてるんだー」

「HAHA、おもしれぇ。そんな無茶ができるのは、世界ひろしといえど、ご主人だけだよ」

「でしょー? もっと褒めろ褒めろぉ……って、再開を喜んでいたいけど」

「今はそれどころじゃないな」


 天輪を解除したラブちゃんは素早く立ち上がると、一旦私達から距離を取り恨めしそうな顔で睨みつけてきた。こぇぇ……。


「く……おま、お前……よくも私を穢してくれたなぁ!!」

「妄想するのは乙女の特権でしょ! 他人に怒られる筋合いはないね!」

「……ぅ! これで終わったと思うなよ……!」


 口調が一変し、子供っぽい印象からJKハードボイルドモードに近い雰囲気に変わった。

 ここに来るまでの道中、QAが言っていたことが起こりそうだ。


 唯一愛した女性達は人間と違いアクセの力を補助の役割ではなく、身体の中へ直接呑み込むことができる。故にアハト・レクスのような身体能力強化が無くとも、アクセを身につければつけるだけ基礎能力が上昇すると。

 JKのハードボイルドモードとは、この状態の事を言うらしい。

 人外の力……だが、それを使う為には代償を支払わなければならないのだ。

 その代償とは、使用するアクセに必要なソウゾウ力を捨てなければならないというもの。

 つまり……


「何もかも奪ってやる……お前らの全てを、命も……ガガガガッ!!」


 彼女の足についていたアンクレットが黒く輝いた。光の波を作り出し、全身を包み込む。

 卵のような形状になったかと思うと、中心から尖った指が突き出てきた。

 内部から引き裂くように殻を破き、姿を見せたラブちゃんは先とは全くの別人になってしまっていた。


「ガァ……奪ウ……キサマラノ、全テヲ」


 腕も地面につき、四足歩行の体勢。背骨を通る剥き出しの排出口から溢れ出る黒い粒子は尻尾のようにお尻から伸びていた。

 狐のように鼻が尖ったヘルメット。そこから後に向けて二本の耳が伸びていた。

 それぞれの指には金属質な爪が装着され、引っかかれると痛そうだ。


「ありゃあ……ハイエナだな」


 ハチは彼女の事をそう呼んだ。なるほど、ラブちゃんワンワンモードか。


「だったらこっちも、ドラドラモードになるしかないね」

「……? ご主人、ドラドラモードとは?」

「一回なったじゃん! あれ、もっかい!」

「……了解」


 ハチはガントレットから鎧の形状に変化。

 私の身体に粒子がまとわりつき、ガチっと固まった。Qの影響か、前回とは違い銀色をベースに赤いラインが加わったデザインをしている。

 なんか……パワーアップした感がある!


(一応言っておくが、Qが邪魔で上手く力が発揮できてねぇ。これは劣化版だ)

「えぇー共存してよー」

(馬鹿を言うな。花火にでもなりてぇのか?)

「なんで」

(シリーズでも一つが限界の状態をお前は使っているんだぞ? 俺様がQのエネルギーを操作して抑えてなけりゃ、今頃相対する力の反発によって身体の中からボンっだ)

「こぇー……じゃあ劣化版で頑張るわ」

(おぅ)


 しゃーない。花火になるのは嫌だし、これで我慢しよう。


「ここからは小細工無し。心と心のぶつかり合いだ」


 私はラブちゃんを真っ直ぐ見つめ、歩みを進めた。彼女と決着をつけるために。

 だが、覚悟とは裏腹にクロちゃんが私の前に立ち背中を向けたまま左腕を伸ばし言った。


「晴海ちゃん、天輪を破ってくれてありがとう。だから……後は私に任せてくれない?」

「え……? でも、クロちゃん……」

「大丈夫、まだ身体は動くし、ソウゾウ力も沢山残ってる」

「だ、だったら二人で!」

「いえ、目的はあくまでJKの奪還。こんなところで時間を食っている暇はないわ……こんなこと言っちゃったら、苦しんでいる時にトドメを刺せよ! って思うだろうけど」


 クロちゃんは少しだけ顔を向け笑った。

 彼女は現実主義者、もうハートは敵じゃないと油断してトドメを刺さなかったわけではないだろう。


「……何か、やりたいことがあるんだね? クロちゃん」

「ごめんね。ワガママで」

「いいよ、私も超絶自己中だから。けど、どうして一人で戦おうとしてるのか、理由だけ教えてくれる?」


 小さく頷くと刀を中段に構え、刃先を漆黒の獣に向ける。


「私はずっと出来損ない、粗悪品だと思ってた。けど、貴女はそれを否定し、更には自分よりも強大な敵を打ち破った」

「これからが本番みたいだけど……」

「いいえ、それだけでも充分な勇気をもらったわ。私も……もう自分の事を出来損ないなんて思いたくない。だから、その為に正々堂々ハートを……自分より優秀な姉を倒す必要がある」

「クロちゃん……」

「一輪奏の使い手として、過去はこの刀で断つ。もう昔な私じゃない……晴海ちゃんと出会って変わる決意ができた。だから、一体一で戦わせて」

「……勝てるの?」

「勝つ。それだけよ」


 即答で返ってくる熱を帯びた声。わからないと答えれば、一緒に戦おうと思ってた。

 けど、これだけの決意と自信を見せつけられては邪魔をするわけにはいかないな。


「わかった。また奥で合流しよう。クロちゃん……信じてるよ」

「任せて、義妹」


 ────ぅえ!?


「い、いまなんて!?」

「ほら、さっさと行きなさい! 来るわよ!!」

「なッ、うぉぉぉ!」

「全部ヨコセェェェッ!!!!!」


 正面を向くとキラっと光る爪先が目の前まで迫っていた。刹那、クロちゃんが刀で受け止める。

 私は天井ギリギリまで飛び上がると、背中についている翼を全開に広げた。


「今だ! 行って!!」

「……絶対、絶対追いついてよね! 義姉ちゃん!!」

「ッ……聞こえてるじゃないか」

「イカセルカァァァ!!!」


 ラブちゃんは深くしゃがむと一気に跳ね上がり私の元へ急速接近。が、それをクロちゃんは刀の峰で打ち落とした。

 地面にぶつかり床が砕け土煙が舞う。


「ハートお姉ちゃん、悪いけど私の卒業式に付き合ってもらうよ」

「コノ……デキソコナイガァァァ゛!!」

「私は私だ! クローバーって名前が、あるッ!!」


 煙の中、激しく衝突する二人。


(ご主人)

「……わかってる。全速力だ、気合いマックスでゴーッ!!」

(了解ッ!!)


 私達は流星が如き速度でラブちゃんの後にあった狭い通路へ突入した。

 背中に感じる音、衝撃が徐々に小さくなっていく。

 クロちゃんは絶対に勝つ。心の中で何度も呟きながら、私は更にスピードを上げた。


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