第十二話
お母さんは口癖のように言っていた。
「命短し恋せよ美少女」
この言葉は、ひいお婆ちゃんから大体受け継がれてきた言葉らしい。
小さな私はお母さんに聞いた。
「私、女の子の方が好きなの! それも恋なのかな? それとも……変なのかな」
懐かしい記憶。
この時は、私の将来の伴侶が機械によって決められ大泣きした日だったな。
自分の存在を否定されたような気がして。
自分が桜家の人間には相応しくないような気がして。
不安で不安で聞いたのだ。
「ううん、変じゃないよ。けど、晴海の恋は難しいね」
頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「今の時代、中々本当に好きな人と恋をするのは難しいかもしれない……それでも、それでも晴海が、本当の恋をしたいなら────」
あの時聞いた言葉は、今はもう思い出せない。
だけど、その一言が私に勇気をくれたんだ。
絶対に、何があろうと、自分の嫁は自分で見つけると決めたんだ。
「お母さん、私……この街を出ようと思うの」
旅立ちを決めた時、笑顔で見送ってくれた。
私の旅立ちを許してくれた。
「絶対に嫁さん捕まえるまで、帰ってくるんじゃないよ」
背中を押してくれた。
だから……諦める訳にはいかないんだ。
例えこの身が朽ちようと、私はJKと────結婚するんだ!!!
○
「────ッぁ!! ぐッ……」
夢から覚め、状態を起き上がらせると胸に激痛が走る。
「ぁ、れ……ここは?」
気が付くと、クローバー柄の白いパジャマに着替えさせられベッドに寝かされていた。
ランタンの灯りだけが周囲を照らす薄暗くて小さな部屋。
私達の愛の巣じゃない……一体ここはどこだ?
「……そういえば、私……」
意識が途切れる前の事を思い出し、咄嗟に胸に手を当てる。
すると、そこは綺麗な空洞になっていた。
「────ぅぇ?」
流石の私も困惑する。いや、するだろ普通。
え、死んでんじゃん。むしろどうやって喋れてんの?
あれは夢では無く、私は確かにピンクJKのパンチでハートを射抜かれた(比喩ではない)。
そしてここには空洞が……って、ん、なんだこれ。
「気が付いたか?」
唐突に部屋の扉が開き、女の子の声が聞こえる。
「ッ!? だ、だれ!?」
「私よ、私」
「じぇ……きゅ、QAちゃん!?」
「悪かったわね。愛しの恋人じゃなくて」
彼女は溜息を吐くと、ベッドの横に置いてある椅子に腰掛けた。
そして私にお盆を差し出してくる。
「これ、病み上がりだと思うけど、ちゃんと食べておきなさい。でないと、熱量足んなくて本当に死んじゃうから」
「あ、ありがとう……」
タマゴ粥に、ウサギさんの形に切ったリンゴ。
よくわからないまま受け取り、膝の上に盆を置いた。
今、小さな声で「よかった」と聞こえた気がする。
「もしかして……助けてくれた?」
私の質問に、QAは下を向き沈黙する。だが、それこそが答え。
目の前のリンゴより真っ赤になった美少女が、そこにはいた。
「QAちゃんって、実はいい人だよね」
「ばッ、違うわよ。借りを……返しただけ」
「へへ……その照れた顔、可愛いゼェ」
「……貴方、自分が一度死んでるって自覚あるの?」
「あんまりないかな! 今生きてるし!」
「三日三晩眠りっぱなしだったのよ……」
「え、そんなに!? J、JKを取り返しに行かなきゃ!!」
ハートと名乗る彼女は言っていた。JKの記憶をリセットすると。
アクセなんてヘンテコ武器があるくらいだ。人の記憶を消すことくらい、簡単にできるだろう。
私は、慌ててベッドから飛び起きようとした。だが……。
「ぐ、いたぁぁぁぁぁぁあい!!」
少しでも動こうとすると、胸の空洞が酷く痛む。
そして、体温が一気に下がる感覚に襲われた。
これは……アクセを使っている時と同じだ。
「馬鹿ね。貴方の生命を維持しているのは、私のアクセによるものよ」
「イタタ……QAのアクセ?」
「もう一度胸をよく見てみなさい」
パジャマのボタンを外し、違和感を感じた部分をしっかりと確認する。
血は出てない。何本もの紫色の糸が、綺麗に塞いでいた。
そして、その中心にはブローチが埋め込まれている。
「これって……スイート・クイーン……だっけ?」
「よく知ってるわね。そう、Qのアクセよ」
「でも、どうしてQで私の体が治ってるの? これって、洗脳する力だと思ってたけど……」
「ちょっと違うわね。Qの力は『止める力』よ」
「止める……?」
「『思考』『感覚』、流石に時間は止められないけど、そう言った身体的な行動を止める事ができるの。貴方を誘惑していた時は『思考』を、JKと戦っていた時は自分の限界を超える為『感覚』……痛覚を止めていたわ」
なるほど。あの「ふわ」っとした感覚は、止められていたからだったのか。
止める力……って事は。
「つまり今……死を止めてるって事?」
「その通り。と、言いたいところだけど、実は私にもよくわからないの」
「え?」
「『死を止める』なんて、そんな事……できないと思ってたから。これは私の力じゃない、貴方が自分でQを使って死を止めているのよ」
「ななななんと!?」
無意識の内にQを発動して、死なないようにしていたのか!
「つまり私は天才ってことだね!!」
「……そういう事。私にも……いえ、私達『唯一愛した女性達にもできないことよ」
「唯一愛した女性達……?」
初めて聞く言葉だった。
私の問いかけに、彼女は神妙な面持ちで頷くと逆に質問を返してくる。
「晴海ちゃん……多分、いや絶対に……JKを助けに行くつもりでしょ?」
「当然だよ。だって、彼女は私の嫁なんだから」
「……その前に話を聞いてくれる? 私達の昔話を」
真剣な眼差し。睨みに近いものだった。
それを聞いてもなお、進む気があるか? と、問い掛けてくるように。
私はその瞳に同様の瞳で返し言った。
「わかった。でも、私の心は変わらないと思うよ」
「言うと思った。けれど、貴女が思っている以上に私達の運命は壮絶なのよ」
「なら余計に助けに行かないと。JKと私は運命共同体なんだから!」
「……春海ちゃん、JKとは一緒になれないのよ。だって……彼女は人間じゃないのだから」
「────えっ!?」
人間じゃない……? あんなに可愛いのに?
私の疑問を他所に、QAちゃんは話を続けていく。要約するとこうだ。
さっき、彼女が言った『唯一愛した女性達』は昔、世界を二分断した戦争『WGW』の人造兵士なのだという。
初号機としてJKが作られ、そこから分岐するように4体の同型機が作られた。
それがQAちゃん、ラブちゃん、後は青と黄色のJKがいるらしい。
WGWにより、JKは記憶メモリが破損し後継機は全て大破。その中で唯一バグにより後方待機していたQAちゃんだけが生き残った。
この戦いは未だ決着がついておらず、ラブちゃんを修復させた唯一愛した女性達の創造主は再度戦争をしかける為、JKを回収。
準備が整い次第ジャンクキングダムはユートピアに対し、総力戦をしかけるそうだ。
「────で、私達用に作られた武器がアクセ・アーマーって訳。理解した?」
「……うん」
前置き通り、確かに壮絶なものだった。
戦争、兵器、総力戦……色々物騒な単語が飛び交った。大問題だ。
「その様子を見ると流石の晴海ちゃんでも驚いたようね」
「人造人間……ってことだよね……?」
「まぁ、言い方を変えればそうなるわ。この通り、殆ど人と変わらないのだけど」
「ぐッ……ぐぐぐッ……」
「諦めがついた? 貴女のような普通の女の子が出てくる場じゃないのよ」
「ひとつ……一つだけ聞きたいんだけどさ……」
「何? 今なら意地悪せず、何でも答えてあげるわよ?」
「せ……」
「せ?」
「セックスはできるんですか?」
「────は?」
「セックスは? ねぇ、SEX! エッチ!!」
「ぬ、わぁ!? ちょ、ちょっと!」
一番の問題はそこだ。セックスが出来なくても、私の愛は変わらないが……したいものはしたいのだよ!!!
「QAも同じなんだよね!? なら!」
「や、やめ、押し倒すなぁ このッ……力で勝てない?!」
「肌はモチモチのすべすべだァァ! は、へ、ふひひ」
「そんな……私達より力の強い人間なんて……まさか、体内のアクセが呼応して……あ!? や、服ぅ! 服を脱がすなぁぁ!」
「これはJKを知る為の行為……不可抗力……浮気じゃない……」
「自己肯定で罪悪感を消すんじゃなぃい! いやぁぁあ!!」
私は彼女の全てを見た。こんがりと焼けた肌はとてもジューシィーで美味だ。
恥じらう顔も劣情を掻き立て、やめろと言われれば言われるほどしたくなる。
「はぁ……はぁ……」
「……ぅぅ……これで、満足……?」
「もっと進んじゃうと……多分、自制できなくなるから」
「出来てないって……自制」
「けど、わかったよ……私達はエッチできるって!!!」
拳を握りガッツポーズ。大丈夫、QAがこんなにもエッチッチなら、JKもエッチッチ。
「これでなにも問題なっしぃんぐ! JK救出にレッツラゴーぉ!」
「バカッ!」
飛び上がろうとする私のコメカミに鉄拳が降り注ぐ。
「いてッ!? QAちゃん、もーいいでしょ!? 話お終い!」
「貴女ね……ちゃんと話きいてた?」
「もちろん。けど、問題なかったじゃん」
「人が造った『物』なのよ!? そこに対してセックス以外は問題にならないの!?」
「ならないね。私はJKが好き。お姉ちゃんを戦争に行かせないよう、命懸けで戦ったQAちゃんも好き」
「……私は……」
QAちゃんから過去を知り、彼女が優しい女の子だと理解していた。
「人造人間だろうが改造人間だろうが、この感情は変わらないの」
「……それでも晴海ちゃん。貴女を止めることは辞めないわ……JKを取り返すことは不可能だもの」
「どうして? やってみなきゃわかんないじゃん! 私達、二人が力を合わせれば──」
「無理よ」
言葉を遮るようにQAちゃんは言った。
「JKが連れされた場所は零地点……ジャンクキングダムの中心で、私達が造られた場所」
「そこまで分かってるなら……」
「内部構造は知っているし、迷うことはないでしょう。けれど、彼女が囚われている最深部に行くためには……必ず一つの部屋を通らないといけないの」
「……つまり、そこで待ち受けてるってわけか。ラブちゃんが」
質問に対し無言で頷き応える。
QAちゃんは「ハートを倒すことは不可能だ」と言いたいのだろう。
「二体一でも無理なの?」
「ハートは私のような『出来損ない』とは違う。性能も、アクセの着こなしも遥かに上」
出来損ない。ハードボイルドJKがQAちゃんをそう呼んでいた。
そして、彼女自身も自分にはバグがあった、と言っている。
けど────
「ハートのアクセは二つある。一つは10のアクセ『天輪』……半径50メートルの生物の心を読む力。そしてもう一つが4のアクセ『フォースバック』。触れた物を奪う力よ」
「ハチはそれで向こうに行っちゃったのか……」
「対策はハートの思考が追いつかない猛攻。二体一作戦は理にかなっていると言えるわ」
「なら!」
「しかし、片方はアクセも何もないただの女の子。実質一体一……出来損ないの私では、例え死のうと敵わないわ」
「QAちゃん!!!」
私は彼女の両肩をガシッと掴んだ。そして、そのまま身体を引き寄せる。
一つ、許せないことがあるから。
「!? な、なに!? 状況を冷静に分析しただけよ!? 貴女が戦力外なのは本当のこ──」
「自分で自分の事を出来損ないなんて言うなよ!」
「……え?」
「QAちゃんは出来損ないなんかじゃない! 私の命を助けてくれたし、JKを必死に守ろうとしてくれた……そんな女の子が出来損ないな訳、ない!!」
「けれど私は……兵器として未完成で……」
「美少女として完成してる! もし、変なとこがあるなら……それは『天然ちゃん』か『ドジっ娘』って言うんだよ! だから、QAちゃん……自分で自分を否定しないで」
「……」
「わかった!?」
「…………はい」
彼女は俯くと小さな声で返事をした。
こんなにも美少女なのだ。ちょっと失敗しても「やっちゃった、てへぺろ」で許される。
だからQAちゃんには、自分を認め、自分を好きになって欲しい。
卑屈な美少女より、元気な美少女の方が私は好きだから。
「よぉし!! なら行くぞぉ!!」
私はそのまま気合を入れて立ち上がる。
「ぇ!? は、晴海ちゃん!? 話聞いてた? 貴女、ハートに1回殺されてるのよ!?」
「アクセの正体がわかったなら秘策はある!」
「……秘策?」
「QAちゃん、一緒にJKを救おうよ! そーいう細かい話は抜きにして、愛する人を幸せにするために!」
ポカンと口を開き唖然とする彼女に、私は右手を差し伸べる。
一度、躊躇いを見せた後「はぁ」と溜息を吐いた。
「ホント、貴女って……馬鹿なのね」
「素直だって言って欲しいね!」
「……わかったわ。私ももうちょっとだけ『馬鹿』になってみようと思う」
そう言って、右手に左手を重ねてくれたのだ。
「もう、QAと名乗るのは辞めるわ。Qは貴女にあげちゃったしね」
「じゃあなんて呼べばいい?」
「私の真名は『クローバー・サイ・ロード』。好きなように呼ぶといいわ」
「ならクロちゃんだ」
「センスの欠片もないわね」
「えへへ……よく言われる。じゃあ改めて、クロちゃん!」
「うん、晴海ちゃん。JKを、いや……お姉ちゃんを」
「救いだそう!」
こうして、私たちはJKを救出するために零地点へと向かったのだ。




