第十一話
「ハチ!! 今からやること、絶対JKには黙っといて!」
(……? あ、あぁ……口は軽い方だが、セメントで固めておこう)
「頼む! QA、こっちを向けぇ!!」
「ギ……ガッつ!?」
「うぉらぁぁぁぁぁぁああ!! は、んッ……」
「ウゴッ……んッ!?」
私は、彼女の柔らかいほっぺたを両手で掴むと、カサカサで割れた唇に自身の唇を重ね合わせた。
今にも沸騰しそうな程、熱く燃えるQAの唇。
元の姿に戻ってほしいという願いを込めて、必死に必死に押しつけた。
おまけに舌を入れた。実はJKの時も舌を入れていたのだ。
必要な事だから……必要なんだ。ん……甘い。
「ふが……ん、んん……ぁ、ぁぁ」
「じゅりゅ! じゅりゅりゅりゅりゅる!!」
「ぁ、んんんん!! ちょ、ま、んん゛!!」
(……ご主人、ご主人……ご主人!!!!!!)
「────ッは!?」
ハチに呼ばれ、ハッと顔を離すと、そこには顔を真っ赤にさせたQAの姿があった。
この赤は死の赤ではなく、恋の赤だ。髪の毛も白くなってる。
私の抜群のテクニックがショック療法となり、彼女を戻したのだ。
しかし……へ、へへ、こんな顔をされちゃあ、これで止めるわけにはいかないな。
破れたセーラー服と妖淫な表情は、劣情を掻き立てる。
ゆっくりと、嬲るように右腕をお腹へとすべらせていった。
「やめて……ください」
「抵抗できないでしょ。ふひひ……晴海ちゃんのテクニック、真骨頂はこれからだ、ぜ」
「い、いや……いやぁぁぁ!!」
「ひゃっはぁぁあ!!」
(ご主人、お楽しみのところ悪いが……限界だ)
「へ? あ、ちょ、ハチぃ!? な……身体から力が抜け……」
一気に力が抜け、そのまま彼女の隣に仰向けで倒れこんでしまった。
体を拘束していたハチは、ブレスレットの形になり手首に巻きつく。
あぁ、そうか……熱の限界値か。いいところで。
もう少し余裕があった筈なんだけど……やっぱり出血が痛かったな。大分もってかれちゃった。
しかし、目的は果たした……ここまで来たら、最後まで行きたかったけどね。
「……貴女、どうして……?」
耳元でQAが囁きかける。
てっきりこのままボコボコにされるかと思ったが。ま、満身創痍だもんな。お互いに。
「私はJKの願いを止める敵の筈でしょ?」
「そーだね」
「それに……殺そうとまでしていた。最も邪魔な存在の筈」
「そーだね」
「……わからない。わからないわ……矛盾している。貴女の行動原理」
「そーだね」
「善行のつもり?」
「違うよ」
「……じゃあ……何? 一体貴女は何がしたいの……?」
何がしたいか、か。そんな事決まっている。
JKの願いを叶えたいだけだ。
けど、それよりも大事な事がある。
自分の信念を曲げて私と彼女の願いを叶えたところで幸せにはなれないからね。
だから、答えは一つ。
「美少女の命を消すことは、神が許しても私が許さない。例え、この身が滅びようとも、ね」
「……はぁ」
深い、深いため息が返ってくる。
だけど、その声には……初めて本当の笑いが込められていた。
ふふ、と押し殺したような声。
あ、かわいい。素直にそう思った。
「……バカなのね。貴女」
「素直で正直で欲望に忠実なだけさ」
「でもね、お譲ちゃん……いや、晴海ちゃん」
「? 何、QAちゃん?」
「客観的に見て、貴女も美少女よ。だから、意思を貫くなら自分も大切にしなくちゃね」
「────ッ……」
なんか、なんかなんか! 照れちゃう、私!!
「ふふ、可愛い顔……さて、と」
「え? ちょっと、QAちゃん!?」
彼女はそういうと、震える脚を抑え込みヨロヨロと立ち上がった。
「ま、待ってよ!」
「安心して。どこにも行かないわ。どうやら、ちゃんと話合わないと……私の願いは叶えられないみたいだから。でも、その前にまずはJKを止めないと、ね」
そうだった。空の彼方へ投げ飛ばしたけど、JKはまだ健在だ。
「そろそろ戻ってくる頃でしょ? なんとかしてあげる」
「わ、私も……ッ!!」
「この私をここまで追い詰めた後だもの、限界でしょう」
「それはQAちゃんも同じでしょ!」
「Qの能力を正気に戻った瞬間、回復に回したわ。だから、もう少しだけなら動けるの。JKも……これだけ長時間、半覚醒状態になっているなら大分消耗しているはず。今の私でも、眠らせることぐらいならできるわよ」
「半覚醒……?」
「後でゆっくり教えてあげるわ。ほら、来たわよ」
QAが指を刺した先の空がピカッと光った。
そして、10数メートル先へ彗星が如く落下し土煙りを上げ地響きを鳴らす。
「うぉ!?」
「さっさと終わらせて、女子会でも始めましょうか」
立ち上る煙に向かい刃先を向け、上段で構えるとグッと腰を落とした。
目の元が引き締まり戦闘体勢に入ったことを知らせる。
一方で、私は指先1つ動かせないまま、その光景を眺めていることしかできなかった。
糸が張ったような、緊迫の時間が流れていく。
ゆっくりと煙は風に流され、JKの姿をあらわにしてい……あれ?
「ねぇ……QAちゃん。あの人……」
違う。降りてきたのはJKじゃない。
隙間から見えるショッキングピンクの長い髪。
服装は……二人と同じセーラー服。いや、もっと丈が短い。
それに、この角度からだと晴海アイでハッキリ見える。
ピンクの紐パン……く、なんてエッチな奴だ。
一体どんな顔してやがる。美少女なら私が喰っちまいたいくらい……だ?
「……な、なんで……この人は……なんで?」
完全に煙が無くなり、彼女の全体像が鮮明に見えた時、私の頭はパニックになった。
意味がわからない。だって、流石にこんな……。
こんな事があるなんて、ありえない。
JKと……JKと同じ顔の美少女がもう一人いるなんて。
「────ッ!! 晴海ちゃん!!」
「え、ちょわ、んんーーー!!」
QAがピンク色のJKを見た瞬間、熱い口付けを交してきた。
「ん、あっ! QAちゃん……大胆……」
私がふざけて返すと、鬼のような形相で睨まれた。……いや、これは……怯えている?
「晴海ちゃん、今Qの力で貴女の回復速度を上昇させたわ。これで逃げれるところまで逃げて!!」
「……え?」
「いいから!! 早くして!!」
気が付くと彼女の武器、一燐奏は指輪の形へと戻ってしまっている。
つまり、私を回復させることに熱量を使い切ってしまったのだ。
全身を震わせ、無防備な状態でピンクJKを睨みつける白JK。
なんだ、今何が起こっているんだ!?
「どうして!?」
「私は貴女を殺したくは無い!! けど、こいつ相手だと守ってあげれな────」
「えーひどーい! お姉ちゃんに向かってコイツは酷いよ、ねッ!!」
「ッ!? ぐはッッ!?」
ピンクのJKは、QAの言葉を遮ると急速接近し拳を腹部にめり込ませた。
その一撃は空気を揺らすほど強力で、少女の身体はくの字に折れ曲がる。
更に口からは大量の血が吐き出され、ピンクの髪を紅く染めた。
「…………」
「QAちゃん!」
あっという間の出来事……隙間から見える彼女の瞳は、笑っていた。
白い髪の毛を掴み、だらっと腕を下ろすQAを倒れないようにしている。
やばい、こいつはやばい奴だ。
子供のような声色が、逆に恐怖を掻き立てる。
QAは逃げろと言っていた……けど、こんな状況でおめおめと逃げれるわけない。
「てめぇ!! よくも私のQAをッ!!」
熱は彼女が与えてくれた。
脇腹もかなり回復している。
心の中でハチを呼び、再びドラゴンの鎧を纏うと右拳を強く握り締め、ピンクのJKに突貫していった。
全力の右ストレート。渾身の一撃。
パシィン!
だが、それはあっさりと左手で受け止められてしまう。
「な、なにぃ!?」
「あれ、あれれれれ? どーしてただの人間が、act2になれてるのかなー?」
「act2……また意味のわからない単語を。とにかく、QAを離せッ!」
「QA? あぁ、この子のことか。だーめ。悪い子にはお仕置きしないと……ま、出来損ないに何を言っても無駄だと思うけどね☆」
「彼女の事を出来損ないって呼ぶんじゃない!」
「おっと」
受け止められた手を逆に掴み引き寄せ、中段に右蹴りを放つも半身になり躱される。
一見、アクセは何もつけていないように見えるが、圧倒的な力量の差を感じた。
だが、引く訳にはいかない。
「く、オラァ!!」
「あはは、楽しいね。もっと一緒に踊りたいな」
「な……遊びじゃないんだよ!」
無邪気に笑いながら、けれど確実に最小限の動きで私の攻撃を躱していく。
その間もずっと右手にはQAを掴んだまま。
意識のない彼女は、遠心力でブラブラと揺れるキーホルダーのようになっていた。
そんな乱暴に扱ったら、毛根傷んじゃうでしょうが!
「や、め、ろぉ!」
「やーだよぉ! ねぇ、こんな粗悪品のどこがいいの? 私の方が綺麗でカッコよくて強いのに」
ちぃ……確かにこの女の子もめっちゃかわいい。
というか、髪の色と言葉遣い以外はJKとほぼ同じだから、QA以上とも言える。
けど、美少女十色。
「みんな違ってぇ! みんないい!!」
「あははは、意味わかんない。人間ってこんなにおバカなんだぁー」
「私には桜 晴海っていう名前がある! ハルちゃんだ」
「へぇ……ハルちゃん。私の名前はハート・ラブ・リリス。ラブちゃんって呼んでね」
「夜露死苦ッ!!」
「おっとっと」
振り向きざまに放った尻尾を振った攻撃も難なく躱されてしまう。
ッ……くそ、不意打ちでもダメなのか。
「ハチ! どうしたらいいと思う!?」
「? 誰とお喋り?」
「ハチ!!」
どうしたというのだ。
一向に返事が返ってくる気配が無い。
まさかまたソウゾウ力が不足している?
いや、それはない。
アクセの力は落ちている感じがしない。
そう思っていると、頭の中に小さな小さな声が聞こえた。
(……すまねぇご主人)
「ハチ、よかった!」
「ねーねー、ハチってだあれ?」
「私のアクセだよ! それより、どうしたらいいの!?」
「…………アクセとおしゃべり?」
(駄目だ……ブルっちまって……思考できねぇ……)
「ブル……らしくないじゃん!」
(俺様自身、こんな恐怖を感じたのは初めてだ……)
「ぬぅぅ……なら私だけで!!」
こんな弱々しい声を出す彼は初めてだ。
どうもラブちゃんには、なにかあるみたい。
……考えても仕方がない。
とにかく今は、この子を倒さないと。
「うぉ、らぁぁぁ!!」
「へーおしゃべり出来るアクセかぁ……」
いくら手を出そうと、どんなに速く攻撃を繰り出そうと、躱される。
なんでだ、なんでこんなに当たらないんだ。
「クッソォォオ!!」
「うん、オッケー。君はいらないや」
「!? ぇ!」
ラブちゃんの手が肩に触れる。その瞬間、私の鎧は強制的に解除され光の粒子となってしまう。
更に……私の手首に戻る筈のブレスレットは、何故か彼女の手首に巻かれていた。
「な、にぃ!? か、返せよ!」
「心は奪うものでしょ? それに、元はと言えば、これは私の……いや私たちの物だもん」
「そんなこと、知るかぁ!」
「……もー飽きちゃった。いーらない」
「──────ッ!!」
刹那、強烈な殺気が私を襲った。
背筋が凍るとか、そんなレベルじゃない。
自分の死が明確にイメージできたのだ。
そして次の瞬間────
パァンッ!!
鋭い破裂音が鳴り響く。
理解できなかった。
思考が三歩、四歩遅れてやってくる。
「は……きぃ……ぁ……」
あれ? 声が出ない。
おか、しぃ……ぞ。
な、にぃ……が、おこ……た?
「バイバイハルちゃん。また来世」
その言葉を聞き、理解し知覚した。
ラブちゃんの右拳が、私のお腹を突き抜けていたのだ。
骨や内蔵、全てを貫き。
ぽっかりと穴を開けているではないか。
これ……え、死ぬんじゃないの?
地面には尋常ではない量の紅……赤、あか。
痛みは無い……何も感じない。
「半覚醒とはいえ、この程度の女の子に投げ飛ばされるなんて、おねーちゃんはだいぶこわれちゃってるみたいだなぁ」
お姉ちゃん……JKのことか?
「JK……を……ど……した」
「あれれ? あはは、根性だけはあるんだね。JKって、お姉ちゃんの事かな? 勿論、私がもらっていくよ」
「な……」
「本来の目的はお姉ちゃんの救出だからね。ちゃんと直してあげないと」
「なお……す?」
「うん! 記憶も全部リセットして、1から作り直すの」
「そ……ん……な……」
作り直すって……リセットって……なんの話しをしてるんだ。
ッ……そんなことさせない。
JKは……連れていかせない……。
絶対に……やらせないんだから!!
「が……ぐはッ……ぐぎ!」
「おぉ、すごいすごい」
私は突き刺さった腕を、逃がさまいと必死に掴んだ。掴んだ。掴んだんだ。
けど、無駄だった。
「ごめーんねん!」
「はッ…………ぁ…………」
腕が引き抜かれると同時に、お腹から血が吹き出る。まるで血の噴水だ。
死ぬか……死ぬもんか……私は、JKと……添い遂げるんだ……絶対、絶対に……。
「あでぃおーす!」
「……J……K……」
しかし、願いが、信念が通じることなく。
視界は闇に染まっていった。
私は、死んでしまったのだ。




