13話 揺れる心ー柚side
今日は急用があるにも拘わらず、瑛太お兄ちゃんが予備校まで迎えに来てくれた。圭太とどういう顔をして接していいかわからなかった私としては、瑛太お兄ちゃんが車で迎えに来てくれて助かった。
瑛太お兄ちゃんは忙しく、また出かけるという。まだ出かけるまでに1時間ほど時間があるというので、エプロンをつけて、すぐに夕飯の用意をする。時間もないことだし、今日の夕飯はオムライスにした。
瑛太お兄ちゃんは少し顔を綻ばせて、オムライスを頬張ってくれる。瑛太お兄ちゃんはオムライスが好きなんだよね。少しでも喜んでもらえて嬉しい。
瑛太お兄ちゃんは食べ終わるとすぐに用事に出かけていった。私は夕飯の片づけをすませて、エプロンを台所の隅にかけて、台所でお湯を沸かせて、紅茶を淹れる。そして紅茶をもってリビングのソファに座った。
今日の出来事が走馬燈のようによみがえる。どこから考えたらいいのだろう。
私は誰に対してもツンツンした物言いをしてしまう。俊輔と夏希は理解してくれてる。けど、この性格が問題なんだよね。話していくうちに恥ずかしくなってツンツンと話すようになる。その態度が恥ずかしくて余計にツンツンしてしまう。そして照れてツンツンした話し方になる。まるで悪循環の中になっているみたい。
小さい頃から瑛太お兄ちゃんにも注意されているんだけど、人と話をすること自体、恥ずかしくてツンツンしてしまう。もっと自分が素直な性格だったら良かったのにと、いつも思うけど、直せない。だから諦めている。
だから、呼び出された圭太の知り合いのギャル2人も私のことを気にいらなかったんだろうなと思う。
最近では、俊輔と夏希が思っているように圭太と少しづつ仲良くなってきている。圭太も私の性格をわかってきてくれてる。そういう意味では圭太は貴重な友達。友達を失くすような悲しいことはしたくない。
それに圭太には救急車騒ぎの時にも助けてもらっているし、今も勉強でお世話になっている。感謝しても感謝しきれないくらい圭太を頼っている自分がいることを、自分でも理解している。本当に圭太、ありがとう。
今日の公園の一件で、圭太から「柚に惚れている」という言葉を聞いた。ただ言葉を聞いた時には、頭が回らなくて、理解が追い付かなかったけど、段々と意味がわかってきて、すごく恥ずかしくて、居たたまれなくて、どうしようかと思った。予備校を早退しようかと思ったけど、そんなことをすれば圭太は、絶対に自分のせいだと誤解する。だから予備校が終わるまで我慢した。すごく恥ずかしかった。何も考えられなかった。瑛太お兄ちゃんが車で迎えに来てくれた時は、本当に助かったと思った。さすがは瑛太お兄ちゃん、いつもありがとう。
圭太から申出はすごく嬉しいけど、今までの関係が崩れてしまうのが怖い。私の仲良い友達は俊輔と夏希だけ、だから圭太との仲を拗らせたくない。できるなら今の関係のまま徐々に仲良くなっていきたかった。俊輔と夏希が言うように私は照れ屋で、臆病だと思う。だから今の関係を壊したくない。
圭太と勉強している時は楽しい。圭太に教えてもらうと難しい問題も簡単な言葉で解説してくれて、要点もまとめて教えてくれる。そして私がわかるまで教えてくれる。私は元々、頭の良いほうじゃない。予備校の講義についていくのも、やっとの状態。圭太が居てくれてすごく助かっている。それは本当。いつも感謝している。
でも付き合う話とは別だと思う。そんなに簡単に私は付き合えない。もっとお互いの仲を温め合って、お付き合いをするなら、始めたいと思う。圭太には悪いけど、今の圭太とはお付き合いする気になれない。
俊輔と夏希は私がブラコンみたいなことを言ってるけど、私はブラコンじゃない。理想の男性像ぐらい持っている。優しくて大らかで、いつも少し頼りないんだけど、守る時は守ってくれて、私のことを助けてくれて、いつも見守っていてくれて、それでいていつも気軽にしてくれて、私を包み込んでくれるような人。
中学時代にも、高校時代にもそういう男子が現れなかったから、告白を断っていただけで、決してブラコンじゃない。いつか俊輔と夏希の誤解を解いておかないといけないと、今回は思った。
寒暖の激しい時間帯にはお風呂を避けるようにしている。私はソファから立ち上がって脱衣所へ行き、浴槽へお湯を張って、お風呂に入る準備をする。朝は寒暖の差が激しくてシャワーを浴びると危険だから。脱衣所で服を脱いで、浴室へ入って、いつもの手順で髪と体を洗って、湯に浸かる。湯冷めしないように、十分に湯に浸かる。
予備校の講義中にチラチラと私の横顔を、圭太がよく見ていたことも知っていたし、私の横顔をボーっと見ている時があったから、もしかすると圭太が私に気持ちをもっているのかなとは勘づいていた。でも知らないフリをしてきた。まさか今日みたいな形で、圭太の気持ちを知ることになるとは思わなかったから、今でも心臓がドキドキしている。
今までの形を壊したくなかった。それに私も色々と考えることがある。それに心の準備が全くできていない。だから、圭太との関係は現状維持のまま、仲良くしていこうと思う。
今日は咄嗟に圭太と指を繋いだけど、それは圭太が私と夏希を助けてくれたお礼だと思ってほしい。まだ圭太と付き合うと決まったわけじゃない。勘違いしないでほしいなと思う。
最近の私は、何かというと圭太を頭の中で思い浮かべる回数が多くなっていたような気がする。それだけ、圭太との距離が徐々に縮まってきている証だと自分で納得させていた。確かに私も圭太のことを気にしている。それは認めないといけない事実。だからこそ、余計に臆病になるし、慎重にもなる。
お風呂からあがって、脱衣所でパジャマに着替えて、髪の毛を完全に乾くまでブローする。喘息には風邪は天敵だ。風邪をひいたらたまらない。また皆を心配させることになる。それだけは避けないといけない。
自分の部屋へ入ると、薄暗闇の中でカーテンが開いていて、夜景がきれいだ。私はカーディガンを着て、少しだけベランダへ出る。夜景はまだポツポツと家々の明かりがついていて、街灯も明るくてきれい。少し肌寒いけど、少しの間なら大丈夫そう。
自分でも最近は圭太に心を開いてきていることを自覚している。あれだけ穏やかで優しいんだもん。誰だって心を開いてしまうと私は思う。圭太は自分の良さに気づいていない。最近は圭太のことをよく考えていたけど、今日は公園での告白もあって、圭太のことが頭から離れない。ずーっと圭太のことばかり考えてしまう。すごく恥ずかしい。顔が赤く染まるのがわかる。
今までのような気軽な関係で圭太とは傍にいたい。圭太と遊びたい。圭太に勉強を教わりたい。今思っている私の本音はこれだから。圭太の告白は聞かなかったフリをしてスルーしよう。考えただけで、恥ずかしくなっちゃうから。
ベランダがから自分の部屋へ戻って、窓に鍵を閉めて、カーテンを閉める。遮光カーテンだから、一気に部屋が暗くなる。私はカーデガンを椅子にかけて、自分のベッドに潜り込む。
あーん、圭太があんなことを言うから、頭の中から圭太が離れないよ。本当に圭太のバカ。凄く恥ずかしい。でもちょっぴり嬉しかったかも。自分で自分がよくわからなくなる。明日、予備校へ行って、どんな顔で圭太と会えばいいんだろう。なるべく普通にしていよう。
もう、恥ずかしくて眠れないじゃない。これも全部、圭太のせいだからね。




