12話 柚と初めての繋がり
予備校へ来ると俊輔が僕に駆け寄ってくる。俊輔には珍しく慌てている。いつも一緒の夏希の姿が見えない。
「さっき、お前の知り合いの2人が柚に声をかけて来てさ。柚を外へ呼び出して行ったから、夏希が柚のことを心配して、柚に一緒について行ったんだ。予備校の近くの公園にいるはずだ。俺はお前が来たら、一緒に公園に行こうと思って待っていたんだ。急いで公園に行ったほうがいい」
急いで俊輔と予備校近くの公園に行くと、4人の女子が2体2に分かれてにらみ合っているのが見える。
「これは言い争いになってるかもしれないな。圭太、早く行って仲裁したほうがいい」
俊輔の意見に僕も同意見だ。急いで4人の女子が話している場所へ駆けつける。柊梢と橘梓、夏希と柚が僕と俊輔に顔を向ける。
「これは何をしてるのかな?柚と夏希を呼び出して何を話していたのかな?」
柊梢は軽い感じで笑い、余裕の表情で立っている。
「あたし達、柏木と一緒に勉強したかっただけだし、このツンツン女のこと前から気に入らなかったし、ちょうどいい機会だから話をしておこうと思ってね」
は?そんなことのために、こんな寒い風が吹き抜ける場所に柚を連れてきたのか。柚のストレス性慢性喘息の発作が出てきたらどうするつもりだ。それに柚のことをツンツン女、前から気に入らなかったって何だ。お前達に柚の何がわかる。でも、どうして柚もこんな2人と一緒に公園まで来てるんだよ。少しは自分の体のことを考えてくれ。心配で仕方がなくなるよ。
「柏木は私達と遊んだほうが絶対に面白いはずだし、それをツンツン女に伝えていただけ」
橘梓も余裕の表情でヘラヘラと笑っている。柚が2人に反論する。
「別に圭太が誰と勉強しても、遊びに行ってもいいわよ。私には関係ないもの。でもね、私もあんた達みたいなギャルが嫌いなの。いつもヘラヘラしてみっともない。あんた達にツンツン女なんて言われる筋合はないわ」
夏希も負けていない。
「いつもキャッキャとはしゃぐばかりで、男子に色目を使うしか興味がない女子に、圭太がなびくわけないでしょ。今でも圭太に相手にされていないじゃない。圭太抜きで、私達に言ってくるのがそもそもおかしいのよ。頭、悪いの?」
うかつにも僕が柊と橘に1回でも勉強を教えたのが悪かったんだ。あの時、きっぱりと断っておけばよかった。これは僕のミスだ。僕が責任を取らないといけない。それに柚を侮辱されて黙っているわけにはいかない。怒りの感情が心の奥から湧き上がってくるのがわかる。
柊と橘を見る。すると柊と橘は僕が振り向いたことで喜んでいる。勘違いもいいところだ。
「柊と橘に言っておくけど、前にも言ったけど、君達と遊ぶつもりは一切ない。それに柚と夏希を連れ出すなんて、お前達バカか。もう2人の勉強も一切教えることはないから。それに謝れ。柚のことをツンツン女って言ったことを謝れ。柚は確かに気の強いところもあるけど、本当は優しくて、照れ屋で、恥ずかしがり屋で、寂しがり屋で、臆病で、お前達よりも何千倍も魅力的な女の子だ。今すぐ柚に謝れ」
柊と橘は顔を引きつらせているけど、まだヘラヘラしたポーズを崩さない。
「なんだ、柏木はツンツン女に惚れてんのか?このツンツン女のどこが私達と違うっていうのさ」
「全然、違うだろう。柚は真面目に予備校で勉強もして、家に帰ってからも勉強しているんだぞ。本気で来年の大学受験を目指してる。お前達みたいにお遊び半分で予備校に来ているわけじゃない。それに僕は柚に惚れてることは認めるよ。これで文句ないだろう。惚れてる女を侮辱されたら、男なら怒って当たり前だよな。2度とお前達とは口を聞かない」
相当に僕も頭にきていたから、自分で何を言ったのか、はっきりと覚えていないけど、そんなことは後回しだ。
「柚はな、体に持病を抱えんてるんだよ。お前達みたいに健康だけが取り柄の女子とは違うんだ。こんな寒い公園に柚を連れ出すんじゃねーよ。柚の病気が悪化したらお前達を容赦しないからな」
柊梢と橘梓の顔から表情が消える。そしてヘラヘラして雰囲気がなくなった。橘梢がイヤな笑い浮かべている。
「同じ学校の卒業生で、同じクラスだったから、ちょっと遊んでやろうと思ってやったのに、図に乗るんじゃないわよ。本当はあんたみたいなモヤシなんて興味なかったよ。あんたみたいなモヤシなんていらないわ」
柚が大声を出す。
「圭太のことをモヤシっていうな。圭太はいつも温厚で優しいだけよ。圭太に謝って」
僕は手で柚を止める。
「僕のことは何を言われてもいい。今後、柚にちょっかいをかけるな。もし柚にちょっかいをかけたら、お前達を容赦はしない。僕はそんなことはしたくない。だから、柚と夏希にちょっかいだすな。そして、僕にも近づくな。2度とお前達とは話すことはない。それだけだ。行こう、柚、夏希」
僕は無意識に柚と手をつないで公園を出る。夏希は俊輔と手をつないで僕達の後を歩く。公園に残された柊と橘は「クソーー!」と大声で喚いたが、僕は柚を連れて足早に予備校へ戻った。
そして、予備校の廊下で立ち止まって柚を見る。
「僕のことで公園に行かせて、迷惑をかけてごめん。でも柚、君の体は寒暖の差に弱いんだ。あんな寒い公園に行ってはダメだよ。これからは、あの2人に呼び出されても無視してほしい。そして僕に教えてほしい。僕もあの2人のことを徹底的に嫌いになったから、あの2人ともう拘わらないから。僕のことよりも柚の体のことを優先してほしい。瑛太さんとも柚を守るって約束してるんだ。僕も柚が心配だ」
柚は何も言わずに顔を真っ赤にして僕の顔を睨む。
「さっき言ってたことは本気なの?」
「何のこと?」
「圭太が私に惚れてるってこと」
え!僕そんなこと柚の前で言っちゃったっけ?確かにあの2人に頭にきてたから、言ったかもしれない。どうしよう!
覚悟を決めて柚に話すけど、僕の心はドキドキしている。顔も真っ赤になっているのがわかる。
「公園で言ったことは全部、本気だよ」
「ふーん、あの2人のことは前から私も気に入らなかったの。だから呼び出されてついて行っただけ。確かに私の病気を悪化させる可能性もあったかもしれない。軽率だったわ。私の病気のことを気遣ってくれて、ありがとう。これからは、あの2人に呼び出されても無視するわ。そして圭太に報告することにする」
なんとか切り抜けられたのかな?それとも僕の気持ちって、柚にスルーされたのかな?すごく不安になってきた。俊輔と夏希は僕達を見て、ニヤニヤと笑っている。
「教室へ行くわよ。もうすぐ授業が始まっちゃう」と言って、柚は顔を赤らめて足早に歩き始めた。その時に僕の右手小指に柚の左手小指が結ばれる。そして小指同士で繋がったまま、柚が前に立って足早に歩いていく。僕は急いで柚の斜め後ろへ付いていく。しっかりと柚が僕の小指をギュッと絡めている。僕も柚の小指を離さない。
柚の顔が耳まで赤く染まっているのがわかる。柚は僕の言葉をきちんと受け取ってくれていたことを悟る。そして指を繋いでくれたことで、すごくドキッとするし、嬉しかった。
柚は前を歩きながら、僕に聞こえるだけの声で『圭太、来てくれてありがとう』と呟くのが聞こえた。そして2人で指を繋いで教室の中へ入っていく。何事もなかったように4人共座席に座る。講師が教室に入ってくるまで僕と柚は小指を繋いだまま、お互いに顔を真っ赤にして目を合わせることができなかった。繋がっている小指がすごく暖かい。
本日の更新はここまでといたします。
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この作品を読んで柚が圭太の心を知った瞬間です。小指のつながりから始まります。
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