11話 迷惑な2人
予備校の教室へ入って、いつもの席へ座ろうと歩いていくと柊梢と橘梓の2人が僕に手招きをしてくる。二階堂高校でも有名だったビッチギャルの2人だ。僕に何の用だろう。僕は柊梢と橘梓の座っている席へ向かう。
2人の近くへ行くと柊梢と橘梓はキャッキャとはしゃいでいる。橘梓が声をかけてきた。
「柏木、久しぶりじゃん。同じ学校出身で同じクラスだったのに、あんまり柏木と話したことなかったよね。もしかすると私達って、柏木に敬遠されてたのかな?高校の時もあんまり話してくれなかったしさ」
はっきり言ってビッチギャルで有名だった2人のことは少し苦手だった。それにいつも男子の取り巻きが2人を取り囲んでいたから、近づく機会もなかったし。
柊梢が上目遣いで僕を見てくる。少し目がウルウルさせて、唇が濡れている。
「私達さ、同じクラスの時から柏木と仲良くしたかったんだよ。知らなかったでしょ。今からでも遅くないじゃん。私達と仲良くしてよ。柏木ってなかなかイケてるじゃん。あんまり自分で自覚してないみたいだけどさ」
僕がイケてる?そんな自覚はあんまりない。僕の外見は少し明るい茶髪のマッシュショートカットの髪型で、小顔かも。 涼やかな二重まぶた、優しい瞳、鼻筋の通った小鼻、薄い唇で、花楓からは優しい顔と良く言われるけど、身長も平均並みだし、色白で不健康だし、自分でイケてると思ったことはない。いつも清潔にはしているつもりだけど。
「褒めてくれてありがとう」
柊梢が甘い声で誘ってくる。媚びるような甘い声。
「ねえ、ねえ、これから私達と授業をサボって遊びに行かない?3人で気持ちいいことして楽しもうよ」
やっぱり授業をサボるお誘いか。授業をサボるくらいなら予備校まで電車で来てないよ。
「ゴメンだけど、授業には出るよ。せっかく電車で予備校まできたんだし、授業が遅れると困るから」
橘梓がわざと胸を強調するように座って、僕を見上げてくる。少し大きい胸に見せてくる。
「わかったわよ。だったら、今、私達、わかない問題で悩んでたんだ。少し勉強を教えてよ」
勉強を教えるくらいなら仕方がない。2人は間の席を開けてニコニコと笑っている。座る所が2人の間しかないので、苦手だけど、2人に挟まれるように席に座る。
2人はテキストとノートを僕の前に置いて、体を密着させてくる。橘梓の胸なんて、僕の肘に当たっているけど、全然、気にしていないようだ。柚と違った香りが2人からする。すごく香りが濃い。
あまり長居はしたくないから、手早く2人のわからない問題を解説して、要点をノートに書き込んであげる。2人の問題を解き終わると、2人はすごく嬉しそうな顔をして、僕に抱きついてくる。
「柏木に教えてもらって正解。講師の先生よりわかりやすい。これから一緒に私達の席で、一緒に授業を受けようよ。いつも柏木は違う高校の卒業生と一緒にいるみたいだけどさ。私達と一緒のほうが楽しいよ」
2人と一緒にいると面倒事に巻き込まれそうな気がして仕方がない。本当に遠慮したい。
「この予備校に来てから仲良くなった友達なんだ。仲良くしてもらってるから、向こうで授業を受けるよ」
「あのツンツンした、少しきれいな女子が目当てなんでしょ。あんなツンツンした女子より、私達と一緒いたほうが、いろいろと楽しいよ。学校帰りにでも一緒に遊びに行けるしさ」
橘梓がまだ僕のことを誘ってくる。柚のことを悪いように言わないでほしい。表情には出さないけど、かなりイヤな気分になり不機嫌になる。
「柚はツンツンなんてしてないよ。ただ恥ずかしがり屋で、照れ屋で、臆病なだけだよ。悪く言わないでくれ」
「名前呼び出し、庇ってるし、超怪しいんですけど」
そんなことを3人で言い合っていると、柚が教室に入って来て、僕たちのほうを一瞬だけ睨んで、機嫌悪そうにいつもの席まで歩いて行って、席に座った。僕も自分の席にいかなくちゃ。
「2人にはわからない問題を教えたから、もういいよね。僕は自分の定位置の席に行くから」
柊梢が僕に腕を絡ませて、僕が席を立とうとするのを止める。橘梓も同じように腕を絡ませてくる。2人の体はぴったりと僕に密着している。2人の柔らかい胸は僕の体に密着してムニュっとなっている。
女子にこんなに密着されたこともないし、女子の胸の柔らかさと温かさをこんなに感じたことは初めてだ。体に緊張が走る。2人はクスクスと笑っている。柊梢が僕の耳元で笑う。
「女の子とこんなに密着したことないっしょ。私達の胸の感触はどう?気持ちいい?一緒に授業を受けてくれたら、この状態で授業を受けてあげるよ。予備校が終わったら、繁華街へ遊びに行こう」
こんな状態だと、とても授業内容を頭に入れる自信はない。こんな状態を長い間、柚に見られたら、きっと嫌われてしまう。それは柚に恋をしている僕としては絶対にイヤだ。
「からかうのはやめてほしい、こんな状態だと授業に身が入らないから、いつもの席に戻るよ」
2人の腕から強引に自分の手を抜いて、鞄を持って席を立ち、自分の定位置の席へ向かって歩く。
2人はまだ何か言いたげだったが、僕は何も聞く気がなかった。そして柚の隣の席に座る。柚は机の上にテキストとノートを開いて、僕の顔を見てくれない。
「もう、あの2人との用は終わったの?まだ圭太のことを見ているけど?」
「ああ、いいんだ。2人に勉強のわからない問題を教えてほしいって、頼まれたから教えていただけだから。もう用事は終わったよ」
僕は柚の機嫌を損ねないように、なるべく優しくいう。
「そう、別に向こうで彼女達と一緒に授業を受けてきても良かったのに」
「そんなのイヤだよ。僕は柚の隣がいい」
柚の顔が少しハッとしたような顔をする。段々と顔が耳まで赤く染まっていく。口を尖らせて恥ずかしそうだ。
「そんなこと言わないで、向こうで座っていればよかったに。バカ」
「僕は柚の隣がいいんだ」
何も言わずに柚が僕の足を踏む。照れ隠しなのはわかっているから、僕は気にしない。すると柚が少し僕から体の距離を取る。
「圭太からすごく甘い香水の香りがする。私、その香り好きじゃない。今日は私に近寄らないでね」
そんな、あの2人のせいで柚に避けられるなんて、僕にとっては不幸だよ。僕は立ち上がって、少し柚から距離を取って、コートを脱いで、パンパンと何度も叩く。これで少しは香りがマシになったかな。今日はコートを脱いでおこう。コートを脱いだまま、柚の隣に座る。
「少しは香りがマシになったかな?今日はコートを脱いでおくよ。後からもコートを叩いておくし」
「バカ」
そう言って柚は僕の隣の定位置に戻ってきてくれた。そして僕を見て少し睨む。
「コートを着てないと寒いわよ。私のせいで風邪をひかれたらイヤだから、コートは着て。匂いは我慢するから」
ありがとう柚。僕を許してくれて。今日も柚の勉強に協力するよ。
僕は席を立って、コートをもう一度叩いて、コートの香りと取る。そしてコートを羽織って、柚の隣の席に座った。
「なんだか、あの2人、圭太と仲良くしたがっているよう思うけど、圭太はこの席でいいの?」
「この席でいい。実は僕はあの手の女の子が苦手というかイヤなんだ。昔から苦手であんまり話もしたこと、なかったんだけど、予備校に来て、あの2人も知り合いが少ないから、僕に声をかけてきたんだと思う」
高校の同じクラスの時には、本当にあんまり話したことがないのだから。
「フーン。圭太は全くあの2人には興味はないのね」
「ああないよ」
僕はしっかり柚の横顔を見て言い切った。一瞬だけ柚の顔が綻んだように見えたのは、僕の錯覚だろうか。僕は柚のことが大好きだ。




