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炉亜の問答

風邪で2日ほどダウンしていました。連載を再開します。

 流彦たちは公園でこれからどう動くか話し合った。その結果、火廷に沙羅の保護の申し立てをすることになったのである。

 旧来の名家である東伝家ならば、いきなり実力行使には及ぶまいと考えていたが甘かったようだ。


火津年(かつとし)は弟を押さえつけきれなかったみたいだね」

 蹴陽はテレビを見ながらそう言った。

 テレビは玄関前に設置したカメラの映像を映している。

 玄関の前にひろがるピロティをゆっくりと炉亜が歩いていく。


「ハッ、やっと出てきやがったか」

 鉄球を受けていくつものクレーターができた前庭で、緋都(ひいと)は仁王立ちで炉亜を迎える。

 十メートルほど間合いをとったところで、炉亜は緋都と向き合った。


「こんばんは。東伝緋都さま。今日はどういったご用向きで?」

 炉亜が穏やかに語り掛ける。

「紋戴児のガキと、この俺をコケにした奴はどこだ?」

 緋都は、そう忌々しそうにつぶやく。

 奴の大きな鼻の上には、白くガーゼが当てられている。


 炉亜はわずかに首を傾げて答える。

「紋戴児のガキ、と、あなた様をコケにした奴……なんという名前のものでしょう?」

 緋都は苛立たし気に舌打ちをする。

「んなもん、知るかよ!」

 炉亜は小さく首を振る。

「申し訳ありませんが、緋都さまがご存じないものをわたくしが知っているはずはないと思いますが――」


 その言葉を遮るように炉亜の隣を鉄の風が通り抜ける。

「ざけんなよ!てめぇらが匿っていることは分かってんだ!」

炉亜は玄関の扉やバルコニーを破壊したのを横目で見やった。


「緋都さま、紋戴児のほうは紅沙原沙羅といいいます」

 緋都の部下がそう耳打ちすると、緋都はまた舌打ちをして

「おう、そうだ沙羅ってガキだ」

と言った。炉亜は再び首を振り、

「残念ながら、存じませんわね」

と答える。緋都は唾を吐き捨てると、屋敷へ向かって歩き出す。しかし、3歩と歩かないうちに、


「申し訳ありませんが、お通しできません」

「なっ!」


 緋都の眼前には、炉亜の姿があった。

 いつの間に移動したのか、と緋都は驚愕の表情を浮かべ、

「ちぃ!」

 慌てて後ろへ飛びのく。


「すごい……」

 テレビで見ていた沙羅が驚きの声を上げ、何度も瞬きをする。

「これくらい親父には造作もないことだ」

 流彦は、なんでもないといった風で平然としている。


「もし誰かお探しであれば、火廷でお尋ねになっては?」

 炉亜はあくまでも丁寧に諭すが、

「ハッ、誰が狗の手なんぞ頼るか!てめぇがそこをどけば済む話なんだよ!」

 緋都はあくまでも強気だ。


 炉亜は静かにため息をつく。

「……彼我の実力差がわからぬほど愚かな方ではない、と思っていましたが。見込み違いでしたか?」

 そう言って羽織っていたコートを脱ぐと、一気に火気の量が増した。


 長身の体から白く鮮やかに舞い上がる炎に、

「ぐっ……」

 さしもの緋都も冷や汗をかき始める。


 と、そこへ

「待たれよ!」

 鋭い声が飛び込んできた。

 炉亜が9時の方向に目をやると、一台のヘリコプターがこちらに向かってくるのが見えた。


「蓮杖炉亜殿。愚弟の非礼は、この火津年がお詫び申し上げる。どうか矛を収めてはくだされないか」

 機内マイクから呼びかけているのは、東伝火津年本人のようだった。


「お、お守り役が出てきたね!」

と蹴陽が興味深そうに身を乗り出す。炉亜は片眉を上げて

「ごきげんよう、火津年さま。わたくしもそう礼儀についてうるさいほうではございませんけど、せめてノックの仕方くらいは弟君にお教えになったほうがよろしいかと」

と応じた。


 機上の火津年は、む、と一瞬言葉に詰まったようだったが、

「それについては、重ねてお詫びいたす。本当に申し訳ない」

 あくまで低姿勢は崩さない。


 炉亜は一歩下がると、火津年の乗ったヘリのほうに向きなおった。

「緋都さまをお引き取りいただけるということでよろしいですか?」

と問うと、


「おい、兄貴っ!俺はこのまま引き下がるつもりなんてねぇぞ!」

 緋都も負けじと食い下がるが、

「少し黙っておれっ!己が敵う相手でないことぐらいわかっておろう。つまらぬ意地で

これ以上、東伝の家名に泥を塗る出ないぞ!」

 火津年には珍しいほどの怒気に、緋都もぐっと言葉を飲み込み、横を向いて黙った。


「……今回のことは、確かに我が弟の愚挙だが、根拠がないというわけではない」

 一呼吸おいてから、火津年はそう話し始めた。


「その紅沙原沙羅という少女については、今朝がた火廷から連絡があり、引き渡しを受けたものだ。火廷は昨晩、某所で倒れていたのを発見して保護したとのことだった。それまでどこで何をしていたのか、火廷も知らぬと言ったが、それは偽りだと我々は判断した」

 そして、低く強い声音で続けた。

「紅沙原沙羅は、昨夜、蓮杖家にいたのではないか?」


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