生き残る道
流彦が蓮杖家から出る、と話すと、一瞬場が静まり返った。
「な、何を言ってるんですのっ!」
口火を切ったのはうる香だった。
「お、お兄様は自分が何を言っているのか分かっているんですの!?」
立ち上がり、顔を真っ赤にして問い詰める妹を、流彦は見つめ返す。
「あぁ。これは俺がしでかしたことだからな。けじめはつける」
「そうじゃなくって!!」
うる香は幼子のようにダダンと地団太を踏むと、
「わ、若い男女が二人きりで一つ屋根の下で暮らすだなんて、そ、そんな破廉恥なことは認められないと言ってるんです!」
「え、そういう問題なの?」
うる香の隣に座っているコロナが首を傾げると、
「そういう問題ですわ!……も、もしお兄様に何か間違いが起きたら――」
一体何を想像したのか、うる香は、ああああぁと言いながら赤く茹で上がった頬を両手で包み、文字通り頭からボンと煙を出すと、その場に頽れそうになる。
それをサンティアが後ろから抱きかかえる。
炉亜ははぁ、とため息をつくと、
「サンティア、うる香ちゃんを介抱してあげて」
と命じた。忠実な家事ロボットは、
「はい、仰せのままに」
と答えると、うる香を抱きかかえて退室していった。
「へへっ、うるちゃんも意外にウブだよねぇ~」
と蹴陽は笑うが、炉亜はそれを顧みることなく
「沙羅ちゃんを連れて、どこかに身を隠そうというわけね?でも、いつまで?」
と流彦に尋ねた。
勿論、永遠に潜っているなんてそんなことはできない。
「還ってくる前に影待課長とも話していたんだが、紅沙原を蓮杖家で保護する、という申し立てを火廷に起こしたらどうかと言われたんだ。そのうち東伝家からもコイツを取り戻したいって言ってくるはずだ。双方の意見がぶつかれば火廷での裁判に持ち込まれる」
「……裁判ね。東伝家が火廷を頼ったりするかしら」
火廷を狗よばわりする家が、と炉亜は疑問を呈する。
「緋都はともかく火津年ならそうするだろう」
現在、高齢のために半ば隠居している現当主に代わって実質的に東伝家の権力を握っているのは長兄の火津年だ。
沈着冷静で知られる彼ならば、仮に実力勝負になった時に東伝と蓮杖のどちらに軍配が上がるかは承知しているはず。
ならば、無駄に血を流すよりも法廷で争った方が得、と考えるのではないか。そう流彦と穂親は推測したのだ。
「つまり、裁判がひと段落するまで匿うというわけね。……向こうの正当性が認められて結局東伝に戻る可能性もあるわけだけど」
炉亜がそう言って沙羅に視線を向ける。
沙羅はひと呼吸置いてから口を開いた。
「その時はその時、と思っています。公正に裁いていただいた結果ならば、受け入れようと」
沙羅の瞳は澄んでいた。
「あの場で殺される、と思ったときは目の前が真っ暗になりましたけど。……でも、こうしてまた命を助けていただいて、生きるチャンスがまだあるのなら、もう少しがんばれるんじゃないかなって」
そう微笑む少女。
けれど、痛々しい心の影は隠し切れていない。
「そんな……そんなこと言わないで!」
コロナは沙羅のひざ元に駆け寄った。
「裁判、絶対勝とうよ!だって、沙羅ちゃんは何も悪いことしてないもん!」
「コロナさま……」
沙羅は瞳を潤ませる。
「私も応援するから。沙羅ちゃんがちゃんとここに居られるようにがんばるから!」
蹴陽も二人の身体にぎゅっと飛びつく。
「そうそう、心配することないって。まー、仮にダメだったとしてもさ、そんときは火廷まるごと敵にまわしてでも戦って沙羅ちゃんを守って見せるから!」
蹴陽はそう言ってにひひ、と笑う。
「いや、お母さんの職場も火廷なんだけど?」
と突っ込みをいれるコロナ。
「……あなたたちの考えはよくわかったわ、流彦」
炉亜はそう言うと、天井を見上げて瞳を閉じる。
「まぁ正直穴だらけのプランだけど。何も考えていないよりはマシ、かしら」
「親父……」
認めてもらえるか、と息を詰める流彦。
そこに、ズズンと地響きの音が聞こえた。
ハッと身構える一同。
「まさか……!」
そう呟いた流彦の耳に、大鐘のごとく声が鳴り響いた。
「オラァ!クソどもが!さっさと出てこい!」
東伝緋都の声だった。
次回は、本日13時前に投稿します。




