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氷龍迎撃戦 1

遅くなりました、よろしくお願いします。

 東伝家の邸宅は富士宮の郊外にある。郊外といっても単に中心部ではないというだけのことで、場所によっては繁華街と見劣りしないほどに賑わっている地区もある。

 

 東伝家の周辺などはその典型で、広大な敷地を誇る東伝の屋敷周りにはヒト族の家々がひしめき合う様に集まっている。近くには大型ショッピングモールやシネコン、遊園地などもあり平日でも多くの人でごったがえすのだが、今は辺り一帯がひっそりと静まり返っている。

 

 氷龍の発生予報により、避難命令が出たからだ。

 高台の上に建てられた東伝家では、既に戦闘準備が始まっている。特殊防壁に囲われた()の先端では対氷龍用砲台が旋回し、防壁内を多くの人々が行き来している。東伝に雇われている銃者たちだろうか。


 そこから少し離れた所に、蹴陽(けるひ)の乗ったサムシンオーがいた。

 ブーツの底から炎を噴出しながら空中で腕を組み、下界を眺めていたが、大鷲になった流彦が近づくと気づいたらしく、こちらを振り返った。

「るーちゃん……」

 驚きに満ちた声に、流彦は

「お袋、さっきはすまねぇ……」

と詫びるが、蹴陽はフフっと笑った。


「今はいいよ、その話は。それよりも沙羅ちゃんのことなんだけど」

 母によると、さっき沙羅の携帯に連絡を入れたらしい。

「はい、どちらさまですか?」

 聞こえてきたのは、別の女の子の声だった。沙羅の同僚だという彼女は

「沙羅ちゃん、火廷に保護されて戻ってきたことを咎められて、独房に入れられてしまってるんです……この携帯も上の人に没収されて私が預かることになったんです」

と答えた。

「独房?」

「はい。私たち使用人は既にシェルターに避難したんですが、沙羅ちゃんだけいなくて。おそらく忘れられてまだ屋敷内に閉じ込められてるんじゃないかと思うんですが」


「マジか……」

 いくら下っ端だからって忘れるとか扱いがぞんざい過ぎるだろ。いや、いきなりの緊急事態で動転していたのかもしれないが。

 状況を説明すると、蹴陽は流彦にこう言った。

「とにかく私はここで氷龍を食い止める。るーちゃんは東伝の屋敷に潜り込んで沙羅ちゃんを安全なところまで連れて行って」

 

 流彦は斜め後ろの東伝家を振り返る。うちのボロ屋敷とは装備に歴然の違いがある。

「あれでも持ちこたえられないってのか?」

「万が一を考えればね。火族の館の近くまで氷龍が来るってのもあまりないことだし」

 蹴陽はそう言いながら上空を一瞥すると、

「まぁ、そういうわけだからお姫様の救出は頼んだよ!」

と言ってサムシンオーの親指をぐっと立てた。

 

 いつもの不敵で自信満々なお袋に戻っている。

 任せても大丈夫そうだな。と流彦は判断して頷くと、翼を翻して屋敷の方へと降下した。

 屋敷そばの小さな森に降り立つと、変身を解除する。

 続いていかにも東伝家にいそうな黒服の男へと変身すると、森を抜けて屋敷への道を駆け上がり始めた。


 すると、東伝家が上空の蹴陽に向けて声を飛ばすのが聞こえてきた。

「こちらは東伝家の銃者隊です。蓮杖蹴陽様とお見受けいたしますが、当家はこれより対氷龍の戦闘態勢に入ります。こちらの射線上に入られては、迎撃の妨げになりますので、お下がりいただくようお願いいたします」

 

 声の調子からして東伝家に仕える執事の一人だろうか。

 丁寧な物言いだが、要は邪魔だと言っている。

 蹴陽はフンと鼻で笑って答える。

「せっかくのお言葉だけどね、こっちにもこっちの事情ってものがあるの。悪いけど好きにさせてもらうからねぇ」

 反論されるとは思っていなかったのだろうか、マイクの向こうの相手が一瞬息を呑む間に、また別の声が飛んできた。


「ハッ、そんな蚊トンボごときほっとけよ!」

(この声、東伝緋都(ひいと)か)

 流彦は走りながら東伝家の屋敷に目を移す。

 正門の大きな扉が開き、その中心に炎を纏った人影が見えた。

 

 その後ろにはあたかもコンサートステージのように巨大なスピーカーが設置され、声はそこから響き渡っていた。

 大型のオーロラスクリーンには、二十代前半ほどの一人の男が太い鉄鎖を担いでいる姿が写っている。

 襟足の長い金髪をなびかせ、端正な顔に鋭い目つき。薄い唇を開くと鋭い牙が覗いた。

 筋肉質の体は高級そうな白いスーツに包まれている。

 

 東伝家当主の次男、「炎万(えんばん)」の緋都の登場である。

 蹴陽が言っていた東伝のセクハラ野郎とはこの男のことである。

 奴が担いでいる鎖の先には、身長の3倍はあろうかという鉄球がつながっている。   


 緋都は鎖を引いて鉄球を引きずると、正門前に突き出した円舞台の上に立った。

轟音とともにその舞台は動き出す。舞台を取り巻く8個の巨大プロペラによって空に浮かんだ特製ドローン。

「この緋都様が貴様らごと氷龍をぶっ潰してやる!」

 不敵な笑みを浮かべながら、緋都は蹴陽たちの横を通り過ぎ、その斜め前方に陣取った。


「緋都。あまり前に出るな。敵にかいくぐる隙を与える」

 落ち着いた声が割って入った。

 東伝家長男の火津年(かつとし)だ。

「うるせぇなぁ。兄貴は兄貴らしく引篭ってバリアー張っときゃいいんだよ」

 緋都は口元を歪めてそう嘲っている。


 「は~っ、素敵な兄弟愛だねぇ。お姉さん泣けちゃうなぁ~」

 蹴陽がからかうと、

「人様の縄張りン中で、いつまでも囀ってられると思うなよ、下級火族が」

 緋都が睨みつけてくる。

「はいはい、お庭が広くてよろしゅうございますわねぇ、上級のおぼっちゃまは~」

 

 やがて、ガラスをひっかくような耳障りな音が聞こえてきた。

(来る……!)

と思う間もなく、暮れ始めた空がぱっくりと『割れた』。

 吸い込まれそうに暗い亜空間から、無数の氷龍が飛び出してくる。

「!」

 予想外の多さに、緋都が叫ぶ。

「ンだよ、これは!Aランクってレベルじゃねぇぞ!」


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