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月夜の語らい

「すみません、起こしてしまいましたか?」

 沙羅の申し訳なさそうな声に、

「いや、バカどもが寝床を燃やしたせいで眠れねぇだけだ。気にすんな」

「お気持ちお察しいたします。……私も枕が違うとなんだか寝付けなくて……」

 そう苦笑する少女は薄いピンクのパジャマを着ている。コロナの持ち物だが、サイズを間違えて買ってしまったのを大事に持っていたらしい。こんな形で役立つなんて、とコロナ本人は喜んでいた。


 沙羅が部屋に入ってくると微かにシャンプーの香りがした。

 流彦とは少し離れた所のスツールにそっと腰かけると、窓の外を眺め始めた。

 青い月光が紅の髪に映えて不思議な綾を成している。

 その横顔を眺めていると、少女は口を開いた。

「あの、今日は本当にありがとうございました。流彦様は不本意でいらっしゃったと思いますけど、私は皆さまとお話しできて、お食事まで一緒にさせていただいて、夢のような時間でした」

 思い出を噛み締めるような表情の沙羅。


 流彦も今日彼女と会ってからの出来事を思い返していた。特に印象に残っているのは、蹴陽とうる香の喧嘩を止めたところだ。蹴陽の嗜好をよくつかみ、彼女の懐に上手く入ったのは見事だった。

 喧嘩が再燃しそうになったときも、沙羅の行動が助けになった。

「自分に非があれば謝る」という、それこそ蹴陽の愛するヒーローものの教訓を率先して示したことが、母の心を動かしたことは間違いなかった。


 流彦はふと思ったことをたずねた。

「もしかして、お前が『サムシンガー』を好きなのって、ウチのお袋の影響か?」

 沙羅は、はい、と頷いた。

「だって、好きな人が好きなものは自分も好きになりたいですから」

 そんなものかな、と流彦は思う。この調子だと、うる香のスイーツ好きも真似しているのだろうか。


「銃者になりたいのは、お金を稼ぎたい、というのもありますけど、それと同じくらい憧れの人に近づきたいって思いもあって。キラキラと輝いている皆さんと少しでも近い気持ちになれたらって……えへへ、ミーハーすぎますかね?」

 そう言ってちょっと舌を出して沙羅は屈託なく笑った。


「……もし、お前がそう思うのならば、さっきの蹴陽の申し出は、願ってもないチャンスだったはずだぜ」

「……」

憧れの人に、自分の傍にいてほしいと言われる。これほどの幸せはないだろう。

 けれど、少女は炉亜の決定に大人しく従った。

「あのときお前も、この家にいたいと言えば、お袋はどんな目に遭ったとしても親父に盾突いていただろう」

 そう言うと、沙羅ははにかんだ。


「フフッ、いくらなんでもそこまで自惚れてないですよ、私。それに憧れの人だからこそご迷惑はかけたくないんです。これからちゃんと立派な銃者になって、皆さんの足手まといにならないくらい強くなって……それからでないと、あなた方の傍にいる資格なんてないですから」


 そう言って前を向く少女の瞳は、どこまでも透き通って見えた。

 だからこそ、流彦は改めて言っておかなければならないと思った。

「……今日のお前さんには随分と助けられた。だから、礼代わりに一つ忠告しておく」

「なんでしょう?」

 突然の言葉に、沙羅は不思議そうに振り返った。


「火族の血を注ぐ相手を選ぶに当たって一番重要なのは、その対象が「火」について耐性があるということだ。どれほど武勇に優れていたとしても、火族の血で体の中が丸焦げになっては意味がないからな。それゆえに、真っ先に輸血の実験台になったのは紋戴児だった」

 流彦は、そこで立ち上がり少女の瞳を見据えた。

「まぁ、当然のことだ。無能力者とはいえ火族の端くれには違いないからな。けれど、実験は全て失敗だった。火族の血を受けた紋戴児はことごとく燃えて死んだ」

「……!」

 慄然とした表情の少女から目を逸らし、流彦はリビングの扉へと向かう。

「だからな、悪いことは言わない。銃者なんてやめておけ」

 そう言い捨てると、扉を閉じた。


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