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親子喧嘩は炎とともに

 火族は、一人一人が固有の能力を持っている。いずれも、炎や熱、光といった「火」に類する事象を伴うものだが、時に個性的な能力となって現れる場合がある。流彦の「化捏」もそうだが、蹴陽の能力、「暑駆」もなかなかの変わり種と言えるかもしれなかった。


 彼女の武器は、巨大なロボットだ。

 全高15メートルにもなる超合金の駆動甲冑で氷龍に立ち向かう。

 そのエネルギー源は蹴陽自身が放つ膨大な「熱」。

 その熱はロボットの持つ武器にも伝導し、敵を溶かし切るヒートエッジを作っている。

 今もまた、フリスビーのように操っている円盤はその縁を真っ赤に光らせながら、宙を舞っていた。


 そして襲い来る円盤を軽い身のこなしでよけているのは、一匹の獏だ。

 体長3メートル。黒と白のコントラストの身体の背中にはうる香が乗っている。

 獏は炎を纏った四本の足で宙を駆け抜けると、蹴陽のロボット目掛けて、鼻から一気に紅蓮の炎を噴出させる。伝説の神獣を操るうる香の能力は「博獏」と呼ばれていた。

 

 うる香の愛獣「ヘラクレス」の炎が蹴陽の「サムシンオー」に直撃するが、

「フン、そんなもの効かぬっ!」

 ロボットに内蔵のスピーカーから蹴陽の声が聞こえ、銀に光る右腕が炎を振り払う。

 右腕にもった黄金色の剣が獏めがけて襲い掛かるが、うる香はそれを難なくよける。

「ハッ、あくびが出ますわ!」

 うる香は高らかに笑って母を挑発した。

 文字通り火花散る攻防は、すっかり闇に包まれた山麓の空に、美しく炎の軌跡を描いている。


「……」

 初めて見る光景に、言葉もなく見つめる沙羅。

 だが、流彦はもう気が気ではなかった。このままではいつ屋敷に被害が出るか分かったものではない。現場目掛けて飛びながら、

「おい、やめろーっ!」

と叫んだが、二人の耳に届いている様子はない。やはりバカどもの耳元に行って怒鳴りつけるしかない。


 すると、屋敷の扉が開いて、前庭に進み出てくる人影があった。サンティアだ。

 流彦が前庭に着地すると、この忠実なガイノイドは

「お帰りなさいませ、流彦様」

と迎えてくれた。流彦は沙羅を降ろすと

「コロナは?」

と尋ねた。恐らく自分の愛する野菜たちのために菜園へと駆けて行った妹が心配だ。


「ご無事でいらっしゃいますよ」

と返すサンティアに、流彦は

「こいつを預かってくれ」

と沙羅のほうを指し示した。

「あ、は、はじめまして。沙羅と言います」

と慌ててあいさつする沙羅に、サンティアも深々と礼をした。

「初めまして、サラ様。サンティアと申します。……ご友人でいらっしゃいますか?」

 後半の言葉は流彦に向けたものだ。流彦は

「話せば長い。まずはあのバカどもを止める」

 そういって、再び舞い上がる。


「あ……!」

 沙羅は思わず流彦へと手を伸ばすが、流彦は猛烈な風圧を残して、屋敷の裏手へと飛んで行った。

「沙羅様、どうぞこちらへ」

 心配そうに見つめる少女をサンティアは屋敷の中へと促す。

「流彦様なら大丈夫でございます。あの方はいつも冷静沈着ですから、きっとお二人をなだめてくださいますよ」


「なんじゃこりゃあ!!」

 屋敷の裏側を見た流彦は思わず、怒りの声を上げていた。

 2階の中央部分の一部がえぐれ、焼け焦げた無残な姿をさらしている。

 恐らく蹴陽の「フリスビー」が直撃したのだろう、細長く割れていのはちょうど流彦の部屋の部分だった。


「俺の……寝床……安らぎが……」

 つい先日購入したばかりのテンピュールベッドも既に灰塵と帰していることに、流彦の頭は真っ白になった。

 まるで伴侶を失ったかのような(そもそもいないという突っ込みはさておき)喪失感にくずおれそうになる流彦だったが、

「……あいつら~~~~!!!」

 安眠の場所を永遠に奪われた怒りが悲しみを塗りつぶした。


「許さん!!」

 憎しみに身を焦がしながら、流彦は林を飛び越えて演習場へと突っ込んでいく。

 ちょうど先には、サムシンオーの後頭部が見える。

「おんどりやぁあ!」

 トップスピードに乗った流彦は、瞬時に大鷲から鉄球へと変身して、ロボットの首元を直撃した。

「んがぅ!!」

 ゴォンと鈍い音とともに延髄を打たれたロボットは呻きとともに前方へと吹っ飛び、溶岩の荒れ野に顔から突っ込み、動かなくなった。


「お兄様!」

 突然の兄の登場にうる香が驚きの声を上げる。サムシンオーから転がり落ちた大鉄球は、少年の姿に戻ると、歯をむき出しにして吠えた。

「うるせぇ!この落とし前を付けるまでは親もきょうだいもねぇと、そう思えっ!」

 そういって流彦は母娘に指を突き付けた。身体からは蒸気が陽炎のように立ち上っている。

 兄から怒りを向けられたうる香はうっ、と喉を詰まらせ一瞬怯んだ表情を見せたが、すぐに高飛車な態度を取り戻した。


「い、いきなりなんですの!?……そもそも、お兄様がわたくしに酔っ払いを押し付けるようなことをしなければこんなことには――」

「だから、待ってろっていったろうが!」

「事情も分からずちんたら待ってるわけありませんわ!本当にいっつもお兄様は一言も二言も足りないんですから」

 上から目線の妹の言葉に流彦もヒートアップする。

「っせぇ!妹ならそれくらい察しろ!」

 すると、うる香はぷふーっと可笑しそうに噴出した。

「あぁらぁ~、さっきまできょうだいも何もないって言っておられたのはどこのどなたですのぉ~?ひょっとしてバカなんですのぉ~?」

「てめぇ、ここまで降りてきやがれっ!さもないと――」

 流彦の言葉は地響きで遮られた。

 倒れ伏していた蹴陽が起き上がったのだ。鋼鉄の巨人はゆっくりと振り向くと、流彦に太い指を突き付けた。

「後ろから襲うとはひきょうものっ!お母さんはそんな風に育てた覚えはないぞっ!!」

 母の言葉に、流彦はへっ、と嘲りを返した。

「そういうのは、まともに子育てをしてから言うこったな、ヒーローバカ」

「なっ……ヒーローをバカにするなぁ!!」

 蹴陽は途端に涙声になって地団太を踏み始める。グラグラと激しく揺れる地面に転げそうになりながら、流彦は声を張り上げる。

「ヒーローじゃなくて、お袋がバカだっつってんだよ!!」

 ったく、まだ酒が抜けてねぇのか!?

「このサムシンオーの力を、見せてあげるんだからぁ!」

 そう言って両の手につかんだ鉄のフリスビーをふりかぶる。

「あ、よせっ!」

 これ以上周囲に被害を出されてはたまらない。と手で制しようとしたとき、


 ふいに大音量で歌が聞こえてきた。

「これは……!」

 反射的にピタリと母陽の手が止まった。

 それは蹴陽が愛するアニメ「サムシンガー」のオープニングだった。

 やがて演習場に二つの人影が現れた。

 一つは、スピーカーの音量を最大にしたサンティア。そしてもう一人。

「お待ちください、蹴陽さまっ!」

 そう声を張り上げたのは、沙羅だった。


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