第21話:検証配信(前編)
「はいどうも、裏タツヤです。今夜はね、最近SNSでめちゃくちゃバズってる『白いノートと白菊』の都市伝説、あれの現場に来てます」
深夜一時。暗闇に包まれた県立高校の裏門近くで、タツヤはスマートフォンを片手に自撮りスタイルで生配信を始めていた。
画面の同接(同時接続数)は、すでに五千人を超えている。
『まじで行ったのかよw』
『不法侵入で警察呼ばれるぞ』
『例のノート出たらどうすんの?』
画面下に高速で流れるコメント欄を見ながら、タツヤは口元を歪めてニヤリと笑った。
「警察? 大丈夫だって、裏から敷地に入ってサクッと撮影してすぐ戻るから。それよりさ、昼間にあの事故があった教室の横を通ったんだけど、マジでヤバい雰囲気だったわ。女子生徒が発狂して階段から転げ落ちて死んだってやつ。まあ俺、霊感ゼロだから何も感じないんだけどね」
タツヤは懐中電灯で足元を照らしながら、校舎脇の非常階段を静かに登っていく。
目指すは、数日前に事故が起きた二階の教室前だ。
「よし、到着。ここが事故のあった二年B組の前ね。じゃ、噂の『白いノート』を呼び出すおまじない、やってみましょうか」
タツヤはスマホを三脚に固定し、教室のドアの前に立てかけた。
カメラの画角には、無人の廊下と、黒いパーカーを着たタツヤの全身が映し出されている。
「えーっと、噂によると『誰の物でもない白いノートを探してます』って三回呟いて、目を十秒閉じると……」
タツヤはニヤニヤしながらカメラに向かっておまじないを口にし、ゆっくりと目を閉じた。
『www』
『何も起きるわけなくて草』
『後ろ後ろ!(棒)』
コメント欄が煽り文句で埋め尽くされる中、十秒が経過した。
「はい、十秒経ちましたー! ん……? あれ?」
目を開けたタツヤの動きが、ピタリと止まった。
カメラに映る廊下には、誰もいない。何も落ちていない。
しかし、タツヤの視線は、自身の足元――誰もいないはずの床の一点に釘付けになっていた。
「え……何これ。誰か置いた……? スタッフ? いや、俺一人で来てるし……」
『どうしたタツヤ?』
『演技ヘタかよw』
『カメラには何も映ってないぞ』
「冗談やめろって! なんで足元に……真っ白なノートが落ちてんだよ!!」
タツヤの声が一気に上ずった。
彼は怯えたようにじりじりと後ずさりし、誰もいない廊下の床を指差す。
「映ってない!? 嘘つけよ! 目前にあるじゃん! 表紙も背表紙も真っ白な、ノートが……!」
三脚の上のスマホ画面には、誰もいない暗い廊下で、存在しない何かに怯えて叫ぶタツヤの姿だけが克明に映し出されていた。




